3.アキラ・ローグライトⅡ
例の三人組と視線が合い気まずい空気が流れる。
しばらくして、三人組の目が右往左往した後、不自然に掲示板の方へ見直す。
「ナンデモゴザイマセンヨ?」
「コノ、クエストデ、イインジャナイデスカ」
「ソウデスネ、ウケニイキマショウ」
「はぁ?」
まるでロボットの様な動きでクエスト受領カウンターの列へ三人組が並ぶ。
奇天烈な動きにちょっと笑いそうになるがカウンターの方で動きがあったので目で追うのを止める。
「お待たせしました。 引継ぎは完了ですので続いて登録となります」
「はい」
「では、この用紙に必要事項を書いて下さい」
渡された用紙は見慣れた紙であるが、若干違う様だが書式は同じなので書いていく。
「役割って理想でも良いですか?」
「良いですよ」
「属性はレベル必要ですか?」
「なくて良いですよ」
名前:アキラ・ローグライト
種族:ハーフエルフ
性別:女
所属:ノースブレイ王国
所属:-
役割:精霊使い
属性:炎、雷、光
「これを・・・」
書き終えた用紙をお姉さんに渡す。
「では、口頭で確認しますね」
「はい」
「お名前はアキラ・ローグライト様で宜しいですね?」
「はい、大丈夫です」
「種族はハーフルフで女性ですね」
「はい」
「所属はノースブレイ王国、クランはなし」
「はい」
「役割は精霊使い」
「予定ですけど、それでいいです」
「属性は、炎と雷と光、三属性ですか?」
「まぁ、はい」
一重に属性と言っても、種族属性と人格属性があり、それが複合的に作用して決定付けられる。
ハーフエルフの基本的な属性は、風と無の二つそれに人格属性が足された三属性となる。
しかし、それはその種族が純血だった場合でヒューマの血にはヒューマ以外にアキレスやアマゾネスの血も入っている。
そこに古代エルフの血が混ざった事により、この三属性になったと思われるのだが・・・。
稀に種族属性ではなく人格属性の方を引き継ぐらしいと聞いた事があったが本当だったんだな。
受付のお姉さんが不思議がるのも分かる気がする。
恐らくだが、炎が人格属性、雷と光が種族属性だと思う。
ちなみにこれらは得意属性であり他の属性が使えない訳ではない。
基本的に相反する属性は不得意属性となり、熟練度の上がり方に大きな差があるので後々判明する事だろう。
「では、登録作業に入りますので少々お待ちください」
「はい」
それにしても先ほどから隣でクエスト受領手続きをしている三人組がチラチラとこちらを見て来るのは何でだろうか。
「何か?」
「イエイエ、ナンデモゴザイマセヌ」
「リーダー、チラチラミスギ! キヅカレタジャナイ!」
「よし、受領完了って何してんだ? 二人とも」
「ナイスタイミング! さぁ行くわよー」
「ぉ、おお」
クエストの受領が終わった三人組は、そそくさとギルドを出て行った。
まぁ、特に興味がなかったのでカウンターの方へ向き直し、未だ登録作業中のお姉さんを見ながら待つ事にした。
「はい、それでは登録が完了しましたのでお受け取り下さい」
渡されたのは傭兵タグと呼ばれる身分証明書だ。
そこには名前と登録ナンバーが刻まれており、クエスト受領や銀行利用などで使用する事になる。
「傭兵についての説明は要りますか?」
「いえ」
「それでは何かお受けになるクエストはありますか? ついでに手続きをしますよ」
「いえ、大丈夫です」
「そうですか。 それではまたのご利用お待ちしております」
傭兵への登録が終わった事だし、俺はストーリークエストについての情報を得る為に掲示板を覗く事にした。
傭兵ギルドの掲示板に張り出されるクエストは色々ある。
代表的なものとして、討伐、護衛、戦争、探索で今回のアップデートでストーリーが追加された。
そして、それらは色分けて掲示板に貼り出される。
ちなみに、討伐は青、護衛は黄、戦争は赤、探索は緑、ストーリーは白だ。
また、E/OにはAやBという様な傭兵ランクなどと言う制度がなく、スキル制なので(レベルは目安程度)、そのクエストが自分に合った依頼なのかの判断が付けにくい。
単に賞金獲得ランキングというものはあるが強さに直結しない。
用紙には必要最低限の情報しかない為、自分の経験やベテランやギルドの受付嬢などに聞くなどして調べる必要がある。
白の紙つまりストーリークエストは合計で四つ貼りだされている。
