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01 管狐、野に放たれる

どうぞよしなにお願い致します。


 俺は管狐。

 数カ月前、若い霊能者の口寄せの術によって呼び出された。

 それ以来、霊能者の事をご主人様と呼び、他の管狐と共同生活を送っている。


 名前は「九号」。

 ご主人様の、九番目の管狐と言う意味らしい。

 つまりご主人様は、九匹の管狐を使役する霊能者。

 普通は二匹でも、霊気を分け与えるのがやっとらしいが、ご主人様は常に、多くの霊気を垂れ流しているから出来る技らしい。

 さすが、ご主人様だ。


 ご主人様は勉学の傍ら、占いの仕事をしている。

 この占いを手伝うのが俺達管狐の仕事だ。

 ご主人様が先々代から受け継いだ、一番古株の零号ジイサンは、ご主人様の力を借りて、一年先の未来を見る事が出来るらしいが、俺はまだまだひよっこ。

 ご主人様の力を借りても、物を移動するのがやっとだ。


 だから基本的には、ご主人様の身の回りの世話をしている。

 体がネズミ程の大きさしかないので、書類や小さな物の片付けしか出来ないが、そんな簡単な仕事でも、ご主人様は褒めてくれる。

 他に何か出来ないかと考え、俺自身の毛を使い、お風呂で背中を流してみたら、たいそう喜ばれ、「マジ、ハンパないっしょ!」と、褒められた。

 今では俺なしでは、お風呂に入れない程だ。

 そのせいか、毎日ご主人様と一緒に寝る仕事まで仰せつかった。

 ご主人様の大きな胸に挟まれて眠るのは、竹筒の中で眠るより気持ちが良いので、役得だ。


 人間の容姿についてはよくわからないが、家族の中で、ご主人様だけ金髪で、肌が黒い。

 おそらく、ご主人様は霊気の量が家族の中でもズバ抜けている事から、その様な容姿になっていると思われる。


 容姿と言えば、ご主人様が俺達の姿に疑問を抱いていた時があったな。

 「いつ見ても思うんだけど、管狐って、キツネって言っているけど、どう見てもイタチかフェレットっしょ」と。

 写真を見せてもらったが、キツネと比べて細長いから、たしかにキツネとは別の生き物に見える。



 ご主人様は占いの仕事量が少ない事に不満があるみたいだが、俺達管狐はご主人様の霊気を吸い、平和に暮らしている。



 そんなある日、ご主人様が家を出ると言い出した。


 どうやら、大学と言う場所に行くらしい。

 大学がある場所は都会らしく、田舎街では占いの仕事が少なかったので、「ついでに都会で一旗上げるっしょ〜。ウチの占いで無双っしょ〜」と、息巻いている。

 俺では占いで、ご主人様の力にはなれないが、零号ジイサンが居れば、ご主人様の夢を叶える事が出来るだろう。

 俺はご主人様の身の回りの世話をして、少しでも助けになろうと心に決めた。



 引っ越し数日前……



 俺達管狐は総員で、引っ越しを手伝う。

 しかし、小物が多い。

 ピアス、ネイルチップ(つけつめ)、ツケマにエクステ。ご主人様には言えないが、捨てた方がいいと思う。

 このままでは、当日に間に合わないかもしれない。



 引っ越し当日……



 やはり間に合わなかった。

 ご主人様は母上や父上に叱られ、しゅんとしている。

 だが、母上と父上の力で、引っ越しは間に合いそうだ。

 どうやら、必要最低限の物を車という乗り物に積み込むらしい。

 俺達の手伝ったツケマ達は、ゴミとして出されるみたいで、ご主人様はさらに落ち込んでいた。

 これは新居に着いて、さっそく俺の出番が来そうだ。



 荷物を積み込むと、親子の涙の別れ……



 にはならずに、親子喧嘩をしている。

 どちらも引く事は無いので、喧嘩別れとなったみたいだ。

 でも、俺は知っている。

 ご主人様が昨夜、不安で泣いていた事を……



 その後、ご主人様も車に乗り込むと発進。

 俺達管狐は竹の筒に入って、車の荷台だ。

 俺は最後まで手伝っていたので、筒の一番上に乗せられ、揺られている。

 ご主人様の話では、新居まで車で長時間かかるらしい。

 少し揺れがひどいが、長旅になるので眠るとしよう。



 管狐を乗せた車はひた進み、数時間が過ぎた頃、車が大きなカーブに差し掛かかる。

 曲がり終えたその時、ひとつの竹筒が転がり落ちた。


 それからさらに時間が過ぎると、俺は目を覚ます。


 揺れが無い。

 少し寝過ぎたみたいだ。

 昨日は遅くまでご主人様に付き合い、今日も頑張って手伝っていたから疲れていたのかもな。

 着いているなら、起こしてくれてもいいのだが……

 まぁ優しいご主人様が、俺に気を使ってくれたのであろう。

 しかし、ご主人様の身の回りの世話をする事が俺の仕事。

 急いでご主人様の手伝いをしなくては!



 俺はモソモソと竹の筒から出ると、辺りを見渡す。



 木ばかりだ……ここはどこだ?

 まさか……車から落ちたのか??

 ご主人様!

 ご主人様〜〜〜!!


 誰も居ない……

 どうやら俺は、不慮の事故にあい、ご主人様と離れ離れになってしまったようだ……


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