龍神対魔導装甲
龍神、それは【厄災】であり、アウレリアが戦神と崇めるモノである。
しかし神といっても格式高いものではなく、ただただつくられた使命のままに恐怖を植え付け、いつか妥当すべき目標としてあり続けた。
そんな彼の願いは使命のように制限のある戦い、破壊ではなく純粋に強者と戦いたい、ただそれだけであった。しかしながら今のところそれがかなった試しはない。これまで出会った強者は【守護者】ばかりである、彼らは己を戦わずして隔離し圧倒し奮い立たせてはくれる、しかし彼らもまた使命に基づているだけにすぎず戦っているという意識がない。そうではないのだ、命のやり取りがしたいのである。
――しかしそんな彼の元についに強者が現れた。
普段通りに戦場へ舞い降りたときのことだ。両軍疲弊し始めているようにみえる今が仕事時だと現れてみれば普段は感じない空気を感じた。兵の声に耳を傾けてみれば絶望どころか希望にちかい類のものが聞こえる。
「ドラゴンがなんだ、厄災がなんだ、こっちには大英雄のリベルト様がいるんだ!このまま行けぇい!」
「「「おおおおおおおおお!」」」
……ふむ?どうやら強い人間がいるらしい……どれほどかはわからないがぜひ戦ってみたいものだ。そのためにはまずは連合側から襲おうではないか。
「うわぁこっちに来たぞ!」
「恐れるな!敵は目前だぞ!みすみす逃げ帰れるかっ!」
士気の高い軍隊とは不思議な物で恐怖を前にむしろ勢いを増すことがある。今回【厄災】はそれに初めて遭遇した。彼にはただただ戦いを求めて挑む戦士に見えたのだろう。興奮したまま口を開けば周囲に無数の魔法陣が成形されていく、やがてそれは彼の背後を覆いつくし魔法を紡ぎ出す。
あぁそうだ、そのまま挑んで来い、我の全力で相手をしよう、一刻も早く命のやり取りがしたいのだ。
魔法陣から山のような光束が軍勢へ向かって放たれた、そのままそれは着弾し爆発、そして兵を薙ぎ払っていく。例えどんなに指揮がよかろうと、士気が高かろうと結局のところ上限というものはさほど大したものではないのだ。
――しかしその爆発をかきわけてこちらへ向かってくる魔導装甲がある。ん……?あの鎧はここまで硬かっただろうか。
「…………っ!」
そのままその鎧は出力を上げ槍を構えたままこちらへ突っ込んで来た。……もしかしたらこれが待ちに待った本物の強者かもしれない。魔法の狙いを軍隊全体から彼一人へと切り替える、それでもその鎧はこちらへただひたすらに突っ込んでくる。よけながら、いなしながら、しかし確実にこちらのとの距離を詰めてくる、怯むことも足をとめることもない。
おお……ついにか!ついに我の相手をできるようになったというか!この高まる想いを……待ちに待ったこの時を……
【厄災】はそのまま迎え撃つように地面スレスレを飛びながら突っ込んでいき数多の魔法陣を再び起動し牽制射する。鎧との戦闘距離はまだ腕を使うような距離になってからが本番だ。
距離が近づけばそのまま鎧との近接戦が始まった、【厄災】に単騎で挑むそれは誰が見ても、たとえ英雄であったとしても無謀にしかみえなかったかもしれない、しかし【厄災】から振り下ろされた腕に的確に反応し避けるどころかそのまま槍一本で防ぎきっているのだ。槍と腕がかち合うたびに周囲には爆風と轟音が鳴り響く。
「……これだ。我が待ち望んでいたのは!住人、よくやってくれた!我は今感動しているぞ!」
「っ!?こいつ……喋れたのか」
おっと、ついつい声に出てしまったか。……まぁほかの兵はだれも気が付いていないようだし大丈夫か。
「我は【厄災】に他ならないがそれよりもお前のような者が我と戦えることを非常に心待ちにしていた!……ぜひとも楽しませてもらおうか!」
腕を振り下ろす、しかし肩で受けとめられそのまま反対側から腕へ槍が突き出される。
「……できれば戦場以外でやってほしいものですね、貴方のせいで作戦と戦線はボロボロだ」
そのまま刺されても腕にダメージはないがダメージを自分から蓄積する必要はないので腕を軽く曲げて弾く。弾いた衝撃で隙できればそこに反対の腕と魔法で仕留めにかかる。
「……我に勝てばその願いかなえてやろう、手段はいくらでもある、その分我を楽しませてくれるんだろうっ?!」
言い終わるや否や急に距離を取りそのまま流れるようにまた魔法陣を今度は鎧を囲うようにして設置し相手に斉射する。それに対して魔導装甲に見合わない機動性を見せながらまた鎧は距離を詰め槍で貫かんと突っ込んでくる。鎧側もただただ馬鹿正直に正面から突っ込むか受けの姿勢を続けているわけではない、器用に出力を操り【厄災】の死角を狙い、比較的薄い間接部に魔法陣を設置しそこから膨大な熱量を与え溶かそうとまでしてくる。
あぁなんと素晴らしい、こんな戦いができることをどれだけ渇望したことか。我はもっと楽しみたいぞ。
【厄災】は使命そっちのけでひたすらにこの戦いに没頭する。【守護者】に邪魔されることもない、創造主も手を出してこない。
しかしいつか楽しい瞬間には終わりが来るものだ、魔導装甲が魔法陣を実体化し足場にして上から斬りこんできた時である。
――ふいに魔導装甲の動きが一瞬ぶれた。戦いにおいてこの瞬間を【厄災】は逃しはしない。
空中で鈍ったソレに持ちうる限りの魔法による砲撃を叩き付け仕上げとばかりに腕で薙ぎ払い吹き飛ばす。確かに手ごたえはあった、この勝負は勝ったに違いない……
昨晩はじつはもう一本練ってましてそっちの方をぼちぼちやってました。稀にこういうこともしますがご了承