SCRAMBLE
激しい衝突音が響き、直後に地面が揺れる。
倒れたギアドールからレイラインがゆっくりと這い出てくる。
「これで33戦33敗・・・本当に彼女が帝国のギアドールを倒したのですかね?」
「さぁな」
アイネがタブレットを操作し、メガネを直しながらケイティに問いかける。ケイティは難しい顔をしながらそれ以上のことは言わなかった。
レイラインはケイティとの初戦以降、スカーレット隊のメンバーと模擬戦を繰り返していた。
今でこそ慣れてきたのか、ある程度はギアドールを操縦できるようにはなっていたが、それでも丘で帝国のギアドールを退けた時のようにはいっていなかった。
「お疲れ、レイちゃん」
「お疲れ様です、シルヴィアさん」
レイラインが対峙していたギアドールから降りてきた女性が親しげに話しかける。
褐色の肌と相反するかのような白髪が特徴的だ。
シルヴィアはスカーレット隊の中では猪の一番にレイラインと親しくなった。もともと社交的な性格なのだろう。副隊長として口数の少ないケイティの代わりに交渉をすることも多くない。
「レイちゃん、前より上手くいってるよ。この調子ならすぐ慣れるって」
「そうですかね?」
実際、レイラインの技量の上がり方は常人のそれに比べれば早かった。それでも、彼女の中ではどうにも違和感が拭えないでいた。
難しい顔で考え込んでいるレイラインの頭をシルヴィアは手荒く撫でた。髪の毛が乱れる。
「そんなに難しい顔をしないの。人間、誰だって最初から出来たりなんかしないんだから」
彼女なりの励ましなのだろう、そこからもシルヴィアの人の良さがにじみ出ていた。
「新人、副隊長、召集です」
アイネが二人を呼ぶ。その背後にはいつも以上に険しい表情のケイティが此方を睨んでいた。
ブリーフィングルームにたどり着くと、先に来ていたのであろう残りのスカーレット小隊メンバーと別部隊であるインディゴ小隊のメンバー、そしてニックとイナギが待っていた。
誰もが重く沈黙している。レイラインが基地にやってきてから初めて体感する空気だった。
全員が揃ったことを確認するとイナギはモニターの前に立って口を開いた。
「緊急連絡で入った情報です。昨日、ここより東にあるラフォート基地が襲撃を受けたとのことです」
場内がざわつく。状況が今一つ飲み込めていないレイラインがシルヴィアに問いかける。
「ここ以外にも基地ってあったんですね」
「ええ、この国のいたる所に点々と配置されてるわ。その中でもラフォートは最も前線に近い基地だったの。そこが襲撃されたということは・・・」
「・・・帝国は我々を完全に潰すつもりだ」
ケイティの言葉にレイラインは息をのんだ。
レジスタンスとして帝国と戦争をしていると聞いてはいたものの、どこか平穏な雰囲気の漂うこの基地にいたためか実感が湧いていなかった。それが今では肌でひしひしと感じられる。
「我々ヴィンゴルヴはラフォートの人員の救助、および資材の搬送を行います」
レジスタンスにとって資材は貴重であった。
パンジャードのために戦っているとはいえ、国民にとってレジスタンスは厄介な火種に変わりは無い。そのために、彼らの活動を快く思わない人々も少なくはない。
一部のレジスタンスに協力的な国民によって消耗品や資材は調達出来ているが、当然多くはないために常にレジスタンスは切迫していた。特に人員は何事にも代えがたい存在である。
もっとも、仮にすべての資材や戦力が十二分にあったとしてもイナギは救援を向かわせたであろう。
「敵のギアドールが近辺を巡回している可能性がありますので、スカーレット小隊と3機の輸送機でラフォートに向かいます」
「了解!」
ブリーフィングを終え、明るくなった室内から次々と格納庫へと向かっていく。
急いで向かおうとしていたレイラインの肩をイナギが止める。
「私も同乗いたします」
「えっ、でもイナギは危険だからここに残っていた方が・・・」
「私もこの目で惨状を確かめたいのです、それに万が一戦闘になった場合、リベレイターを動かすためのマハトが必要でしょう?」
レイラインに返す言葉なかった。
確かに戦闘になった場合、自分とリベレイターが荷物になってしまう可能性がある。そうならないためにもイナギの協力は必要だった。
「わかった、イナギは私が守るから」
「ええ、頼りにしています」
二人は気を引き締めてニックの待つ輸送機に乗り込んだ。
遠く、燃え盛る廃墟の中、漆黒のギアドールが積み上げられたギアドールの残骸の上に立っている。
パイロットは何かに反応するとニヤリと笑った。
「ああ、玲斗・・・」
黒いギアドールのパイロットはそう呟くと高らかに笑った。