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一般人だけど世界滅ぼしたので世界作ります  作者: 超蔟
第6節 対神編―Aura
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鋼鉄の方舟

 当然今回の騒ぎは世界樹付近にとどまった話ではなかった。

実際アウラが修復してなければそこに広がるのは瓦礫の山というのが現実であった。


 しかしその中で働き続ける船の姿がある。

その船は他の如何なる輸送手段より多くの物資と人的資源を運び、数多の住人の命を繋いできた。

今日もその鋼鉄の方舟、アイヴィスはボロボロになったボイベン、大ゼスタ港に入ってきた。その船を見た人の目には希望の色が灯された。入港したアイヴィスに市民が我先にと押し寄せる。


「アイヴィスだ!今日もアイヴィスが帰ってきたぞ!は、早く物資を……」

「お、落ち着いて、落ち着いてください!物資は順番に配ります、慌てず並んでください!」

「そ、そんな事言われてもこちとら死にかけてるんだ!早くしてくれ!」


 物資が無いところにはどうしてもこのように人が押し寄せて混乱が起きてしまう。


 そんな市民に紛れて兎型の【獣人】が小型の飛空艇で市民の頭上を通り過ぎ、アイヴィスの甲板へ降り立つと艦橋へ駆け出していった。


「所長、リース所長!」

「ちょっと君!帰還後は報告を……って待ちなさい!」


 甲板の整備兵の静止をものともせず駆けていくティナは兵士をかき分けて操舵室へと急ぐ。操舵室へとたどり着けば軍人に紛れて先ほどまで舵を握っていたリースが額を拭っていた。


「所長っー!よくぞ、ご無事で!」

「ん?おお!ティナ!変わりないか?」


 そのまま走った勢いで抱きつく、何かを察したように周囲の軍人が一二歩彼女たちから離れた。


「ははは……工場は大変ですけどね……」

「工場じゃなくてティナ自身のことだ……無理するんじゃないぞ?」

「わ、私はこの通り……」

「……ちゃんと休む時は休みなさい?」


 軍属故に今回の事態において試験航行すらまだ大型飛空艇の操舵技術は確立されていない。よって緊急で稼働させるにあたり開発をになっている人間の中で一番技術がある彼女がこのようなポストに抜擢された。


 アイヴィスはその開発過程の都合上、他の軍属艦に比べ武装が少なく、格段に余剰スペースが存在する。アイヴィスの後に建造が始まり今回の事件までに就役した同クラスの二隻も現在輸送に従事しているがアイヴィス程の輸送能力は持っていなかった。


「で、所長、機関の方なんだけど……」

「あー……ちょっと待ってね……えーっとどこだったかしら……あぁあった、これが今回の航行データよ」


 そう言って手渡す巻物は今回輸送の間で取られた機関の動作に関しての測定データである、操舵手になったからと言って彼女達は本魚を休んだ訳では無い。ティナも乗り込んでこそ居ないものの機関には彼女の息がかかっている。


「んー……悪くない……積み込みまでに調整するわ、作ってあるものもあるし、その間は所長もしっかり休んでてくださいよ?」



――同刻、ボンベイ市街、時計塔

 

 今アウラと二柱は所々崩れつつもまだそびえ立っている時計塔の最上部から荒れた市街を見下ろしていた。


「ここは直していくのかい?」

「直した方がいいんじゃろうが向こうと違ってここには直す理由が薄いからのう……ここは住人に頑張ってもらうかの、それよりも私らは仕事じゃ、ほれ牛頭の。【守護者】を呼ぶのじゃ」


 男たち訪れた時のような和やかさは一切ない。時計塔から見下ろす彼女たちのまなざしは改変の元凶がいないか、改変の影響が出ていないかを調べることだけに注がれている。


「あ、あの……い、一応私にも名前があるんですが……」

「知らぬ。今はお主の名前を覚えるよりも働かなくてはならんのじゃ。あとで色を付けてなにかしてやるから仕事をするのじゃ」

「は、はあ……確か……艇の【守護者】がいたかと……呼んでみます」


 そう言ってその空間に溶けて消えていった。本来の彼らはこのように世界に溶け込んでいて視認することはできない、一方彼らは溶け込むことで世界全体を感じることで把握することができ、さらにお互いにその状態で交信を図ることができるのだ。

しばらくするとその【守護者】二柱を連れて牛頭の彼は帰ってきた。


「アウラ様、こちらが艇の【守護者】です」

「よろしゅうなぁ、細かい話は聞いたやぇ、これを何とかするためにうちらに働いてほしいんやってぇ?うちらにはありがたい話やけ、喜んで協力するでなぁ」


 不思議な言葉遣いをする上に全体的に衣装が黒く、話し方と同じようにその服装もふんわりと、ゆったりとしている。


――鑑定がてらよくその【守護者】の力を見てみればそれなりに強いようだの、少なくともこの牛頭だと何体寄ってたかっても勝ち目はないぐらいには強いじゃろ。

……ふむ、なかなかこの世界の【守護者】は不思議な者ばかりになったようじゃな。


「話が早くて助かるのう、そういうことじゃ。お主にもいくらか渡すからこっそりと住人に広がるようにばらまいてほしいんじゃよ」

「んー……せやしたら、丁度ええものがあるんやぇ」


 そう言って時計塔からぐるりと周囲を見渡して何かを探している。

この身体で探すのはたいへんやぇとか、視力っていうのは不便やのぅとか、色々文句をたれたのちに見つけたらしくある一方を指さして言った。


「……ほら、あそこにでっかい黒い船がみえるやろ?あれ、うちが今いっちばん目をかけてるやつなんけどな?あれな?丁度めいっぱいに物資を運んでるんよ……最後まで言わなくてもわかるやぇ?アウラ様、ラッキーやねぇ」

「……なるほどのう……なかなかにいい話をもってきよるではないか……ジュノー、急いで増やすぞ」


 なんという幸運じゃ。下手に各地に飛ばなくてもある程度は何とかなるということだ。あれが発つ前に作れるだけ混ぜてしまおう、物資に紛れ込ませるのだから【神器】や【宝具】の恰好も副次効果もいらない。むしろそこら辺の変哲もない剣を入れ替えるように混ぜればいいのだ。


「増やしてありますよ、半分ぐらい聞いたあたりからやっておきましたので」

「あらまぁ……あねさんなかなかにやりおりますなぁ」

「ただ混ぜるのは僕にはできないので、あとはお願いします」

「うちひとりでは厳しいやぇ……あ、この子もかりるで?」


 そう言って牛頭の首根っこをつかんで塔を降り始めた。


――さぁ、支援物資に世界用抗体を混ぜよう。

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