【厄災】は守り手か否か
魔法陣からグスタフへまさに暴風と言わんばかりに斉射される光景は周囲でまだ生きている兵士には別世界を思わせるほど輝かしい戦闘だったという。
しかし実際には【厄災】からの発砲をグスタフがすべて同じような魔法で相殺し続けているだけであった。
「ほう、魔法はそのままか……それは教訓代わりにみせてやろう」
グスタフの背後に凄まじい大きさの魔法陣が置かれる、【厄災】はそれがどういうものかはわからなくても言葉と雰囲気から恐ろしいものであることだけは確実に分かった。
「確かにあのような小さく連発が効くものを斉射する、あるいは敵の視界外から同時に撃つのは基本中の基本だ。だがな、一対一においてはこういうのもある」
そのまま【厄災】の砲火を魔法陣のスケールに直したようなものが迫りくる、その時である。その火力先が違う方へとねじ曲がったのだ。
「……ん?」
そのまま曲がった先にある何かを燃やし尽くした。何があったか知らんが今がチャンスに違いない。空中で勢いよく背後へ魔力を吹かしグスタフへ突っ込んでいく。
「……邪魔しおって……お前もその生まれなんだからこれより先にやることはわかるだろう?ほれ、さっさと仕事してこんか、これで終わりなのが惜しいが姫様には適当に言っておくとしよう」
素手で受け止められた。出せうる限りの出力で突っ込んだというのに涼しげな顔で呆れたように話す。
「……は?」
呆然としてるうちにその焼き尽くした方へ投げ飛ばされた。そのままグスタフも突っ込んでくる。どういうことかと振り向けば魔物……にしては所々が変異した奇妙な魔物たちが見える。
「お前さんも最近異変があったのぐらい知っとるだろ、あの感染した魔物を片付けろ!あれがいるとお前さんにもあるだろう使命も何も果たせんぞ!」
そのまま吹き飛ばした自分よりも速くその感染者の群れに突っ込む。突っ込んで数秒もたたずに爆炎と稲妻が周囲一帯の魔物を蹴散らす。飛んでくる風圧からして先ほどの比ではない、一体こいつの限界はどこにあるんだ……
――そのまま加勢しようと踏み込んだところで【厄災】動きが止まった。
少なくとも我……いや俺は【守護者】じゃない。むしろ滅ぼせと使命を受けてさえいる、しかし仕事は取られている、されど最終目的はおそらく一緒だ。……ならここでアレを攻撃するのはどうなんだ?使命に反するのか?世界を守るだけならほかにもあの糞強い【守護者】がいるだろ?……ならば……
「我、いや俺は【守護者】じゃないんでな、せいぜい頑張ってくれ」
そうだ、別に世界を守れなんて言われてない、むしろ色々と抑圧されてるんだ、これぐらいお前らで手を焼いてくれってもんだ。
そう言ってドラゴンの姿に戻りどこかへと姿を消した。
その間にも魔物はどんどんグスタフに狩られていく、周囲の戦争や吹き飛ばした英雄などには目もくれない。去る者は追わずという訳だ。
次第にほかの【守護者】も加勢しに来るがアウラにより強化されていてもグスタフの駆逐速度には追いつかない。
「……あれは一体……【守護者】でもないのになんて速度だ……」
「誰かは知らないが加勢してくれるに越したことは無いでしょ、さっさと終わらせるよ!」
みるみるうちに魔物は消されていき最後には戦場よりも血塗ろの大地が残った。加えて連絡を受けて駆けつけたアウラとマキナがいる。
「なんじゃ、やけに早いから強化した甲斐があったと思ったんじゃがの、お主だったかグスタフ」
確かに幾らか【守護者】も見たのだがマキナいわく大体が魔物関係の【守護者】だと言う、確かに改変を受けたのはその管轄だから当然だろう。
「これはこれはアウラ様……いえいえ彼らも仕事はしておりました故、一人ではもう少しかかっていたかと」
「一人ではもう少しかかればどうとでもなるのか……しかし彼らが何故わざわざ世界に降り立ってまでこのような事をしているのかの?」
「まぁ過去絡みとだけ申しておきましょう、ここで語る程のことでは」
我らが世界はメビウス単騎に滅ぼされた、と言うが長期的に見ればそれがとどめであって大元の原因はあのような者共のせいだ。アレを人間の世界で放置していた。
その結果世界の改変への耐性は簡単に崩されそこからメビウスが送り込まれた。あとはそのまま世界の創造主が死に、今に至る。
ただ私はそれが再び起きることを危惧している、故にこうして姫様の命令よりも姫様のためにこうして戦うのだ。
「ところでここは戦場ではありませんでしたかな?そうやって出てきても大丈夫なので?」
「……お主、自分で吹き飛ばしておいて何を言っておる」
周囲を見渡すが人間の兵は誰一人見当たらない、死体は転がっているが生きた人間はどこへ消えたのやら。
「はて……?いつ吹き飛ばしましたかな、私は黒い龍を相手していただけですが……」
「その間に一人吹き飛ばしたじゃろ、あれでみんな吹き飛んで戦争どころじゃないって帰ったぞ」
アウラとマキナが呆れたように笑いながら周囲を修復していく。戦闘以外で不用意に地形を破壊しているとそのうち感づかれる可能性があるからだと言う。城に盛大に攻撃を加えた時点で変わらないと思うのだが……そういえばあの人化する黒い龍はどうしたのだろう?
「アウラ様、ところで黒い龍についてですが……」
「なんじゃ?」
「あれに城にまで砲撃しないように言ってくれませぬか、下手したら穴が開いてましたからな……」
これらとの戦闘よりそれが主目的なのだ、姫様に何とか言うとは言ったが探してどうにかしたほうがいいのは事実だろう。この件を手伝わなかったことが気がかりだが……