02 管狐、野で生きる
俺は管狐。
どうやらご主人様に置いていかれたらしい……
いやいや、優しいご主人様の事だ。
気付いたら、すぐに迎えに来てくれるはずだ。
動かず、ここで待っていればいい。
しかし、腹が減った。
ふだん俺の腹は、ご主人様から漏れる霊気で満たされていた。
ご主人様から離れると、腹が減るんだな。
心なしか体がしぼんで来ているような……まずい!
早急に霊気を補充しなければ、ご主人様が見付けてくれる前に死んでしまう。
こういう時、どうすれば……
そういえば、ご主人様が庭の一角で瞑想する時に、「ここは霊気がみなぎっていて、力がわくっしょ〜」って、言っていたな。
あの場所に辿り着ければ……
ダメだ。
ここがどこかもわからない……
ならば、似たような場所を探せばいいのでは?
その様な場所があるかどうかはわからないが、時間が無い。
生きてご主人様に会う為には、霊気の出ている場所を探さねば!
俺は決意を胸に走り出す。
しばらく走ると、嗅いだ事のある匂いが鼻に入り、木の根元にある匂いの元に近付いて行く。
この匂いは、やはり霊気の匂いだったか。
わりと早く見つかってくれてよかった。
これで命をつなげる。
さっそく、いただきま〜す。
俺は地から漏れ出る霊気を、大きく口を開けて吸い込む。
む! これは……マズ〜〜〜イ!!
ご主人様の霊気と、雲泥の差だ。
しかし生きる為には、これを吸う以外の選択肢が無い。
ご主人様が迎えに来るまでの辛抱だ。
ご主人様には零号ジイサンもついているし、力を合わせれば、すぐに俺を見付けてくれるだろう。
だが、今日はもう日が暮れてしまっている。
俺が居なくなった事に気付いてはいるものの、探しに来るのは明日になるか。
今頃、俺が居なくなって心配してくれているはずだ。
明日からまた、ご主人様の仕事を手伝わなくてはいけないし、今日はこのまま休もう。
俺は木の幹を枕に目を閉じる。明日から始まる新生活を夢見ながら……
それから一週間……地獄だった。
霊気が漏れ出ていた場所も、俺が霊気を吸っていたせいか、翌日の昼前には出なくなり、別の場所を探すハメとなった。
幸いマズイ霊気なら、距離を開けると出ている場所はあったので、匂いで見付ける事が出来た。
しかし、どこも俺が居ると止まってしまうらしく、移動を余儀なくされた。
その移動の際に、犬、猫、カラスに追い回され、命からがら逃げ回った。
ご主人様に占いを依頼しに来る人間には、見えていなかったのだが、どうやらアイツらは、わずかながら霊感があり、俺の姿が見えるようだ。
何度も追い回されていたが、逃げ切ったとある場所で、うまそうな霊気のあふれる場所を見付ける事があった。
腹も減っていたので、これ幸いと門を潜ったが、二匹の化け物に食われかけた。
門の中にあった二体の犬のような石像に似ていたが、あの化け物は、いったいなんだったのであろうか……
門から出たら追って来なかったから助かったが、あのうまそうな霊気の場所は、化け物の住みかなので、近付かないようにしよう。
いや、もう近付く事は出来ない。
その後、猫に追い回され、犬に追い回され、ここがどこかもわからない。
ただ時折、人間が通るが、俺には気付かないようだ。
俺の隣にある小僧のような石像に、手を合わせる人も見受けられるから、なんらしかの力があるのかもしれない。
現に、ここの霊気は、そこそこうまい。
せめて、このまま二日ほど休ませてくれると、ありがたいのだが……
俺が考え事をしていると、懐かしい匂いが鼻に飛び込んで来た。
ご主人様!!
「ママ〜。小さいキツネさんがいるよ〜」