03 管狐 妖狐?になる
俺は管狐。
現在、幼女と見つめ合っている。
「ママ〜。小さいキツネさんがいるよ〜?」
「また見付けたの? エライわね〜」
どうやら二人とも、俺の姿が見えているみたいだ。
普通の人間には見えないはずなのに、親子そろって霊感が強いのだな。
「それじゃあ、手を合わせよっか」
「うん! でも、そこじゃないよ〜」
あ、奥さんは見えてないんだ。
となると、このうまそうな霊気の正体は、お嬢ちゃんか。
ご主人様並みに、霊力が強い気がする……
「「なむあみだぶつ、なむあみだぶつ……」」
う〜ん……ご主人様が唱える呪文と違う。
だが、心なしか天に召される気分に……なっ!?
体が消えそうだ!!
どうなっている!?
これは……腹が減った時の感覚に似ている。
このままでは死んでしまう。
霊気を補充しなくては!!
俺は漏れ出る霊気の元に口を近付け、吸い込むが、一向に事態が好転する気配がない。
くそ!
何か方法は……そうだ!
このお嬢ちゃんの霊気を吸えば!!
俺はお嬢ちゃんの胸に飛び込み、霊気を吸い込む。
「キャッ!」
「どうしたの?」
「キツネさんが、抱きついて来たの」
「あらあら。仲良しね〜」
「うん!」
うまい!
これほどの霊気、ご主人様の側にいた時以来だ……
懐かしくて少し泣ける。
いやいや、今は体の心配だ。
体は元に戻ったようだ。
だが、お嬢ちゃんの手に収まって動けない。
そろそろ離してくれないか?
「じゃあ、帰ろっか」
「うん!」
いや、お嬢ちゃん?
帰るなら俺を降ろしてから帰ろうか?
う〜ん。降ろしくれそうにない。
それどころか、尻尾を握って振り回して歩いている。
ここは離すのを待って、逃げ出すとするか……うっ。
揺れがひどくて酔いそうだ。
と、考えていたが、逃げ出せないまま、家にお持ち帰りされてしまった。
どうしたものか……
お嬢ちゃんは部屋の机の上に降ろしてくれたが、目を離してくれない。
そのまま机から飛び降りても、キャッチされて元に戻される。
なかなか逃げ出すチャンスが来ない。
「ねえねえ?」
また話し掛けてくるよ。
ご主人様なら意志疎通が出来るのだが、お嬢ちゃんだと出来ないんだよな。
身ぶり手振りで説明しても通じないし……
「いつになったら尻尾が増えるの?」
逆に聞こう。
管狐は尻尾が増えるのか?
長年生きた零号ジイサンでも、大きくなるだけで、尻尾は一本だったぞ。
どう考えても増える訳がない。
「妖狐なんでしょ〜?」
管狐だ。
妖狐とは、ご主人様が言っていたキツネのあやかしだろ?
たしか、長年生きたキツネが妖狐になるんじゃなかったか?
「あ! 名前、付け忘れていたわ」
名前か……名前ならある。
九号だ。
ご主人様から貰った立派な名前だ。
ジイサンの零号も、カッコ良くて憧れるがな。
「妖狐だから〜……」
勝手に名前を付けられても、俺は九号以外の名前は受け付けない。
「ヨウコね! わたしは『ひより』。これかよろしくね〜」
ご主人様の占いをしに来る客の名前から察するに、それは女の名前だと思うのだが……
「わ! なんか光ってるよ!!」
な、なんだ?
力がみなぎって来る……