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貴方が帰ってきたら

作者: こすもどり

ネット版オー・ヘンリー短記みたいなもの第二弾。

 ここ日本国のとある街には、『タッカン4649』って人物が住んでいる。

 もちろん、そんなおかしな名前の人物がいるわけがないので、おわかりの方はおわかりだろう。そう、『タッカン4649』はハンドルネームという奴だ。

 分からない人に説明するならば、インターネット上で使われる偽名である。もう少し優しい言い方をするなら、出版物などにおけるペンネームと同様だと思ってもらいたい。


 この『タッカン4649』というハンドルネームの人物は、両親と暮らす二十歳前ぐらいの青年である。以後はタッカンと呼ぶことにしよう。

 タッカンはまだ学生の身であり、お世辞にも男前と言えるような顔立ちはしていない。髪の毛など癖毛があるのにあまり整えることもなく、無造作ヘアーという名のズボラである。タレがちの目元など野暮ったく、しゃくれた骨格か滑稽だ。

 大した学があるわけでもないため学校は二流、三流以下であるし、その中でも中間ぐらいの成績を納めているかどうかといったところ。


 それでも、彼は密かな目標があった。

 インターネット内にはいくつもの動画サイトがあることを存じている方も多いと思う。それは企業主体の視聴用であるだとか、大勢のユーザーが集まる投稿用サイトだったり、と多岐に渡る。

 こういった動画サイトは年々増えて行っている。ユーザーもまたそれに合わせて増えて行く。例えサイト名が違ったところで、動画サイトを開く者が減るわけではない。


 タッカンもまた例にもれず、とある動画投稿サイトの常連であった。

 彼自身も動画を投稿している。

 とは言っても、有名どころの動画投稿サイトでは多くのユーザーと競合することになってしまう。当然、視聴ユーザーの気を引く動画を作って投稿することこそが目的になる。

 なぜ大勢の視聴ユーザーを集めたいのかと言えば、簡単な理屈だ。


 広告料である。

 もちろん、他のユーザーの全てがそういうわけではない。自己顕示欲の賜物だったり、何かを伝えたいからやっている人もいることは注釈しておく。

 広告料というのは、動画の再生ページや動画内に埋め込まれた企業の宣伝などのことである。バナーやら、動画の途中で無関係な内容の映像が流れるなど、経験のある人は多いのでは無いいだろうか。


 大雑把な目安として、トップ100以内で月収70万、年収900万である。タッカンも願わくばそのレベルまで到達したいと思っているようではあるが、才能もお金もない。あるのは学生としての持て余した時間だけというタッカンは、タイトに動画を投稿し続けるしかないのだ。

 そう言うわけで、タッカンが如何様な動画を投稿しているのか少し見てみよう。百聞は一見にしかず、である。




 最初は、まだ投稿し始めたばかりのサル真似みたいなものばかりであった。

 ゲーム実況はそれなりに一般的ではあるが、プレイヤとしての技術があるわけでもなければ、新作ゲームが手に入るほどお小遣いはない。そんなことができるのなら、最初から動画投稿などしていないだろう。

「チェッ。やっぱり駄目かぁ……」

 上手いトークもなく、ほぼ淡々とゲームをやり続ける下手くそな動画に視聴ユーザーは寄り付かなかったようである。


 次に挑戦したのは商品等を宣伝する動画だ。しかしこれも、新しい商品を手に入れられるだけの経済力は皆無で、知識も知恵もないといった惨敗具合である。

「学生だし流石に顔出しはエヌジーだよ、クソ視聴者ッ! 大体、ミキサーなんて料理もしない俺がどうやって上手く紹介できるんだよ……」

 完全に選ぶ品物を間違えている始末だ。


「今度はこちらのお菓子を食レポしていきたいと思いまーす」

 馬面のお面を被ったタッカンが、カメラの前で新作オヤツの紹介をやっている。これならお小遣いの範囲で購入でき、味という個人の感性で済まされるため上手くいきそうだ。しかし、こうした物にだって勉強は必要であった。

