第二話 ネクロマンサー
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「と、とりあえずあれ取るか」
俺はスマホのような物を指差して言った。だが、その一言が彼女らの気に障ってしまったようだった。
「はぁ? そんなことより先に説明してくれないかな?」
「そうっスよセンパイ、納得いかないッス、こんな女がセンパイの大切な人の2位に入ってるなんて」
「はぁ? 私が1位なんですけど?」
俺には上手い言い訳は思いつかなかったし、考える気も無かった。こいつらに何言っても意味が無いことくらい容易に想像がつくからな。それどころかこいつらの逆鱗に触れてしまうかもしれない。だったら、もう最悪を免れることは出来ないなら、俺は……。
「すまん、俺を気が済むまで殴ってくれ」
土下座をして、謝るしかない。何があっても許されないことだったとしても、それでも謝らない理由にはならない。どちらが上かなんて、俺には決めることが出来ない。
「ちょっ、顔上げなさいよ」
「センパイにそんなことをさせたかったわけじゃなかったッス、ごめんなさいッス」
「いや、いいんだ。俺は今でもお前らのことが大好きで、どちらかを選ぶなんて出来ない。こんなことで許されることじゃないこともわかってる。だけど、お前らが罵りあうのは見たくないんだ」
「うっ、わかったわよ、出来る限りは仲良くしてあげるわ」
「センパイが言うなら仕方ないッス。でも、埋め合わせはしてもらうッスよ?」
「ありがとうお前ら」
「じゃあ、あれ取るわね」
凛がスマホのような物を手に取る。すると、勝手に電源がついて、機会の音声が流れてきた。
《岡崎凛様とマッドレイブを同期致します》
マッドレイブってのはなんなんだろう? そんなことを悠長に考えていたら、スマホのような物から黒い影が溢れ出して、凛の身体に張り付いていった。そして、その黒い影は完全に凛を包み込んでしまった。
「おい、大丈夫か!?」
「もうそのまま帰ってこなくて大丈夫ッスよ?」
「ちょおいおいカスミ」
《同期が完了致しました》
「残念だったわね、帰ってきたわよ?」
黒い影はいつの間にか消え去り、手首に先ほどのスマホのような物が装着されていた。やはりこれがマッドレイブと言う物らしい。魔王からのプレゼントってとこか。魔王に助けられるなんてな。まあこんな状況になってるのは半分は魔王のせいだけど、ちなみにもう半分は俺ですすいません。
「どんな感じだったんだ? 大丈夫だったか?」
「ええ、特に痛みとかは無かったわよ、でも不思議な感覚だったわ。新庄君もやってみたらわかると思うわ」
「おうわかった」
俺はマッドレイブを手に取る。すると、《新庄燈様とマッドレイブを同期致します》と機械の声が聞こえ、黒い影が俺の身体を包み込んだ。だが、気持ち悪い感覚や痛みなどは感じず、むしろ心地よかった。そして、数十秒後視界が開けた。
《同期が完了致しました》
「わ、私もやるッス!」
《新井カスミ様とマッドレイブを同期致します》
《同期が完了致しました》
カスミもマッドレイブと同期したようだ。自分の腕を見るとマッドレイブが付いていた。取り外しは出来なさそうだな。風呂とかどうしよう。まあ風呂に入れるかどうかすらわからないけど。
とはいえ別に不快感があるというわけではなかった。それに、
汗で蒸れたりもしていなかった。今のところはだけどな。夏真っ盛りの今汗で蒸れる感覚がないなら多分大丈夫だろう……多分。
「あっ、新庄君! マッドレイブってやつ開いてみて! 色々情報が載ってた! 私は魔法使いって書いてた!」
「私は剣士ッス!」
魔法使いに剣士か、男のロマンが詰まってるじゃないか。これは俺の職業にも期待が持てるぜ! もしかしたら勇者とかあるかも? 俺も早くマッドレイブとやらを見てみよう。ところでこれどうやって使うんだ? 悩んでいると、凛が画面をタップすればいいよと教えてくれた。
凛の指示に従ってマッドレイブの画面をタップしてみた。すると、真ん中に俺のステータスが載っていた。
名前 新庄燈
職業 死霊使い
スキル なし
は? いやっ、おかしいだろ!? なんで剣士と魔法使いにネクロマンサーなんだよ! 勇者とかでいいだろうが! ネクロマンサーなんて、そんなのあんまりだ!
「ねぇねぇ、新庄君はどうだった?」
そう言ってふたりは俺のマッドレイブを覗き込んだ。俺は隠そうとしたが、遅かった。
「あっ、えっと、私は新庄君がどんな職業でも気にしないよ!?」
「センパイ、ドンマイッス!」
うっ、慰めが辛い。俺も仲間がネクロマンサーだったらちょっと嫌だわ。ってかネクロマンサーってどうやって戦うんだよ、能力を使ったりしたら死霊が湧いてくるのか?
《解 死霊使いは自分もしくは召喚した死霊が倒したモンスター及び生物を死霊として復活させ戦うことが出来ます》
うわっびっくりした。俺の心を読み取って答えてくれたってことか。異世界の技術やばいな。
「つまりセンパイはセンパイ自身の力でモンスターとかを倒さないと戦力にならないってことッスよね?」
「俺がモンスターを倒すなんて出来んのかな? モンスターを見たことがないからわかんないけど」
「私が新庄君を守ってあげるから大丈夫、ファイアの力をみなさい! 燃え上がれ木よ!」
そう言って凛は近くの木にファイアを唱えた。木はメラメラと燃え落ちた。
「どう? こんな女なんかより頼もしいでしょ?」
「なっ、私だって負けないッス!」
カスミは負けじと木の枝を拾い、さっき魔王が来た時に潰れたマンション目がけて走っていった。木の枝はいつの間にか剣に変わり、マンションを切りつけると、マンションの壁は真っ二つになった。そして、剣はまた木の枝に変化した。
「なんだよそれ! なんで木の枝が剣に!?」
「スキルで木の枝を剣にする能力ってのがあったッス、あっ、センパイスキル持ってなかったッスよね、ごめんなさいッス」
うっ、なんで俺こんなに弱いの? 俺が選ばれたんだよね!? 魔王が選んだのは俺だったんだよね!? なんで俺勇者とかそういういい職業じゃないの? おかしいよね!?
「ま、まあそのうちスキルも入手出来ると思うッス、訓練したらスキルを手に入れることが出来るって書いてたッス」
よかった、俺にもまだ可能性はあったのか。こうなったらスキルをたくさん入手してめちゃくちゃ強くなってやるぜ。ネクロマンサーなんて不遇な職業を押し付けてくれた魔王よ、見てろよ!
時間をかけてでも強くなってみせる!
しかし、そんな俺を嘲笑うかのように、モンスターに相応しい鳴き声が聞こえた。そして、その鳴き声はだんだんこちらへと近づいてきていた。
「なにあれ!?」
「どうした凛!」
「あそこに……」
凛が指差した方向には、巨大な鳥のようなモンスターが、俺達に向かって飛んで来ていた。