表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

0.エヴォリューションオンライン

エヴォリューションオンライン The Animation 24話(終)---Bパート

『ここが奴らの本拠地・・・』


 身長を超える長さの大鎌が眼を惹く漆黒のローブを纏った赤髪の青年は斜め上方向を眺めそう呟いた。

彼が見ている方向には城壁がありその上から数多くの敵勢力のプレイヤーと兵士(ノンプレイヤー)が怯えながら見下ろしている。

彼らのいる場所は、華朝連邦(かちょうれんぽう)、最北端にあるシュレンガ要塞の真正面だ。

そして、彼らの後ろには敵味方無数の死体が転がっており、現在進行形で巨獣と呼ぶに相応しい精霊が暴れまわっている。

要塞前に彼ら九人がいるのは分かっているが、それどころではないのだ。


『ああ、ここを潰せば戦争は終わる・・・。 だが、俺らはたった九人でそれに挑む事になる』


 三十後半ぐらいだと思われる金髪のザンバラ頭に顎鬚が特徴的な男性は、城壁から放たれた矢を持っていた剣で軽く払い落として青年の呟きに答えた。


『どういう事か分かっているわね? レイジ』


 和服とチャイナドレスが混ざった様な服を着ている青髪のエルフの女性がレイジと呼ばれた赤髪の青年に言った。 


『・・・分かっていますよ。 流石に・・・』


 色々達観した表情で答えたレイジに獣人・獅虎族(しこぞく)の男はバンッと彼の背中を強く叩く。


『分かってねぇよ。 レイジ。 てめぇ、生きて戻れないかも知れない・・・なんて思ってんじゃねぇのか?』


 普通、数千・数万の敵兵相手に九人で戦いを挑もうと言うのだからレイジの様に答えるのが当たり前だ。

しかし、獣人の男は、大げさにため息を付き手振りと首で否定する。


『違うのですか?』

『全っ然、違ぇ~よ。 楽しもうぜって事よ』

『はぁ!?』


 どうしたらこの様な言葉が出るのかレイジは理解出来ない様子で獣人の男性をはじめ残りの七名をそれぞれ見る。

そこには悲壮感など微塵も感じられない男女八名がいた。


『き、貴様ら、何者だっ!?』


 彼らへ水を差す様に汚らしい声が城壁の上から投げ掛けられる。

恐らくは敵の士官(ノンプレイヤー)と思われる男で顔を真っ赤にしている。


『ああん!?』

『ひぃ!!』

『俺らか? 俺らは・・・、何だ?』


 獣人族の男は首を傾げながら正面にある分厚そうな鉄の巨大な扉へ歩いていく。


『それは、あれだろ?』

『あ~、あれな。あれ?』


 金髪の男と獣人の男は、頭の悪そうな掛け合いをする。

そして、獣人の男は扉のコンコンと軽くノックをする様に軽く叩く。

1m程度か・・・と、小さく呟く様な声が聞こえた。


『な、なな、何をするつもりだ!?』


 さっきまで赤かった顔色は、これから起こるであろう在り得ない事を想像し真っ青になっている。


『何って? そりゃ~、こう、するんだ、よっ!!!』


 獣人族の男は軽くバックステップした後、すぐにステップと同時に鋭い蹴りを扉に向けて放つ。

ドガンッと建造物を破壊する鉄球の様な重い一撃で厚みが1mほどある鉄の扉を軽くこじ開ける。


『ふん、こんなものか』


 彼の言葉と同時にバックにハイテンポなリズムに合わせた歌が聞こえてくる。

この歌は、『エヴォリューションオンライン The Animation』の前期主題歌だ。

アニメの最終話でよく使われる手法で高揚感が半端ない。

スタッフ名が当り障りない場所に白文字で表示される。

そして、獣人族の男がアップで映りテロップに『破塞(はさい)のアーネストcv荻原勘助(おぎわらかんすけ)』と大きく表示される。

しばらくして、アーネストから右に画面が移動し、淡い緑髪のエルフが写る。

九人の中でも一際豪奢な装備をしたエルフの女は、開いた扉から見える大通りそして中心地にある建物に向けて弓を構える。

その弓は矢の代わりに魔力の光の矢が射出される。

本来は矢の矢尻がある辺りに光が収束していく。

光がバランスボール大の大きさとなり一際光り輝いたと同時にその光は極太のビームとなり、大通りで構えていたプレイヤーと兵士(ノンプレイヤー)を瞬殺し、中心地にあった建物の扉に大穴を空ける。

