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駅から駅まで  作者: タローマル
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終点から隣駅まで

「大丈夫ですか?」肩を揺らされ、目を覚ますと、目の前には五十代くらいの駅員さんが立っている。一瞬ここがどこかわからなかったが、すぐに電車の中で寝過ごしてしまったことに気づいた。

「あっ、大丈夫です。すぐに降ります」慌てて立ち上がり、すぐに電車から降りようとすると、駅員さんは申し訳なさそうに声を出した。


「すみません、ちなみにお隣の方は、お連れですか?」駅員さんの視線の先をみると、先ほどの女性が拳一つは入りそうなくらい大きく口を開けて寝ていた。

「いや、違います」僕がそう言うと、駅員は小さく頷き、女性の肩を優しく叩き始めた。わざわざその様子を見ている必要もないので、僕は電車を降りた。


 見慣れない駅のフォームだった。「西篠原駅」と書かれたプレートが掲げられており、当然駅名は聞いたことがあるが、自宅最寄駅から、どのくらいの位置あるのかはわからない。小さな焦りを覚えながら、僕は携帯でこの駅名と自宅最寄りの駅名との最短ルートを検索したが、ここから自宅の最寄り駅まで、電車に乗り着いで二時間半かかることと、すでに終点はなくなってしまったことがわかった。じんわりと不安が体を襲う。どうやって家へ帰ればいいのだろうか、タクシーを捕まえるか、だとしたら一体いくら掛かってしまうだろうか。近くに漫画喫茶か何かああるだろうか。対応策を必死で頭で考える。とにかく、駅をでてみなければならない。今更急いでも意味がないのはわかっていたが、小走りで改札を抜けた。出口は西口と東口があり、僅かだか人の流れの多い、東口に向かって外にでた。


 駅の外はすでに閉まっている本屋とスーパー、すこし離れた所にコンビニの明かりがみえた。周辺にタクシーは止まっていない。ここからどこに向かって歩ければいいのだろうか。今夜家に帰れるかどうかの、不安はすでになくなっていた。ただ、夜を過ごす場所を見つけなければならないことに対する面倒臭さが大きかった。とりあえず、駅の入り口にある地図の看板を見に行き、帰る方法を考えることにした。


「大丈夫?」地図を見ていると、後ろから声をかけられた。振り向くと先ほどの居眠りをしていた女性が立っていた。少し柑橘系のサッパリとした匂いが漂う。女性は僕のすぐそばまで近づいて言った。「このへん来たことある?」

「いや、初めてです。乗り過ごしちゃって。近くに時間潰せるところってありますか?」

「時間を潰すって?」

「始発まで過ごせそうなところです。ファミレスとか、漫画喫茶とか」

「あぁ、このへんないよ。寂れてるからねー」女性はそう言うと、クックックと引き笑いをした。

「最悪だ…」女性に対して言ったわけではなかったが、思わず口から言葉がでる。

「篠原駅まで歩いていけばいいんじゃないの?ちょっと離れてるけど」

「篠原駅?すみません、この辺の路線とかよく分からないんですけど、近いんですか?」

「遠くはないくらいかな。たらたら歩いて一時間くらい。そこは、もっと栄えてるから漫画喫茶とかもあると思うよ」

「線路沿いをずっと歩いていれば着きますかね」

「うん、だけど、ちょっと遠回りになっちゃうと思うよ」女性は言った。「てか、一緒に行く?私も自宅がその辺だから、そこまで歩いていくつもりだし」

「本当ですか?」思わず声が大きくなる。助かった。女性は頷いて、歩き出し、僕はそのすぐ後をついて行き始めた。

 その後ろ姿は、先ほどまで僕の前を歩いていた毛利さんに重なっていた。


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