第九話 魔王様の贈り物
「それじゃあ何か食べましょうか」
「じゃあ料理店から盗んでくればいいか。どこいく?」
「センパイ、私寿司が食べたいッス!」
「いやー、俺も寿司とか食べたいけどちょっと鮮度落ちちゃってると思うんだよなー。俺はステーキとか食べたいかな」
「ステーキ? それも鮮度とか考えたらやばいと思うわよ?」
「そっかそうだな……」
いやー、結構難しいもんだな……とりあえず食べたい物じゃなくて食べられる物を考えるとするか……。
「料理店で食べるっていうのは無理っぽいわね……スーパーの材料で自分達で作るか、カフェ的な場所でドーナツとかを食べるかって感じね」
「せっかく来たんだし、ドーナツとかのほうがマシかな」
ということで、俺達はカフェに来ていた。まあカフェとは言ってもコーヒーとかは豆で置いてあるしわからないから、冷蔵庫に置いてあったジュースくらいしか飲むものはなかった。
その代わりに、ドーナツなどの小腹を満たす感じのやつは大量にあった。俺達はジュースとドーナツで腹を満たした。気がつけばあんなにあったドーナツは跡形もなく無くなっていた。
うん、わかってるよ君達の言いたい事は。食レポしろって言うんだろ? わかってはいる。だけどな、無理なもんは無理だ。普通のジュースと普通のドーナツ食ってどう食レポしろと? たしかに、たしかに空腹という最大の調味料も合わさって普通に美味しかったよ? でも感動できるほどではないじゃん? それともなに? テレビに出てるアナウンサーみたいに適当に当たり障りないこと言っとけばいいわけ?
それでいいならやってやるよ。
「うわー、このドーナツすっごい美味しいですー! ふわふわしてて、口に入った瞬間溶けていくっていうかー? 最高ですねー!」
「どうしたの、新庄君……」
うん、こうなるのはわかってた。だから俺はやらなかったんだよ。素人の食レポに期待しちゃダメ! まあ食レポしてみたかったのはあるしいいんだけどね。
「よし、やりたいこともやったし帰るか」
「どこにッスか?」
あっ忘れてた……今から家に帰ってもって感じだしな……。
「ここならベッドもあるし、住み着いちゃっていいんじゃないかしら」
「広いし襲われる可能性も増えると思うぞ? レベル上げとかしたいんだけど雑魚モンスターしか出てこない場所とかないのかな?」
「読んだか?」
「なっ!?」
急に男の声がしてびっくりしてしまったが、この声は聞いたことがある。魔王だ……。
「それで新庄君、どうする?」
「だからなんで我を無視できるの? 殺すぞ?」
「有益な情報を喋ってくれるのなら発言するのを許可するッス」
「おかしいなぁ……我が発言を許可する側だと思うんだけどな……」
相変わらずの魔王いじめに、俺も慣れてきた。魔王別に本当に殺してきそうじゃないしな。
「まあよい、我が有益な情報を吐いてやろう。貴様ら以外の約七十億人の人間を覚えているか?」
「当たり前だろ」
「そいつらの中でも早速リタイア組が出てきている。そいつらをこちらに呼び戻してやろう。クックック」
マジか! 魔王様いいんすか!
「早速合わせてくれよ!」
「いいだろう。精々足掻いてみせろ」
辺りを見渡すと、異世界に飛ばされていた人間……がゾンビとなって俺達を襲おうとしていた。
「ちょっ、ちょっと待ってよ!」
「こんな話だって聞いてないッス!」
「マジかよ……クソッ、やるぞ!」
こういう時俺はどうしたらいいんだ? 戦力にはならないだろうし……召喚できるのもダンゴムシとか蚊くらいだし意味ないし……。
「新庄君、危ない!」
考え事をしていたら、ゾンビに襲われそうになっていたらしい。俺を突き飛ばしてくれた凛は、紙一重でゾンビの攻撃を避けていた。
俺が戦力にならなくても、それでも死ぬわけにはいかないんだ。せめて、お荷物にだけはならないようにしないと……。
幸いな事に、ゾンビの動きは見た感じそれほど速くはなく、俺でも避け続けることは出来そうだった。
だが、戦況は芳しくなかった。30ほどいるゾンビが、俺達を囲んできていた。よく見ると、日本人だけじゃなく、黒人だっただろうゾンビもいた。というより日本人っぽいゾンビのほうが少なかった。当たり前か。強いゾンビと弱いゾンビがいたようにも思えた。もちろん、こちらも凛の魔法やカスミの剣技のおかげ攻撃を食らってはいないが、それも時間の問題だろう。
「2人とも、ちょっと待ってろ、死ぬなよ!」
「えっ、ちょっと新庄君!?」
俺はゾンビに正面から向かっていき、攻撃を躱しつつゾンビの群れを抜ける。弱そうなゾンビのほうに向かったので、なんとか躱しきることが出来た。そして、攻撃を空振ったゾンビなどには目もくれず、ゾンビから離れる方向に向かって走った。
「おいこっちだゾンビ共!」
俺が声を上げると、俺の近くにいたゾンビは俺を追ってきた。これで凛とカスミが対応しなければいけないゾンビが減ったはずだ。あとは凛とカスミがゾンビを倒してこっちに来てくれるまで逃げ切るだけだ。
何時間逃げただろうか、俺の足は棒のようになっていた。
「クソッ、まだか凛、カスミ……」
ふと時計を見ると、まだ20分も経っていなかった。だが、追ってきているゾンビも減ってきている。
あともう少し、もう少しだけ耐えれば……。
だが、そのもう少しはとてつもなく長いもう少しだった。そして遂に、1体のゾンビに追い詰められてしまった。後ろには瓶に入った酒が大量に置いてあった。
やるしかないか……。
俺はおもむろにその瓶を手に取り、ゾンビに向かって振り下ろした。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
瓶は砕け散り、ゾンビは一歩後ろに後ずさった。だが、致命傷になったわけではなかった。ゾンビは俺に向けて攻撃をしてきた。
「間一髪ッス!」
「新庄君を傷つけようとするなんて許さない!」
カスミの剣がゾンビの身体を真っ二つにし、凛はそのゾンビを魔法で燃やしつくした。
「はあっ、はあっ、ありがとう2人とも……」
力の抜けきった俺はその場に倒れた。