そして、エルフの女がアップで映り『超運(ちょううん)のアヤカcv鮎川(あゆかわ)みなみ』とテロップが付く。


『行くぞ。 レイジ』

『はい』


 金髪の男の声にレイジが答える。


『イグニス、クラウディア、アヤカ、援護は任せた』


 画面はまた移りダークエルフの長身の男とハーフリングの合法ロリ娘へが左右二分割で写る。

男は長い杖(ロッド)を地面に突き立て眼を閉じ詠唱をし始める。

合法ロリ娘の方は、片手で持った分厚い本をペラペラを捲りながら詠唱をし始める。


『ダークイリュージョナルアイビィ』

『フィクスエクスプローション』


 要塞内に漆黒の穴から蔦が下から上へと伸びて行きそれに巻き込まれた多くのプレイヤーと敵兵(ノンプレイヤー)が穴へと引きずり込まれて行く。

それとほぼ同時に別の所では一度に四箇所が縦に広範囲爆発が起こり要塞内にあった建物のいくつかを塵へと化す。

左右二分割の画面に戻り奇妙な紋様が入った瞳をしたダークエルフが映し出され『棄人(きじん)のイグニスcv半田恭二(はんだきょうじ)』と、下には犬歯をむき出しにしてニヤけているハーフリングの合法ロリ娘が映り『極焔(ごくえん)のクラウディアcv鈴鳴千友里(すずなりちゆり)』とテロップが入る。

そこから左に画面が移動すると要塞内の大通りを駆ける五人の後ろ姿が映る。


『ちょっと暴れてくるっス』


 濃い蒼いショートカットの少女が被っていたフードを外し左に逸れる様に走り、正面の家屋の壁を蹴り反動で反対側の少し背の高い建物の壁を蹴る。

それを何度か繰り返した後、五人から見えない所まで移動する。

彼女が降り立った所には、クラウディアが破壊した地区で爆発と瓦礫から難を逃れた十数人のプレイヤー達がいた。

全員装備が整っておりノンプレイヤーは全員爆発に巻き込まれて死んだようだ。


『ヘヘ、お兄さん達、オレっちと良い事しないっスか?』

『ああ? 何だ、てめぇ』


 無論、上から突然降ってきた怪しい少女の言葉を素直に聞く筈もなく、プレイヤー達は各々の武器を持ち少女を囲む。

チロリと小さな舌で唇を舐めると少女は、囲んでいた筈の敵兵達の前から姿を消していた。

否、ほんの一瞬で跳躍し同時に左右にいる二人の男に対し、いつの間にか抜いた二挺の銃の先端に付いた短剣で首を刈り取っていた。

その跳躍は彼らの頭上よりも上まで飛んでおり、視界が拓けた所で建物から少女を狙っていた三人の弓兵(プレイヤー)に対して体を捻る動作と共に発砲、正確に頭部を撃ち込んでいた。

落下する直前、下にいた敵兵達の頭部を蹴り彼らの上を歩くように囲みから抜け出し、また跳躍して近くにあった壁に着地し壁走りしながら数度発砲、壁が途切れると上へ跳躍、宙返りしながら数度発砲する。

