25 管狐 ボールになる
俺は管狐。
カメラ事件の後、数日が経った。
毎日、奥さん達が通学路の見廻りをしているところを見ると、大事だったみたいだ。
俺のせいで大変な事になったかと思ったが、奥さんと旦那さんに褒められたので、杞憂だったみたいだ。
それでここ数日は、いなり寿司をたんまり食べさせられている。
うまいからいいのだが、最近、体の調子が悪い。
まぁ寝れば治るだろう。
「ヨウコちゃんのおかげで、ひよりが助けられたんだから、いっぱい食べてね」
今日もいいのか?
う〜ん。うまい!
お店で買ってきたヤツもうまかったが、奥さんの作るいなり寿司は格別だ。
何個でもいけてしまう。
「悪い人、捕まったの?」
「そうよ。ヨウコちゃんが若い男の人って教えてくれたから、早期解決になったのよ」
悪い人?
カメラを置いて行っただけなのに、悪い事なのか?
カメラを見つけるだけで、奥さんのいなり寿司が食べられるなら、もうけものだ。
また置いて行く人がいればいいんだがな。
うん。うまい!
「ヨウコ。食べ過ぎ〜」
え? そうなのか?
「そんなに食べたら太るよ〜」
太る? 太るとはなんだ?
あ、ご主人様が「太ったかも? ヤバイっしょ〜」って、お腹をプニプニ触っていた事があったな。
太るとヤバイのか?
「ひより。ちょっと待って!」
「なあに?」
「ヨウコちゃん。こんな姿だったかしら?」
ん? 俺の容姿は見えないからわからないが、仲間の管狐と変わらないはず。
「あ……丸い……」
「まん丸よ! あんなにスラッとしていたのに、いつの間にボールになったの!?」
ボール?
お嬢ちゃんが体育の授業で使っている、丸い玉のことか。
たしかに最近、歩き難くて、転がって移動していたな……
「ヨ、ヨウコ。鏡で自分の姿を見てごらん?」
あ、ああ。
え? これが俺の体か!?
仲間の管狐と全然違う。
これが太ったってことか?
「ど、ど、ど、どうしよう! ヨウコがメタボで死んじゃうよ〜!!」
死ぬだと?
メタボとは、死ぬほどの病なのか?
俺はこのまま、ご主人様に会えずに死んでしまうのか……
「大丈夫よ。太っただけだから、痩せればいいのよ」
そうなのか!?
ならば、痩せる!!
「じゃあ、このいなり寿司は私が食べる〜」
「そうね。よく考えれば、毎日食べ過ぎだったわね」
あ……俺のいなり寿司が……
奥さん。
食事制限は、明日からにしてくれないか?