 どうしてそのお菓子ができたのか、といったことも取材しなければ薄いものになる。美味しい、不味い、どんな味か、などというだけではなくて購買意欲を掻き立てるだけのプレゼン能力も必要になるのだ。

「不味かった、だとぉッ? 俺は美味しいと思ったんだから仕方ねぇだろ!」

 こればかりは個人の感性だから仕方ない。


 他には子供との活動や遊びを動画にするというものだが、タッカンはまだ成人もしていない。故に子供はおらず、良くて近所の公園にいる子供たちぐらいのものであろう。

 しかし、ここ最近は不審者だの変質者だのと、親の監視が厳しいうえに子供たちの警戒心もそこそこある。一昔前ならば、近所のお兄ちゃんが遊びに参加して騒ぐなどと言ったことは普通だったのに。

 また、遊び場自体もどんどん減ってきているのもそうしたコミュニケーションが減っている要因ではないだろうか。近くの住民から「子供の遊ぶ声が煩い」とか、「ボールが飛んできて窓ガラスが割れるかもしれない」とか、遊ぶことすら肩身が狭くなってきている。


「流石に、この辺りの人と付き合いのない俺が遊んでやろうとしても警戒されるだけだしなぁ……。うん? そうか、その手があったか!」

 最後に残されたのは、面白いことをやって笑いや関心を引くネタ動画というジャンルである。そして、本来ならば不名誉なことである不審者扱いを、タッカンは閃きによって利用する手を考えた。

 その名も。

『不審者のフリをして通報されてみた』という題の動画だ。


 馬面の被り物をして、怪しい挙動で遊んでいる子供たちに近づいて行くだけだ。それを隠しておいてカメラで撮影する。

「うわぁ、何あれ?」

「バカじゃない?」

 最初は口々に言って、小馬鹿するだけだった子供たち。

 体を左右にクネクネと動かしながらだったり、「ウヘヘヘッ」と笑いながら近づいてみると、次第に子供たちの表情が引き攣っていく。


「へ、ヘンタイだッ……!」

「ヤダー! 怖いよー!」

 子供たちが騒ぎ始めた。中には防犯ブザーを引き抜く子供もいる。

それを聞きつけた大人が通報する。

タッカンはカメラだけ回収するとすぐさまその場を逃げ去り、家に駆け込んで息を整えた。

「ハハハッ、これは面白い動画になるぞッ!」

 タッカンには確信があったようだ。


 犯罪になるかどうかスレスレの行為を撮影した動画というのは視聴ユーザーが多く付く可能性が高い。しかも、カメラを見返してみればかなり上手い具合に子供の表情や言動、通報した大人の声も入りこんでいる。

「ハハッ。やっぱりこういう動画が良いんだよ。通報した、とか言う馬鹿もいるけど、誰もがこういうアウトローなものを求めてるんだ!」

 そして、その動画は予想通りこれまでにない視聴ユーザーを獲得するに至った。


「笑いたければ笑えよ。叩きたかったら叩け!」

 気が大きくなったのだろう。動画についたコメントを見て、タッカンは一人大はしゃぎだ。これまで良くて百幾らだった視聴ユーザーが、その動画においては十倍ぐらいになったのだから仕方のないことだろう。

 しかし、これだけで終わってはいけないとタッカンは考えたはずだ。

 それからも、次々に迷惑なおバカ行為を考えては実行して、撮影と投稿を繰り返すのだった。


 『信号待ちの車の前に出て踊ってみる』という動画を撮影した時など、目の前に馬面の被り物をした男が躍り出したことで、運転手の唖然とした表情が酷く受けた。

「お、これはマジでその時の運転手がコメントしたって感じだな。被害者周回済みでさらに伸びてるじゃないか」

 被害者はかなりご立腹のようだったが、泣き寝入りかもしくは動画サイトの扱いに慣れていない所為か、削除は求めてこなかった。当然、運転手やタッカン自身には目線を入れているので個人の特定はできない。と思う。