最後にクルっと回転した後、地面に着地する。

それとほぼ同時に十数人いた敵兵は息を合わせるかのように地面へ倒れる。

銃の弾装を交換するタイミングで画面は彼女の顔をアップで映し、『真眼(しんがん)のアスタロッテcv笹川(ささかわ)すみか』とテロップが出る。


 画面が切り替わりアスタロッテを除いた四人がまた写る。

彼らに取り囲む様に降り注ぐ幾多の魔法が画面全体に映し出される。

色取り取りの爆発が起きるが砂煙や魔法エフェクトが終わると半球状の半透明な壁に護られた無傷の四人が現れる。

彼らの中心にいる淡い蒼い髪のエルフが地面に金銀の円環で装飾された美麗な杖を地面に突き立てていた。


『行きなさい!』


 叫ぶと同時に地面に突き立てた杖を背中に背負い、腰に差していた二振りの曲刀を構える。

長いスリットから覗く彼女の足は非常に美しく丸で踊り子の様だ。

そんな彼女を下から見上げるように画面が切り替わると『神薙(かんなぎ)のリセリアcv雨木可奈(あまぎかな)』とテロップが出る。

 彼女の頭上を越えて魔法を撃ったプレイヤー達に対して、次々とアヤカをはじめクラウディアやイグニス、戻ってきたアスタロッテに殺されていく。


 再び走っている三人に画面が移る。

突然、ドンッと鈍い音が鳴り響く、三人は三様に飛び退く。

彼らがまさに走っていた場所に無数の弾痕が出来ていた。


『ここから先は行かせられねぇな』


 まるで九十年代のハリウッド映画に出てくる連邦保安官の様な出で立ちをしたプレイヤーが前を塞ぐ。

彼の両手には二挺の双頭散弾銃が握られている。

エヴォリューションオンラインの世界で見ても非常に珍しい部類に入る武器で使えるプレイヤーは数えるほどしかいない。


『・・・二人とも先に行け』


 金髪の男は何か思うところがあったのだろう。

少し迷った後に二人へそう告げる。


『でも!』

『こいつはさっきまでの奴らとは違う』


 金髪の男は二人と敵プレイヤーの間に割り込む形で移動する。


『くく、そう言ってくれるとは光栄だね』


 敵プレイヤーも二人を気にする様子はなく、金髪の男と対峙する。


『行くぞ。 レイジ』

『・・・わかりました』


 レイジと侍風の男が金髪の男を置いて中心の建物へと走り出す。

画面が切り替わり対峙した二人が同時に映る様にズームアウトする。


『さて、やりますか』

『ああ』


 敵プレイヤーの男は、散弾銃を持った右手を前へ同じく散弾銃を持った左てを後ろへ構え、銃口を金髪の男へ向ける。


『フェアフィールド流格闘術、クロード・ブラックウッド行くぜ』


 金髪の男は、右足を前へ左足を後ろにし腰を落とす。

そして、鞘に収まった剣の柄へ右手を添え鞘の鯉口を左手で軽く握る。


月守夢想流(つきもりむそうりゅう)剣術、ヴォルト・ローグライト参る』


 左に小さく『襲撃のクロードcv浪川太一(なみかわたいち)』、右に大きく『暴虐のヴォルトcv近藤勇介(こんどうゆうすけ)』とテロップが出る。


『!? はは、そういう事かよ』

『ああ、そういう事のようだ』


 二人が何かに気づいた様だったがすぐに表情は戻り臨戦態勢となる。

そして、画面が一つに戻り二人が各々武器を抜き今まさに切り結ぶ瞬間にまた画面が変わる。


『はぁはぁ』

『レイジ、ここからが本番だ。 へばっている場合ではないぞ』


 膝をつき大鎌の柄にもたれ息を整えるレイジを見下ろし、黒髪の浪人風の侍の男は血の付いた刀を血振りした後に鞘へ納める。

足元には十数人の敵兵士(ノンプレイヤー)が横たわっている。


『敵はこれだけではないだろう・・・。 ふむ、大将は上の様だな』

『ふぅ、行きましょう』

『ああ』


 息を整えたレイジは侍の男と共に正面にある階段を上り二階へと上る。

二人はひたすら大将がいるであろう部屋へと走る。

奥の方から敵兵の声が聞こえてくるが姿は見えない。

恐らく二人の行方を捜しているのだろう。

見つかるのはそう遠くない。

しばらく走っていると他とは雰囲気の違うエントランス様な場所へたどり着く。

そして、エントランス奥には如何にもといった風の豪華な装飾がされた両開きの扉があり、中には七つほどの人の気配がある。

二人が中に入ろうとしたその時、上下左右から複数の人の足音が近づいてくる。


『待てっ! そこから先は行かせん!』


 五人のプレイヤーが階上から飛び降りて二人を囲む。


『レイジ、お前が大将を殺れ』

『ですが!』

『私を誰だと思っている』

