インスタント・スペシャリスト
「おとーさんが必要だと思うならマキナは賛成する、反対する理由がない……」
コーヒー牛乳を啜りながらも、喜びとは違って世界を見に行った時の反応の仕方をする。
さっきは確かに娘のように見えたのだがこれはなんというか仕事モード的なものだろうか。感情を切り離している感じがするのだ。……それでもおとーさんと呼んでくれる時点で何か違う気もするが。
◇
おとーさんには正直そのお手伝いは作ってほしくない、でもマキナが反対したらその新しいお手伝いに今の仕事をとってかわられてしまいそう。
最初に任されたときにあんな提案の仕方をしたのもそうだ。
おとーさんに使えると思ってほしい一心である。孫のようにかわいがるの一言は救いだった。素で喜べたのもそのおかげだ。
……しかしあの一言は不安要素以外の何物でもない。私がやるといえばお手伝いを増やさないでくれるだろうか。
「……おとーさん、そういうことはマキナがやりたいと言ったらやらせてくれる……?」
「マキナがやるのかい?別に構わないけども……またどうしてかな?」
「そ、それは……」
マキナは焦りを隠すのに精一杯になる。
非常にまずい、今ここで理由を言うのはまだ早い、笑って流してくれるほど信用が築けているとは思えないからだ。
「おとーさんに休んでもらうのにマキナがなにかしてあげたいから……」
マキナの理由は建前ではないがこれが精いっぱいであった……夢について話を聞くのももう少し後にしよう。その方がしっかりと話を聞けそうだ。
◇
……実際のところ男はそこまで考えていない。正確に言えばマキナを不要にするつもりも毛頭ない。
……しかしながらお手伝いを増やすのには別に理由がある。今後世界に降り立ったままで観察を続けるつもりでいるのだが休息と癒しのためと提案され先に作ってもいいのでは、と思った次第だ。
餅は餅屋、万能屋もいいが専門家が欲しいという話で、男自身は自分のコーヒーを入れる腕はその手のプロとは比べられる物すらないと思っている、だからこそその手のプロを作ってしまおうと思ったわけだ。
という話をして最初は認めてくれたのだがなぜかマキナが前言を翻して私が手伝うと言い出した。
孫をかわいがる身としてはうれしいことなのだが何か彼女の中で思うところがあったのだろう。
しかしながらマキナの希望とは別にもう一人ほしいスペシャリストがいる。私が元の世界ではほとんど触れていなかった分野のプロだ。
「なるほど……んー、そうだね。じゃぁ今度からマキナにお願いしようかな」
「おとーさん……」
「……マキナ、私は別にお手伝いを増やしたからといってマキナはマキナだ。私の孫……いや、娘みたいなものだ。今後何があってもいらないなんて思ったりしないよ?」
「……お、おとーさんはマキナの思ってることがわかるの?」
……ひどく動揺しているが何か隠しているのだろうか、今はそれがマキナがいらないという話とは別問題だし大事にはならないだろう。
「……何か引っかかるなら遠慮なくいってくれ。話を戻すが私の記憶も一部割いたからドワーフと聞いて分かるだろう?鉱物と鍛冶のスペシャリスト。私はそれをデータベースとしてそばに一人置きたい。……どうかな?」
マキナの顔色を窺いつつできる限りの優しい表現で聞いたつもりだ、これでだめならデータベースを何かしらの媒体で出すしかない。記憶で呼び出すという手は今回は不採用だ。
なぜならド忘れというものがある、特に起用回数が少ないとその可能性は当然増すし、そもそも覚えてないというのもあるだろう。
そもそもそんなものがなければ辞書だって一度覚えてしまえば手元に置かなくてもいいということになる。
「おとーさんは私のこと大事にしてくれるって信じてるから……」
要するに大丈夫だということだろう。
「ありがとうな。マキナはずっと大事にするからな」
「ん……」
◇
さて、いろいろあったが次のお手伝い、データーベースさんになるドワーフを作ろう。
今回はどちらかというと同僚のような存在であってほしいと思ったので”初老のイイおっさん”ぐらいを目指してみよう。
……彼を作るうえで行うことで一番の目玉は作る主よりも膨大な知識を持たせられたことだろうか。マキナの時は私のコピー、というのをベースに作った。今回は完全に求めている鉱物と鍛冶関係については全知といっても過言ではない存在を作ろうとしている。
データベースにデータ漏れは必要ないのだ。男の気分で光が舞う、何度目かになる意図的な演出。
そうして現れたのは……
「我が創造主様、今回私を作って頂けたことに最大限の感謝を。創造主様のお役に立てるように努めてまいりますので今後よろしくお願いいたします。」
予定通りドワーフだが……なぜか衣服も執事服だし、言動もそれっぽい。
「これはこれは……うん、よろしく頼む。名前は…自分でつけてみるか?」
「いきなりですか……そうですね……では、恐縮ながらトールと名乗らさせていただきます。」
そういうと洗練された無駄のない動作で礼をする。
……生まれたの数分前とは思えない綺麗な立ち振る舞いにあっけにとられる。
「創造主様、私がこのようにして生まれたのはあなた様が私をつくられる時に執事の印象をまぜたからでございます。」
「なるほど……ではデータベースとしての役割を果たすうえで問題はあるか?」
「いえ、全くありません。鉱物、鍛冶なら完璧に、そうでなくても粗方対応することができます。何なりとお申し付けくださいませ。」
「おとーさん、マキナでもすごい人だってことがわかるの……大丈夫だって言ったけど本当……?」
「マキナ様でございますね、ご安心ください、創造主様、ご息女様には私が全力でサポートさせていただきます。あくまで私はサポートですので心配する必要はございません。ところでマキナ様、コーヒー牛乳はいかがでございましょう?」
……どこからコーヒー牛乳を出したのかという手際の良さである……そもそもマキナの先ほどの好みをおそらく飲み方と液体で判別したのだろうか。
トールを手招きで耳元へ呼ぶ。
「……トール、いつの間にマキナがコーヒー牛乳を喜んだと把握した?」
「そうですね…初見時に丁度嬉しそうに飲んでらっしゃったので。あとは創造主様がコーヒーを飲んでたので察しました。」
諦めたはずの手伝いができてしまった。これはうれしい誤算である。今後は彼に情報を求めつつ創造をしていけば鉱物でやりたいこと―― 私の世界では結局再現されなかったオリハルコン、アダマンタイン、ミスリル…… そのような金属を産出、あるいは合成できるようにし、世界に存在させたいのだ。
……なぜかって?かっこいいからに決まっているじゃないか。
「トール、試しに聞くが今現在世界にはオリハルコンは存在するか?」
「オリハルコンですか、創造主の思っているものと微妙に異なったものになっておりますが、どちらの世界でも産出するようです。青白く発光し、魔力の吸収量もさることながら放出性も高く非常に魔導性、強度ともに高い金属となっております、加工の敷居が高いのと埋蔵量が少ないのが現状でございます。」
「なるほど……存在はするのか、ありがとう。」
目標通り世界は育ってきているらしい、あとは種族の進化を待つばかりだ。
(書く上の目標としてデイリー100入りを目指そうと思いました。(こうしたほうがいいとかそういうのから評価ptまでポチポチしてくれるととれもうれすい。読んでいただけるだけでも涙ちょちょぎれる。)