第十話 新庄君が起きる前に……
1日出すの遅れましたすみません
バタンッと音を立てて、新庄君が倒れた。駆け寄って確かめてみたけど、気絶しちゃっただけみたい。
「ねぇカスミ、私達ちゃんと演技出来てたよね?」
「心配症ッスね、大丈夫ッスよ、姉さん」
そう、私達は初めから全てを知っていた。いや、初めからというのは誤解があるかしら。私は見てしまった、あの日、新庄君が浮気をしているのを。というか、新庄君がやったことは全て知ってるんだけどね。新庄君の服全てに盗聴器仕掛けてるから、何をしても気付くんだよ?
あの日浮気をしていることがわかり、浮気相手をどうしてあげようかと楽しみにしてたのだけど、さすがに相手が妹だったからね……。
「あのときは本当に殺されるかとびくびくしてたッス」
「そんなことするわけないじゃない」
「相手が私じゃなかったらどうしてたッスか?」
「想像にお任せするわ」
「怖いッスねー」
「そんな事言っちゃって。あんたも私のこと殺っちゃおうとしてたじゃない」
「それは内緒ッスよー!」
それにしても、まさかカスミと同じ人を好きになるなんてね。世界は狭いってことを思い知ったわ。え? カスミと同じ人を好きになったまま何もしなかったのかって? もちろんあの人を独り占めしたい欲はあるわよ。だけど、妹の気持ちもわかるし、その気持ちを捻じ曲げるためには四肢くらい貰わないと無理そうだったし諦めたわ。カスミもそのくらいのことをしようとしてたらしいけどね。
そうそう、私達のお話を少しだけしておきましょうか。私達は姉妹ではあるけど、苗字が違うのよね。それはまあ単純な話よ。私達の母親はよく結婚して別れてを繰り返していたわ。だから私達の父親は全然違う人っていうわけ。よくある話よね。もしかしたらまだやってるのかもね。
え? なんでそれを知らないのかって? 決まってるじゃない。家出したからよ。私達は姉妹で引っ越した。両親も、探そうと思えばすぐに探せるだろうに、私達の家に来たことなど一度もない。当たり前よね。私達なんかに興味が無いもの。私達は母親に愛を貰ったことが無かった。母親のご飯なんて食べたことがなかった。いつもいつもコンビニの弁当を食べ、寝るためだけにある家に帰り、知らない男に見向きもせず寝床に入る日常。そんな毎日だったから、私達は愛を求めてしまった。そして、誰かを愛したかった。
カスミとは話をしたりしていたけど、愛することは出来なかった。自分の姉妹ではあっても、憎いあいつの子供でもあったから。それは向こうも同じだろう。だけど、新庄君がそれも変えてくれた。今では普通の姉妹よりも仲がいいと思う。まあ、新庄君は気付いていないでしょうけどね。
私は魔王とかいうやつに感謝してるわ。だって、私とカスミと新庄君だけの世界にしてくれたんだもの。私が望んだとおりにね。
「ねぇカスミ、久しぶりに新庄君にいたずらしちゃう?」
「面白そうッスね。睡眠薬を私達の家に置いてきてしまったせいで起きちゃうかもしれないッスけど大丈夫ッスかね?」
「スリルがあって面白いじゃない。まあ、ほどほどにしておきましょうか」
私達は、今までもこうして二人で新庄君にいたずらしてきた。時には……いや、いつも過激なこともしていたわ。まあ、内容はご想像にお任せするわ。けど今日そんなことをしたら起きちゃうし、バレても大丈夫なことだけにしておきましょう。
「新庄君の唇、いただきます」
私は新庄君の唇に唇を重ね、新庄君を抱きしめた。起きちゃうかと思ったけど、大丈夫だった。
「あっ、姉さんずるいッス! 私もやるッス!」
二人で新庄君の唇を奪いまくった。ただ、何度も何度も、温もりを確かめるかのように。過去を塗りつぶすかのように。
「姉さん、センパイが嫌がった顔をしてるッス」
「そうね、いい顔だわ」
「可愛いッスね」
少しばかりの罪悪感も心地いい。それほどまでに私達は狂っていた。狂っていることも自覚していた。それでも、それでもやめることなど出来なかった。私達は今日も、秘密を抱えながら生きている。