『・・・分かりました。 ご武運を』


 レイジは扉を開け部屋の中へと入り扉を閉める。


『ふ、そういう事だ。 大将を守りたければ私を倒す事だな』


 侍の男は右足を前へ左足を後ろにし腰を落とす。

そして、鞘に収まった剣の柄へ右手を添え鞘の鯉口を左手で軽く握る。

その構えから暴虐のヴォルトとよく似た戦闘スタイルだと思われる。


『貴様ぁ!』

『言っておくが私を倒さずに中に入れると思うな』

『ならば押し通る!!』


 五人の中で侍の男に一番近いプレイヤーが、背丈大もある巨大な斧を上段に構え振り下ろす。

しかし、そこに侍の男はおらず、襲ってきたプレイヤーの背後で刀を鞘へ納めている姿だあった。


『・・・っあ』


 上段に構えたままの斧を落とし、いつの間にか血塗れとなった敵プレイヤーは前のめりに倒れる。


『さて、次は誰かな』


 敵プレイヤーが倒れた事で画面中央に映し出された侍の男の足元に『闘神(とうしん)のヤグモcv迫水遼太(さこみずりょうた)』とテロップが出る。

敵プレイヤー、敵兵(ノンプレイヤー)がヤグモへ殺到したところで画面が暗転し、バックで流れていた前期主題歌が終わる。

その代わりとして後期主題歌が始まり、残りのスタッフロールが下から上へと流れていく。


 三分間弱の曲がスタッフロールの終了と共に終わり、暗転していた画面が変わる。

いわゆるCパートというものだ。


『ハァハァハァ、ど、どこへ行った?』

『分かりません』

『探せ!』


 映し出された部屋の中には六人の男がおり、奥にいる男はひと際豪奢な衣装を着ている事からその者が大将だと分かる。

先ほど、扉が開き何者かが入って来て一番扉の近くにいた男の首を刎ねた後に暗闇へと姿を消した。

そして、気づけば部屋の中にあった全ての光源が消え去り部屋の中は暗闇に支配されていた。

頼れるのは窓から差し込む月明かりだけだ。


 暗闇に中、何かが動いた様に見えた。

錯覚かも知れないが、自分の上官の目がある以上、見に行かない訳にはいかない。

文官服を着た男は暗闇へと姿を消す。

そのすぐ後に何かしら金属が擦れる様な音が聞こえた。

そんなに広い部屋でもないのに文官の男は戻ってこない。


『これで終わりにしよう。 華朝連邦(かちょうれんぽう)の大将殿・・・』

『な、何が終わりだ!』


 若い男の声が聞こえた。

しかし、どこから聞こえたのかが分からない。

大将のすぐ横なのかそれとも扉付近なのか、気配が暗闇に混ざり声の方向が分かりづらくなっている。


 また、金属が擦れる様な音が聞こえた。

大将の真横に立っていた武官の姿がないが、恐怖から大将はその事に気付かない。


『この無意味な戦争をだ・・・』

『何が無意味だ! 我ら華朝連邦(かちょうれんぽう)の繁栄に必要な事だ』


 また、金属が擦れる様な音が聞こえた。

今度は大将の視線の先にいた男の首が刎ねられ倒れる。


『大義のない戦争など禍根を残すだけだ』

『大義? 大義だと? 戦争にそんなモノは必要ない。 利があるかないかだ!』


 大将は馬鹿がと吐き捨てる。

しかし、彼の言葉は今の華朝連邦(かちょうれんぽう)の言葉を代弁しているに過ぎない。

華朝連邦はそういう国でそれが当たり前の事なのだ。


 また、金属が擦れる様な音が聞こえた。

今度は二回続けて聞こえた。

いつの間に部屋の中にいるのは大将ただ一人となっていた。

否、姿が見えないが大将以外の者の首を刎ねたプレイヤーもいる。


『クハハハ、ほれ、わしを殺して戦争を終わらせるが良い。 しかし、我が祖国はまた何度でも侵攻するだろうがな!』

『それでも!』

『ハハハハハ『死ね』ハッ・・・』


 画面いっぱいに映し出されていた大将の首が刎ね飛び大量の血飛沫が吹き出す。

それが収まり大将が倒れるとその真後ろに漆黒のローブを纏った赤髪の青年が現れ、振りぬいた大鎌を器用に回し血振りをした後、背中に納め大将の死体を見下ろす。

陰で黒くなった大将の死体に被さる様に白文字で大きく『死鎌(しけん)のレイジcv荒木翼(あらきつばさ)』とテロップが出る。

数秒後、画面は暗転し画面中央に『―非現実という名の現実を体感せよ―』右下に『終』と映し出される。

この物語はゲーム内であった出来事を基にしたフィクションです。

また、登場する人物・団体は、プレイヤーの許可を得て登場させています。

※文章内に登場する声優は架空の声優です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