必要な補給手段
あの赤子たちを鍛え始めるのは彼らが自我を持ち始める前まえから出来る。
例えば常に魔力を意識させる、使えなくてもいい、ただ魔力に慣らさせるだけでも違う。
「し、しかしいくら鍛えるからと我々がこうして連れてくるのは……」
「仕方ないだろ?まだ剣を振れるような年齢でもあるまい……それにしてもこれで本当に魔力適性が上がるのだろうか……?」
「運動は小さいうちにすれば変わるという、それと同じということではないか?」
そう話しているのは赤子を毎日レヴィアに預けレヴィアによって魔力を流してもらっている間待っている【騎士】たちである。
「それにしてもこれでお家も安泰ですな」
「あぁ、そうだそうだ。これで戦果を上げてくれればもうお家の繁栄は間違いなし……」
彼らがあの時子供を引き受けたのにはさらに別の理由もあった。そう、彼らは戦果を約束されたような子供たちである、このまま育ち戦場で力を振るえば勲章間違いなしであろう、お家繁栄は戦時こそ狙うべきことなのだ。
そうしているうちにレヴィアが別室から戻ってきた。
「……お家繁栄に使うのは親の自由だがくれぐれも歪んだ精神でまともに戦えない子供には育てないでくれよ……?」
「……聞いておられましたか、いやはや、ご忠告感謝します」
「まぁ何があっても私は責任は取らないからな……ほら期待の子供たちを迎えに行ってくれ」
そうして【騎士】らに迎えに行かせつつ自分は少女と帰路につこうとする、最近は赤子を見つけたので特にこれ以上の仕事はないのだ。
「レヴィアさん、私にはあれ、やらないんですか?」
「君には必要ないよ、あれはあくまで元々適性があるかわからない子をほぼ確定で適性があるようにするための儀式みたいなやつさ、素質があるのが分かってる君には不要だよ」
「な、なるほど……?」
◇
深夜、世界が眠りに落ちた後――
ここからはレヴィアの時間である。
白い肌にもかかわらず闇夜で彼女に気がつける存在は一握り、闇夜を悠々と飛んで向かう先はあの空に浮かんだ城であった。
「姫ー?まだいるかな?」
この時間であればまだルルイエは寝ていないはず、そう踏んでこの時間にやって来たのだ。レヴィアがこの時間に訪れるのはレヴィアが人目を避けて城に訪れ易いからである。
「あら、レヴィアじゃない、元気そうで何よりね」
普段通りのルルイエがそこではにこやかに佇んでいた。レヴィアからも思わず笑みが零れる。
「レヴィア、ちゃんと暮らせてますか?何も問題は起こしていませんか?」
「そ、それは問題ないさ……ただ……姫、実は……血が……」
そう、彼女の糧は血液からの魔力であるのだがそれを現界してから摂取していなかったのだ。それでここぞとばかりにルルイエから頂こうという魂胆である。
「……折角世界には認知して頂いてるのですから街中かれ吸ってくればいいじゃないですか、奴隷からでもいいのでしょう?」
「う……そ、それは……従属させるの面倒だし……姫なら姫の方が強いし耐性あるからそんな事しなくていいし……」
慌てて弁明するレヴィアへ段々と本音を見出して呆れている。
「……と言って私から吸いたいだけですか?本当にレヴィアはもう……何か入れ物を取ってくるからもうちょっと耐えててもらえる?」
「……で、できれば早めにお願いします……」
しかし呆れられているレヴィアもレヴィアで問題があり、こんな魂胆を持ちつつも糧を得られていないというのは事実である。しばらくすればレヴィアが簡単な入れ物とナイフを持ってきた。
「ほら……これでもう大丈夫だわ」
「う、うぅ……助かったぁ……で、でも直接飲ませてくれてもいいんだけど……」
ルルイエが入れ物にルルイエ自身の血を入れてくれた、これでまたしばらくの間は気兼ねなく活動できる。
「……レヴィア、あとで言いたいことがあるわ」
「……はい」
◇
「ひ、姫……吸わせて血を吸ってないのは事実だったから……」
「………生命線を煩悩で埋めるのはどうなんですか?」
「煩悩じゃないよ……ほかの魔将軍じゃむしろ私の身が危なくなるし……」
レヴィアはそろそろ空腹の限界が近いのだ、普段は何食わぬ顔で過ごしていたが地味に空腹のダメージがじわじわと体に効いていた。レヴィア自身でもなんとかしようとしていたが吸血の副次効果もあってなりふり構わず誰かを吸血……というわけにもいかずここまで来てしまったというわけだ。
死神組に噛みつけばその体質的にレヴィアの方が危なくなる、グスタフにはそもそも牙が刺さらない、ルシウスは吸ったら浄化されかけた、アスタリアだと彼女に洗脳されかける、マイモンの場合は逆に眷属にしかねない、などなど……故に自分よりも強く耐性もあり、なおかつ血に特に悪影響がないルルイエが一番適していた、というわけだ……決してレヴィアがルルイエから直接血を吸いたいがために願っていたのではない。
と、とりあえず回復したレヴィアとルルイエの元へあの男が狙ったように訪れてきた。
やけに顔といい声といい冷たい印象を受ける。
「……魂を操ってまで戦力を住人にととのえさせたのはレヴィアで間違いないね……?」