 他にも『コンビニで挙動不審に振舞ったらどうなるか』というものも撮影していた。

 まず、そのコンビニに置いていない商品を調べる。次に、別のお店でそれを買ってカバンに忍ばせておくのである。そしたらコンビニへ入って、しばらく商品を手に取っては周りをキョロキョロと見回し、カゴにも入れず戻す。たまにカバンを開けたりもする。特に客の少ない時間帯を狙ってそんな動作を繰り返すのだ。

 そして何も買わずに外へ出て行く。


 三軒ほどコンビニを回った。仕草なんかも考えて、三軒目で漸く店員がタッカンに話しかけてくる。

「お客様、申し訳ありませんがお荷物を改めさせて頂いてよろしいでしょうか?」

「は、はいぃッ?」

 声を掛けられた時の反応も何度か家でリハーサルしていた。


「いえ、ですのでそちらのカバンの中身を確認させていただけますか?」

「な、なぜですか……? これは僕のカバンですし……」

 ハキハキとは喋らず、目を逸すなどすると、店員は面白いように怪しんでくれる。そしてしばしの押し問答の後、ハッキリと万引きを疑っていることを伝えられてバックヤードへ促されたのだ。


 しかし、カバンの中にはありきたりな荷物と別の店で買った商品だけだ。

「これ、スーパーで買った商品のレシートね。後、自分の店に並べてる商品を調べるだけでこんなに時間かかるんですか? どんだけ待たされたと思ってるんです?」

 レシートを提示して、お店に並んでいないことを確認させた後は、強気に出てみせる。無論、店員に土下座させたりなんかはしない。受けるかもしれないが、あれはあれでやり過ぎだと思う視聴ユーザーも出てくるからだ。




 そんな感じで、犯罪になるかならないかのところでイタズラ動画を撮影し続ける。もしかしたら、こじつければ犯罪に当たるようなこともしたかもしれない。

 それでもイタズラはうまい具合に成功して、投稿する動画は視聴ユーザーをどんどん増大させていく。一つの動画が一万回ぐらい再生されるようになったのだから、タッカンもウハウハである。


「俺って才能あるんじゃねぇか? 動画とかが炎上する奴なんて三流だ。一流は、ヤラセかどうか疑われるギリギリのところで面白いと思わせることを続けられる奴さッ」

 きっと気が大きくなりすぎていたのだろう。

 家のチャイムが鳴ったことには気づいていながらも、母親とどんな会話をしていたのかまで聞き耳を立てていなかったからだ。そして、部屋の前まで足音がやってくるまで、なんの行動すらも取れなかったのだから、入ってきた時の光景が滑稽に見える。


「西署の者ですが、貴方を……の容疑で連行させて頂きます」

「ヘッ? え、えっと、なんの……? いったい、どういう……ッ?」

 その時のことは上手く入ってきていない。

 それでも慌てた様子のタッカンと、警察の人達の腰ぐらいまでは見えていたので問題はなかった。会話もやや不明瞭だったりしたものの、それが余計に信憑性を持たせてくれた。


 一応、重大な犯罪にはならなかった。

 数日の拘留と事情聴取を受け、厳重注意という形でタッカンは解放されることになったらしい。

 バカバカしくて大変な息子だとは思うが、それはお互い様かもしれない。

「貴方を隠し撮りした動画が、もう10万再生超えたわよ。帰ってきた貴方がコレを見たら、とても驚くんでしょうね」


社会的にも話題になりましたよね。

どこぞの営業所だかにチェーンソー持って、とか。アイスのケースに入るとか。

動画じゃないけどSNSに、食べ物を粗末にしてお店へ迷惑かける行為を投稿したり。

危険運転の動画を上げる人までいる始末。

もしそれらを、面白いと思ってやってるならば後悔する方がいいと思います。しかし、然るべき形で然るべき方法を持って、ですよ。

私刑や風評被害を出すのはよろしくありません。

他の人まで良識を投げ捨てないように。

以上。


というか、逮捕ネタ多いですね。今度はもっと別のネタにしてみましょう。

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