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Gear Doll / Princess Crown  作者: 絢瀬 耀
The Awakening of Savior
4/8

Resistance

 山の向こうから太陽が昇ってくる。

 差し込む光は焼け焦げた平原を明るく照らした。


「ん……んん……」


 居住地を喪ったレイラインは一晩、リベレイター内部で過ごした。

 その影響で、身体中のあちこちが軋んで悲鳴を上げている。

 体を伸ばし捻ると、隣には静かな寝息を立てながら眠るイナギの姿があった。

 朝露に濡れた睫毛がより一層、イナギの美しさを際立たせている。

 玲斗だったころには絶対に会うことはなかっただろう少女を起こさぬように、レイラインは地面へと降り立った。

 家があった場所は焦げた木材が散乱し、僅かに残った家畜もどこかへと行ってしまった。

 3か月しか住んでいないとしても、思い入れのあった場所がなくなったことでレイラインの心はひどく痛んだ。


「レイライン……?」

「あ、おはよう。イナギ」


 頭上からイナギの声が降り注ぐ。

 まだ微睡む瞳を擦りながら、イナギもリベレイターから降りてくる。


「どうかしたのですか?」

「ああ、うん。これからどうしようかなって。全部、燃えちゃったし」

「それでしたら……」


 イナギの声は突然の轟音にかき消される。

 上空を見上げると、そこにはギアドール程度なら何機でも載せられそうな巨大なティルトローター型の輸送ヘリが旋回していた。

 また敵がやってきたのかと構えるレイラインに対し、イナギは大きく手を振っている。

 広い場所に着地した輸送ヘリから一組の男女が降りてきた。

 男の方は筋骨隆々、いかにも無骨な雰囲気だがその表情は柔和で人柄の良さが溢れている。

 一方で男の隣に立つ少女は無口なままレイラインを睨んでいる。

 見た目から彼女よりも年下、子供と呼んでも差し支えないような見た目だった。


「よぉ、お嬢。無事だったかい?」

「ええ、ニック。よくここが分かりましたね」

「お嬢を捜索していたとき、火柱が見えましてね。それを目印に飛んできたら案の定って感じですわ」


 ニックと呼ばれた男はケタケタと笑いながらリベレイターを指さしながら言い放った。


「イナギ、この人たちは?」

「ああ、紹介が遅れました。彼らは私の仲間です」

「俺はニコライ・キッド、みんなからはニックって呼ばれてる。こっちのちっこいのがケイティ・ローズ」

「……ちっこくない」


 ニックの脛をローズが蹴りつける。

 それほど痛くはないのか、気にも留めずにニックは笑っていた。

 レイラインは差し出されたニックと握手を交わした。


「レイライン・ディーンハルトです」

「お嬢ちゃんがあのギアドールを動かしたのか?」

「はい。父が遺したものみたいで」

「何をしているんですか、早く」


 先に輸送ヘリに乗り込んでいたイナギが催促する。

 その様子を見てニックは両肩をすくめた。


「どうやらお姫様はお早い帰宅をお望みのようだ。お嬢ちゃん、あのギアドールを載せるから動かしてくれ」

「あ、えと……実は……」


 レイラインはニックに自分にはマハトが無く、一人ではギアドールを動かせないことを打ち明けた。

 事の顛末を聞いた彼は困ったように頭を掻いた。


「私が同乗します。それで動かせるでしょう?」


 狼狽えているレイラインの手をイナギが引っ張る。

 そうこうしているうちにイナギはレイラインと共にリベレイターに乗り込んだ。


「ひとまずマハトの問題は基地に戻ってから考えるとして、今はこの方法で動かしましょう」

「ごめん」

「謝罪よりも感謝の言葉がいいです」

 

 申し訳なさそうにするレイラインの額を小突きながら冗談めいて言う。

 にこやかなイナギの表情に、ついぞレイラインも噴き出した。


「うん、そうだね。ありがとう、イナギ」

「どういたしまして」


 ゆっくりと膝を上げるリベレイター。

 ケイティの誘導に従い、慎重に輸送ヘリへと乗り込んでいく。

 小さく振動したかと思うとモニター越しにニックが搭載完了の旨を伝えてきた。

 リベレイターから降りると同時に輸送ヘリのエンジンが動き出す。

 少しずつ上昇していく輸送ヘリの中で、やや浮遊感を感じる。


「俺たちの基地まではちょいと遠いからな、ゆっくり休んでいてくれ」


 操縦桿を握るニックがにこやかに後方へ投げかける。

 隣ではケイティもヘッドセットを付けて座っていた。

 窓の外を覗き込めば、今まで住んでいた燃えカスが少しずつ小さくなっていくのが見えた。


「ねぇ、イナギ。昨日のアレはいったいなんなの?」

「そうですね、そこからお話ししないといけませんね」


 イナギは事の顛末を語り始めた。

 かつてパンジャード公国は海に囲まれた島国ということもあり、外的脅威に曝されることなく長い間、国民は平和に暮らしていた。

 大陸を統べるガルベスタ帝国はそんなパンジャードを支配せんと幾度となく威嚇を行い、パンジャード国王はそれに対抗するために軍事力を配備しようと進めていた。

 しかし、一部の国民がそれに反対し軍の配備を拒んだ。

 軍を置けば戦争になる。

 そう考えていた者に同調する他の国民も現れ、彼らの対応に追われているうちに、ガルベスタはパンジャードに侵攻。

 結果、満足な戦力もなかった公国はあっという間に陥落し、帝国の圧政下におかれることとなった。

 公国民はそれが国王の怠慢によるものだと糾弾し、国王は処刑されてしまった。

 

「その国王が私の父、ラシミです」

「ってことは、イナギって本当にお姫様だったの!?」

「お姫様というのは些かこそばゆいですが、そうです」


 知らずとはいえ一国の姫に非礼を働いたと思ったレイラインは汗が止まらなかった。

 その様子に気が付いたのかイナギは微笑みながら彼女の手を握った。


「今はもう公国はありませんから、私は一人の女の子にすぎません。それに、あなたは私を救ってくれた恩人です。これからも変わらずに接してください」

「イナギが良いって言うなら」

「ふふ、初めて友達が出来ました…見てください、レイライン」


 イナギに言われるままに眼下へと目を向ける。

 そこには多くの人々と、少ないながらもギアドールの姿があった。


「帝国にしはいされたからと言って反抗の意思を失ったわけではありません。彼らが私たちの仲間、レジスタンスです」

「レジスタンス……」

「レイライン、お願いです。あなたの力を貸してください」


 深々と頭を下げるイナギに面を喰らうも、レイラインは彼女に頭を上げるように言った。


「私に何が出来るか分からないけど、出来ることなら力を貸すよ。だって友達でしょ?それに、私のことはレイでいいよ。レイラインって長いでしょ」

「ありがとう、レイ!」


 レイというあだ名、それはレイラインがまだ玲斗だったときに呼ばれていた名でもあった。

 

「着陸するからしっかり捕まっててくれよ」


 ニックの言葉を皮切りに輸送ヘリがホバリングを始め、ゆっくりと地面に着陸した。

 扉の向こう、目の前に広がる景色にレイラインは息をのむ。

 

「ようこそ、私たちの基地ヴィンゴルヴへ」

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