30 管狐 泣く
俺は管狐。
現在、お姉さんに木刀を向けられ、脅されている。
「いい? 着物を着る時はサラシを巻いて、胸が出ないようにすると、綺麗に見えるの。けっして、胸が無い訳ではないの。わかった?」
イエス、マム!!
「よろしい!」
ふう。お嬢ちゃんに習った敬礼が、役に立つ日が来るとは思わなかった。
初めて使ったけど、怒りが収まったってことは、使いどころはあっていたのか。
お姉さんはあやかしと胸の事になると、恐くなるから、絶対に触れないようにしなければな。
「それでヨウコちゃんのご主人様の件なんだけど……」
あ! そうだった。
あれだけ怒っていたのに、覚えていてくれたとは、やはりお姉さんは優しい人だ。
「管憑きの能力者を当たってみたんだけど、クリスティーナ・フラワー・ナターシャって能力者も、ハーフの能力者も見つからなかったの」
なんだって……
ご主人様が見つからないだと……
「そんな顔をしないで。占い師なんかは偽名を使う人も多いから、ヨウコちゃんのご主人様も、たぶん偽名を名乗っていたと思うの。その線でもう一度、探してみるわ」
偽名だったのか。
俺はご主人様の事を、何も知らなかったんだな。
もっとご主人様と話しておけばよかった。
「絶対見付かるわよ! だから、元気出して」
ああ。そうだな。
そもそも、ご主人様には零号ジイサンが付いているんだ。
その気になれば、向こうから見付けてくれるはずだ。
その気になれば……
もしかして俺は……
うぅぅ。
「ど、どうしたの? いきなり泣き出すなんて……え? 捨てられた?」
可能性はある。
うぅぅ。
俺はご主人様の仕事の役には立っていなかった。
気に入ってもらっていたと勘違いしていたのかもしれない。
「そんな事ないって! 管憑きは一生大事に育てるって聞いてるよ。何かの間違いで、居なくなったのを気付くのが遅れて、もう死んだと思われてしまったんだよ」
でも……
ご主人様が、一度でも占えば……
「そうだ! 明日、大規模なあやかし狩りがあるんだ。そこに一緒に行かない? 管憑きも来るらしいから、ご主人様の情報もあるかもしれないよ」
あやかし狩り?
危険じゃないのか?
「あやかしと言っても、毎年何度も狩っている場所だから、弱いあやかししか居ないの。初心者の霊能者を鍛える場所だから、危険はないわ」
なるほど。
その場所に行けば、何かしらの情報が手に入るかもしれないのか。
行きたい!
でも、お嬢ちゃんが……
「う〜ん。これから、ひよりちゃんの家に行って、私が説得してあげる」
お姉さん。
何から何までありがとう!
「明日が今から楽しみよね〜」
う、うん。
恐いから、木刀を握って、邪悪な顔はやめてくれないか?