一つ目は、『教国からの亡命者に対する支援』
つまり、武具やアイテムなどの無償提供だな。
二つ目は、『教国から国外への脱出までの護衛』
確実にこれが一番高いレベルを必要としている。
敵プレイヤーと戦闘する可能性がある。
三つ目は、『教国騎士の討伐』
各地に教国の騎士と名乗る野党が出没しているのでその討伐。
敵プレイヤーと戦闘する可能性がある。
四つ目は、『教国の偵察』
教国の内情の把握、特に幽閉されている人達の居所などの情報だな。
これに関してはスキル構成によって低レベルでも可能だな。
この中で俺でも出来そうなのは一つ目と三つ目。
一つ目は非戦闘なので間違いなく可能だが、三つ目は博打に近く、恐らくはレベル1からカンストまでの全レベル帯がいると思われる。
正直、一つ目はするつもりがないので三つ目を受けつつ教国へ向かうのが最良かも知れない。
勿論、飛行船でひとっ飛びなんて野暮な事はしない。
道連れを回収してスキルを上げてクエストを受けながら徒歩で教国へ向かう。
まぁ、こんなものだろうか、取り合えず装備の確認と共有倉庫へ入れるものを選定してからクエストを受けよう。
俺は取り合えずギルドを出て自宅へと帰る事にした。
自宅へ戻り地下へと向かう。
そこは歴代キャラの集大成と言える武具やアイテムが仕舞われている倉庫と鍛冶作業や試し斬りなどが出来るちょっとした鍛錬場がある。
地下の大部分は倉庫で前時代、時代進行する前に種類ごとにカテゴリー分けをしている。
取り合えず、まずは今の自分が装備できる武具を探す事にする。
まずは防具だ。
低レベル帯かつ女性用防具のカテゴリーがされた棚を見る。
今のスキルレベルは、『布具修練Lv2』なのでこの辺りかな。
名称:丈夫な布の練習着一式♀
作成者:ルイス・クリーブス
品質:Rare
種別:布具
必要修練:布具修練Lv1
効果:防御力4、防御力+2
セットボーナス:4セット)防御力+2
耐久:100/100
概要:布製の防具。 軽量で動きの疎外とならないが防御力は期待出来ない。
名称:気品ある煌高校の制服一式♀
作成者:アップル(レイス・オリエント)
品質:Rare
種別:布具
必要修練:布具修練Lv3
効果:防御力8、防御力+4、技量+2、魅力+3
セットボーナス:4セット)NPC♂の好感度僅かに上昇
耐久:300/300
概要:かの名作恋愛ADV「ときめくメモリーズ」の舞台、私立煌高校の女子制服を完璧に模した服。
尚、非公式です。
この二つが有力かな。
ルイスの方は、現時点でマイナス効果なく装備出来る防具で最良の防具だ。
対してユーゴの方は、修練値が足りないので効果半減、追加効果が非アクティブな状態、それを差し引いても防御力はルイスと同等な上に低レベル帯のスキルなんてすぐに上がるのでそんなにマイナスの時間も長くない筈。 何よりデザインや説明文以外は間違いなく優秀過ぎる防具だ。
ちなみに、アップルとはブランド名でユーゴ・アップル(初代)のプレイヤーが作る変態(良い意味でも悪い意味でも)防具全般の事を指す。
ついでに言うと彼は、学園をテーマにしたゲーム(非エロとエロ問わず)の制服を完璧に再現する事で有名なプレイヤーだ。
傾向として高レベル帯のものほどエロ方面の制服が多い様に思えるのは気のせいではない筈。
服飾工で名匠持ちは限りなく少なく、彼はその内の一人で概要にある説明文が理解できない人達にとってデザイン方面で大人気を泊している。
正直、この説明文を理解出来るのは、日本人男性と日本かぶれでゲームオタクな外国人だけだ。
最後に装備名にある一式とは、各部位の防具をセット販売している際に付く名称でルイス、アップル両方とも胴体・腰・腕・脚の四セットで効果も四つ分を足した数値となっている。
また、一式装備は他の装備と組み合わせる事が出来ない代わりにセットボーナスが初めからあるという利点がある。
中にはこれらに頭部、背嚢、武器なども合わせた一式装備もあり、セット数が多いほどセットボーナスの効果が高くなっている。
「ま、不本意ではあるがアップルので良いか・・・」
次は、武器だ。
こっちは候補がそれなりにある。
名称:炎杖フランベルジュv1
作成者:エルネス・ワークナー
品質:Rare
種別:仕込み杖
必要修練:刀剣修練Lv3、触媒修練Lv3
効果1:攻撃力42、抜刀術攻撃速度+100%、属性効果(炎)、追加EDG(物理ダメージの12%)
