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Gear Doll / Princess Crown  作者: 絢瀬 耀
The Awakening of Savior
5/8

Civilian

 輸送ヘリから降り立ったレイラインたち。

 雑多にモノが散らかっている基地の奥から一人の女性が彼女たちの前に歩み寄ってきた。


「おかえり、イナギ。その様子だと目的は達成できなかったようね」

「はい、残念ながら…しかし、代わりに心強い友を連れてきました」


 イナギが女性の前にレイラインを引っ張り出す。

 女性は背が高く、彼女の顔を覗き込むように腰をかがめた。

 鋭いナイフのような瞳に恐怖感を覚えながらもレイラインはじっとしている。


「この子…マハトが無いのね」

「やはり、そうでしたか」

「長年、研究職をやってきてるけどこんな状態の人間は初めてだわ」


 状況の飲み込めないレイラインを放ったまま女性は興味深そうに見つめてくる。

 後方ではニックたちがリベレイターをハンガーへと移送している様子が目に入った。


「あの…あなたは?」

「私はベルベット・ヒルクラフト、元はマハトの研究をしていたけど今は基地内部の医療を担ってるわ。あなた、かなり珍しい体質みたいね。少し付き合ってくれる?」


 有無を言わせない雰囲気にレイラインは首を縦に振った。

 ベルベットはニコリと笑うと、その細身の身体のどこに力があるのかレイラインを軽々と抱え上げ基地の奥へと戻っていった。


-----------------------------------------------------------------


 担がれたまま、レイラインは基地の様子を見つめていた。

 想像していたよりも若い人が多く、ケイティのような子供も多く見受けられる。

 

「ここに居る子供はみんな、親が亡くなって居場所がなくなった子たちよ」

「居場所が無い…?」

「そう。元から兵士だった人はみんな死んだの。さ、着いたわよ」


 ベッドに向かって放り投げられるレイライン。

 軋む音と共に埃が宙に舞った。


「あなたのメディカルチェックと一緒にマハトについても調べさせてもらうわ」

「はい」

「それじゃあ……」


 不敵な笑みと共にレイラインに迫ってくるベルベット。

 レイラインは一瞬にして察っし後悔した、了承するんじゃなかったと。

 彼女の悲鳴が基地内に響いたところで、気に留める者は一人もいなかった。


「結果から言わせてもらうとマハトが無い以外は健康そのものね」

「うぅ……もうお嫁に行けない……」


 キーボードを叩きながらベルベットが結果を知らせる。

 一方でレイラインは薄いシーツ一枚で身を隠しながら縮こまっていた。

 ディスプレイに表示された結果を見ながらベルベットは頭を捻った。


「本当に不思議ね…本来であればマハトの有無で生死を確認するのだけど、あなたはどう見ても生きてる。もう少し詳しく調べたいところだけど、もう疲れているでしょ?お風呂にでも入ってきなさい」


 ベルベットは基地内の地図を手渡した。

 基地の端の方に一部屋、入浴施設と書かれている場所がある。

 レイラインは衣類を纏うとその施設を目指して歩を進めた。

 通路を歩いていて気づいたことがあった。

 先ほどは上から見下ろしていて気付かなかったが、基地にいる人々の表情は意外なほどに柔らかかった。

 反乱軍と聞かされていなければ養護施設と思えるほどに朗らかだったのだ。

 そうこうしているうちに入浴施設にたどり着いたレイラインは、更衣室で衣類を脱ぎ広めの湯に体を浸した。

 

「はぁー……生き返る……」


 昨夜から多くの出来事に巻き込まれた身体の疲れがジワリと溶け出すかのような錯覚さえ覚える。

 脚を伸ばし両手で脹脛に触れマッサージをする。

 入浴施設の扉が開く音がする。


「隣、いいですか?」


 入ってきたのはイナギだった。

 長かった黒髪を頭頂部で団子状にまとめている。

 断る道理もないレイラインは快く許諾した。

 ちゃぷんとゆっくり湯船へと浸かるイナギの肌はまるで陶器のように白く滑らかだった。

 イナギの姿に見惚れていると声が掛かった。

 

「レイ、あなたはここの様子を見てどう感じましたか?」

「なんていうか、良い意味で基地っぽくないって言うのかな。小さい子たちは遊んでいるし、大人たちもそれに付き合っている様子もあって……」


 レイラインは感じたことを全て話した。

 イナギは何度か小さく頷き、ニコリと笑顔をこぼした。


「良かった、あなたの目からもそう見えましたか」

「基地なのにそれでいいの?」

「ええ、ここは基地である以前に居場所を失った人たちの家でありたいのです。ですから、皆が笑顔でいられることが一番だと考えています。いつかはこの国全土がそうなれればと」

「そっか、イナギってすごいね」

「そうですか?」

「うん、すごいよ。だって私とそんなに歳が変わらないのに自分でたくさん考えて動いてるし」


 レイラインは自身の玲斗としての生い立ちを話した。

 転生したということと、自分が元は男性だったことは隠しつつ。

 自分の意思が無く、誰かの指示に従ってただけだということ。

 

「ギアドールを動かしたのも偶然、そこにあったからだしね」

「いいえ、確かにギアドールは偶然にも目の前にあっただけかもしれません。しかし、それに乗って戦おうとしたのはあなた自身の意思ではありませんか?」


 イナギの言葉にハッとする。


「誰かの指示に従ってしまうのもあなたが優しい人だからではないでしょうか。少なくとも私はそう感じます」

「そう……かな?」

「まだあなたのことはよく知りません。でもあなたは悪い人ではない、私が保証します」


 褒められ慣れていないレイラインは真剣な眼差しのイナギから目が離せずにいた。

 

「本当はレイ、あなたを巻き込みたくはありませんでした。あなたのこの綺麗な肌が傷つくことになるかもしれない」


 イナギが優しく指でレイラインの肌をなぞる。

 こそばゆくもレイラインはその指を振りほどくことが出来なかった。


「でも、皆のためにも…あなたの力が必要なのです。改めて、手を貸していただけますか?」

「何回聞かれても答えは一緒だよ、私は友達のために戦う。そして、あの笑顔をなくしたくない」

「やはり、あなたは自分の意思で動けるお人なのですね。そろそろ上がりましょう、逆上せてしまいます」


 ざばっと水を滴らせながら立ち上がるイナギに続いてレイラインも湯船から出る。

 脱衣所に向かったレイラインは自分の服が無いことに気が付いた。


「あれ、私の服が無い?」

「ああ、言い忘れていました。レジスタンスの一員として、あなたにはこれを。きちんとしたサイズは図っていませんので私のモノなのですが、おおよそ体格は一緒ですし着れると思います」


 イナギが手渡したのは基地内で何度か見かけたデザインの服だった。

 白を基調としながら赤いラインの入ったそれを受け取り、身に着けていく。


「あ、あれ……?」

「どうかしましたか?」

「胸の所がキツくて……閉まらない」

「……ちゃんとしたサイズで作りましょう」

 

 そう言ったイナギの表情はどこか暗かった。

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