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Gear Doll / Princess Crown  作者: 絢瀬 耀
The Awakening of Savior
2/8

This is War

 転生してから、おおよそ3か月ほどが経った。

 最初こそ戸惑ったものの、1か月辺りから玲斗も順応していた。

 その3か月でいくつか判明したことがある。

 今の彼は"三上 玲斗"ではなく"レイライン・ディーンハルト"という17歳の少女であるということ。

 レイラインに家族はおらず、小高い丘で家畜を飼育しながら生活しているということ。

 そして、この世界がかつて住んでいた世界とは全く異なる世界の島国、パンジャードという国であるということだった。

 不思議なことにレイラインとして過ごしてきた17年間の記憶と玲斗として過ごしてきた25年間の記憶の両方を持っていたレイラインは、不自由することは無く3か月を過ごしてきていた。

 

「みんなー、ご飯だよー!」


 家畜小屋に飼料を放る。

 生息している家畜は元の世界と変わらず、牛や羊、鶏などだった。

 レイラインはこの生活に満足していた。

 元の世界では文字通り死ぬまで働かされたが、今は悠々自適かつ平穏に暮らしている。

 誰も彼女を縛る者はいなかった。


「ある意味じゃ天国かも」


 袖口で額の汗を拭い去り遠方に目を向ける。

 小さな影が目に留まる。

 目を凝らすと、それはボロボロのローブをまとった人間だと気付いた。

 ローブの人物はフラフラと、今にも倒れそうに歩を進めている。

 レイラインはバケツを放り投げ、すぐさまにローブの人物のもとへと駆け寄った。

 

「あぁ、良かった……」


 彼女の姿が目に入り気が緩んだのか、ローブの人物はその場で倒れこんだ。

 レイラインがたどり着いた先で見たのは、美しく艶やかな黒髪をした一人の少女の姿だった。


「こんなところに人が来るなんて」


 3か月間、誰も来なかったこの場所に来た少女を不審に思いつつも放っておくことが出来なかったレイラインは、少女を抱えて自宅へと戻ったのだった。

 どっぷりと日が暮れて、辺りが夜の闇に包まれた頃。

 ベッドに寝ていた少女はゆっくりと目を開いた。

 

「あ、目が覚めた?」

「ここは……?」

「ここは私の家だよ。難しい話は後にして、はい」


 レイラインは、出来立てのかぼちゃのスープを手渡した。

 申し訳なさそうに黒髪の少女はスープを受け取る。

 少女は一口、スープを含むと目を大きく見開き、あっという間に平らげてしまった。 


「よほどお腹が空いていたんだね」

「あぅ……すいません…」

「ううん、大丈夫。それより、こんなところに何の用?」

「ヴァンクロード・ディーンハルトを探しています」


 その名前を聞いた途端に、鍋をかき回していたレイラインの手がピタリと止まった。

 少女の発した名前、それはレイラインの父親の名前だった。

 ヴァンクロードはレイラインの記憶によれば、もう数年前に亡くなっている。


「……どうして探しているの?」

「優秀な技師だった彼の力を借りたいのです」

「それは、どうして?」

「戦争を終わらせるために」


 背中で聞いていたレイラインは振り返る。

 少女の表情は真剣そのもので、おおよそ冗談で言っているようには見えなかった。

 静寂が張り詰める。

 少女はベッドから抜け出る。


「助けていただいたことには礼を言います。ですが、わたくしは早くその方をみつけなければなりません」

「残念だけど、その人は見つからないよ」

「なぜですか?」

「私はレイライン・ディーンハルト。ヴァンクロード・ディーンハルトは数年前に亡くなった私の父だから」

「そんな……」


 まるで全てを失ったかのような表情の少女に、レイラインはかける言葉が見つからなかった。

 こんなボロボロになるまで方々を探し回った相手が既に死んでいると言われれば、こうもなろう。


「分かりました、レイラインさん。ありがとう、私はこれで……」

「待って!えっと……」

「そういえばまだ名前を名乗っていませんでしたね。私はイナギ・ムラクモと申します」


 イナギは玄関に掛けてあったローブを手に取る。

 その足取りは未だおぼつかず、フラフラと軸がぶれていた。


「もう少し休んでからの方が……」

「いいえ、これ以上あなたに迷惑は……」


 イナギが言い終わる前に、激しい爆発音が響き窓ガラスが砕け散った。

 窓の外が急激に明るくなる。

 何事かと窓の外を見ると、家畜小屋が深紅の炎に包まれていた。

 命からがら逃げだしただろう家畜も混乱し駆け回っている。


「遅かった…奴らに見つかってしまったっ……!」

「いったい、どういうことっ!?」


 爆炎の向こう側、そこには20mはあろうかという黒い影が立ちはだかっていた。

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