効果2:魔法攻撃力38、火属性+Lv3
耐久:120/120
概要:打刀と炎杖ファイアロッドを組み合わせた仕込み杖。
名称:雷杖サンダルフォンv1
作成者:エルネス・ワークナー
品質:Rare
種別:仕込み杖
必要修練:刀剣修練Lv3、触媒修練Lv3
効果1:攻撃力43、抜刀術攻撃速度+100%、属性効果(雷)、追加EDG(物理ダメージの14%)
効果2:魔法攻撃力36、雷属性+Lv3
耐久:118/118
概要:打刀と雷杖サンダーロッドを組み合わせた仕込み杖。
名称:霊刀ウィスパーv1
作成者:エルネス・ワークナー
品質:Rare
種別:打刀
必要修練:刀剣修練Lv3、霊環修練Lv2
効果:攻撃力45、霊力+8、抜刀術攻撃速度+100%
耐久:90/90
概要:打刀と霊環・妖を組み合わせた打刀。
名称:聖杖セラフィーv1
作成者:エルネス・ワークナー
品質:Rare
種別:仕込み杖
必要修練:刀剣修練Lv3、触媒修練Lv3
効果1:攻撃力44、抜刀術攻撃速度+100%、属性効果(光)、追加EDG(物理ダメージの18%)
効果2:魔法攻撃力33、光属性+Lv3
耐久:102/102
概要:打刀と光杖ライトロッドを組み合わせた仕込み杖。
作成者が共通してエルネス・ワークナーとなっているが、実は俺の五代目キャラだったりする。
スキル『修理』を上げていた時に発見した非公開スキル『合成』を使い試行錯誤の末出来た作品群だ。
『修理』はNPCでも代用出来る上にオリジナル武具などは作成者本人か『修理』スキルレベル100でないと修理出来ない為、レベルを上げようとする人が極端に少ないスキルだ。
この四つは組み合わせ前が全て店売りのものなので出費も大した事がない。
どれも若干性能差はあるが必要修練値がほぼ同じなので現段階で使うのはこの内の一本で良いだろう。
霊刀は精霊魔法を使うのに便利だが、まだ契約をしていないのと契約出来る目処がないので今回は見送りで良いか。
となると、残り三本、この辺りに闇属性が弱点の魔獣がほとんどいないので聖杖は見送りにして炎杖にしておこう。
後、用意するものは消耗品にアクセサリー系統――基本ステータスを上げるものを適当に――を用意して全身を鏡で写しクルリと一回転し変な所がないかチェックする。
あ、髪長かったんだな。
前だけ見るとショートカットに見えたんだけど、実は膝下ぐらいまで髪が長かった。
何ていう髪型か知らないがポニーテールよりも纏めている所が下なので前から見ると丁度、首に隠れて見えなかった。
装備に関しては大丈夫そうだ。
単純に帯刀している学生にしか見えないけど・・・。
後は、共有倉庫に持っていくアイテムを纏めて・・・、大きい鞄あったかな。
これ・・・、武器も含めると六往復ぐらいしないと無理じゃね?
「はぁ、はぁ、はぁ、終わった・・・」
結局、七往復した。
所持限界ギリギリを七往復した所為でSPが尽き掛け、いや、途中でSPポーション三回ほど飲んだか。
取り合えず、一往復目の時にストーリークエストと討伐系のクエストを三つほどを受けて来たので何時でも旅立つ事が出来る。
さて、アリストに連絡をしよう。
『♪~♪~、ヴォじゃなくてアキラか』
「ストーリークエストを受けたし、いつでも旅立つ準備できたよ」
『ぉ、そか。 俺の方は討伐のストーリークエスト受けたわ。 そっちは?』
「同じく。 そっちと合流しようと思うんだけどどう?」
『良いぜ。 じゃ、街周辺でスキル上げして待っておくわ』
「どこにいるんだっけ?」
『サウスブレイ王国の湖畔都市リンベルグって所だ。 分かるか?』
「大丈夫。 何回か行った事ある」
『んじゃ、適当に待ってるぜ。 急がなくて良いからな』
「ほい」
さて、旅立つ前に街周辺でスキル上げだ。
さらにヴォルトとアニエラから習得出来る有用そうなスキルを覚えてから旅に出る。
予定としてはゲーム内時間二日後に南を街へ行く事にする。
◆補足◆
居合刀>抜刀術時の攻撃速度が+200%になる。
小太刀>抜刀術時の攻撃速度が+150%になる。
打刀>抜刀術時の攻撃速度が+100%になる。
長刀>抜刀術時の攻撃速度が+75%になる。
太刀>抜刀術時の攻撃速度が+50%になる。
※直刀や曲刀、剣などは攻撃速度ボーナスが一部を除いてない。
触媒>装備者の能力の底上げ効果がある。