15 管狐 服を見る
俺は管狐。
お嬢ちゃんは今日からゴールデンウィークと言う連休に入るらしい。
その連休の初日、外に連れ出されている。
ご主人様が迎えに来るはずだから、家に居たいのだが、お嬢ちゃんが連れ出すから、仕方なくついて来ている。
どうやら、少し遠くのアウトレットモールで服を買うらしい。
「ヨウコ〜。似合ってる?」
俺は管狐。
服の良し悪しなんてわからない。
「もう! ちゃんと見てよね〜」
命令されたから、ちゃんと見ている。
だが、俺は管狐。
聞く相手を間違っている。
奥さんに聞いてくれ。
「これもダメか〜。次の服に着替えるから待っててね」
命令だから、もちろん待つ。
でも、着替える前に、奥さんの意見を聞こうか?
「あ! ママ、パパ。この服どう? 似合ってる?」
間に合ってよかった。
これで良し悪しがわかるだろう。
「うん! すっごくかわいいわよ〜」
「ひよりは何を着ても似合うな〜」
「本当!? 次の服も着てみるね〜」
どうやら似合っているみたいだ。
なるほど。
次からは、この服を基準にすれば、俺にも答えられるかもしれない。
「うんしょ。ヨウコ。どう? かわいい?」
さっきの質問と違う……
いや、奥さんはさっきの服をかわいいと言っていた。
ならば、基準と照らし合わせると、さっきの動きやすそうな服装と大きく違う。
フリフリがいっぱい付いて、動き難そうだ。
ここから導き出された答えは、かわいくないだ。
手をクロスして、ばってんだ。
「なんでそんなこと言うの!」
え……基準と違うから……
「ひより。どうしたの? あら? それも似合っていて、かわいいわね」
「ひよりは何を着てもかわいいな〜」
な……さっきと全然違う服だぞ?
「でしょ〜? なのにヨウコがかわいくないって言うんだよ〜」
「ヨウコちゃんは、女心がわからないのね」
女心?
当然だ。
わかる訳がない。
俺は雄の管狐だからな。
「うちのひよりが、かわいくないだと……どこに居る! 姿を現せ!! 油揚げにして食ってやる!!!」
おお……旦那さんが怒っている姿を初めて見た。
しかも、怒り具合が尋常じゃない。
管狐の俺に触れる事は出来ないと思うが、お嬢ちゃんが触れられるのだから、万が一がある。
何が悪かったかわからないが、誠意を持って謝罪しなくては。
「ヨウコを食べちゃダメー!」
「そうよ。ヨウコちゃんは悪気があって言ったんじゃないよね?」
うんうん。
うなずいてみたけど、奥さんは違う所を見ているな。
「ママ。ヨウコ、うなずいてるよ」
「やっぱりね。服のセンスが無いだけよ」
当然だ。
俺は管狐だからな。
聞く方が悪い。
「それにパパ。狐は油揚げにして食べるんじゃなくて、油揚げを食べるのよ」
俺は管狐。
お嬢ちゃんの霊気が主食だ。
ご主人様の元でも、人間の食べ物なんて食べた事がない。
「油揚げだけじゃかわいそうだから、明日のお弁当は、いなり寿司を作ろうかな」
いや、食べれないから!
「やった〜!」
お嬢ちゃんも止めてくれ!