同じ敵、違う戦場 ①
【魔族】は男たちとは異なり戦場を用意するなどと言うことはできない。囮となって呼び寄せるのもかなりの危険を伴っている。囮も魔物と偽装した状態に幻影を纏わせ、そこに群がいるかの如く思わせそのまま戦うべき舞台まで連れていくのだ。
しかしながら彼らは気がついてしまった、どこに行っても居るはずの魔物が一匹たりとも見当たらないことに。これは非常に厄介なことになってしまったと思った、そして彼らは創造主が安易に魔物を消したと危惧し始めた。
彼らは知っている。補給が無くなれば次の段階の使者が現れ、それが猛威を振るうことも経験している。急ぎ囮部隊の中から姫へ伝令が飛ばされた、このままでは囮部隊は囮ではなく餌になってしまう。少くとも今進めている準備では噛み合わない。次の段階時の策に切り替えなくては……そう考えているのは囮部隊を率いてる老人の様な【魔族】の一人である。彼とて世界が違えばその歴史に名前を残しているいわば大魔族、S級魔族とも言われうるような存在である。現に彼もルルイエのいた世界にくるまではそのようにして生きてきた。それほどの【魔族】であってもこのように活動しているのがこの魔王軍である。
彼は一度目に散った時の慢心を恐れている。一度目は慢心、二度目は慢心はなくともメビウスとの戦力差による死。そして彼は率いている味方に指揮を飛ばし次の敵が来ることに備えた。次段階は感染ではなく、破壊の使者が現れる。奴らは世界の理を破壊し、世界が成り立たないように混乱に陥れる。故に必要なのは徹底的なリカバリーシステムと敵の工作にできる限り隙を与えないことだ。そのために囮ではなく必要なのはローラー作戦のように徹底的なあぶり出し部隊だ。しかしいくら名を冠するような【魔族】でも得意不得意がある。不得意だからといって出来ないことはないが得意な味方がやるに越したことはない。
そんな時である、幸か不幸かおびき寄せる目的のソレが現れた。
「*****」
ここの物ではない言語を使うソレは【魔族】にとっては久しい敵だ。無機物の、かといって機械ではない何かに取り込まれた少年を核とし、その意思のままに動く例の侵略者だ。
「***** ** **」
【魔族】の彼らはその言葉を理解している。なぜなら出自も使い方もすでに知っているからだ。何気なく久々の言語だなと思いつつ返してしまった。一方声をかけた侵略者の本体もまさかの反応だったようで
「*********……お、今度はちゃんと返してくれるぐらいにはノリがいいみたいだね」
「……自然と言葉が出てしまっただけですな」
【魔族】の老人は警戒度を引き上げた。これまでソレがこのように少しでも好感的に反応したことがあっただろうか、経験と記憶を出来うる限り掘り起こして次の行動と危険度を割り出していく。
「ふーん……それにしてもアレといいコレといいやけにこの新世界は経験者ばかりだねぇ?まぁやることは変わらないんだけどね!」
察知した僅かな動作から相手の攻撃がどこを狙ってくるかを見分けて的確に避ける。周囲に目配せすれば味方もしっかり判断を見誤ってはいないようで、これの誘導をと各々の役目を果たし始めた。
「残念だったねぇ!今回は上からのお達しでちょっと訳が違うのさ!」
笑いながら何を言ったかと思えば其奴の足元から同型で中央に何もついていない同じ輩が十数体ほど湧き上がってきた。
「なっ……おい、急いで引け!時間稼ぎなんて要らん!ゲート、まだか!」
これでは不味い。破壊の使徒でなくても複数体相手はしたくない。しかも見れば互いに侵食し合う様で個体同士で反発するように足元から広がる感染の輪同士がバチバチと火花がちっている。存在するだけで世界を侵食し始めたのだ。既に浸食された足元は無へと帰し次第に範囲は広がっていく。
【魔族】は味方の脱落に注意しつつ魔界へのゲートが開くのを急がせる。ゲート解放担当が暫く耐えた後に用意ができたようだ。
「ゲート開きます!……3……2……1……今!」
辺り一面が闇に包まれる。敵味方含め全員が沼に沈む如くズブズブとゲートに飲まれていく。
「ゲート汚染度合いは?!」
「まだ大丈夫です!」
このような手段をとるのにも訳がある、当然相手を逃さない、と言うのもあるがそれよりも重要なのは相手と接触しないという事だ。いくら改変から外れた【魔族】でさえ直接そのような存在と触れることは極力控えたいのである、これは彼らの攻撃手段の主軸の魔力に関しても等しく存在する考えなのである。
それに加えて個々の改変耐性をサポートする様に複数人で常に改変を監視、修正している。
「……せめて逃げるとかの行動を許して欲しいね」
「……それをさせないのが我らの役目なんでね」
そんなことを言いながら互いにゲートに全員が沈みこんだ。沈みこんでたどり着く先は魔界、彼らが戦うための最も有利な舞台である。
「……こりゃ驚いた、君たちは世界と運命を共にしなかったなんてね」
ちょっと体力的にしばらくの間毎日執筆更新が厳しくなります。夏バテのようですが書き溜めなど一切せずにこれまで書いてきたのでこんな時に滞るのが悲しいところ。