お手伝いを作ろう
目の前の少女はやはり私の神様であった。
前回あれほど異質さを感じさせた存在が今はどう見ても少女である。
娘というには若すぎるぐらいのかわいらしい少女だ。
「……どうしてそのようなことになったのかお伺いしても?」
男から喉からひねり出した言葉はこれが限界である。
笑顔を作ろうとしてるがひきつってるのが外から見てもとれる。
男は確かに科学者であったが”神”という存在に対してイメージをもつことはできる。
目前の存在に出会うまでは老齢で威厳と神々しさを纏った存在、髭をたくわえててもおかしくないだろうぐらいの存在を考えていた。
しかし目の前の少女はどうであろうか、真逆である。
「君がこちらに来てからすることがなくてな、少々君の世界の文化とやらを楽しむことにした、どうだ?違和感はないか?」
笑いながら語る姿は誰が見ても明るい少女の笑い方である。
男は彼女が目的のためにずっと世界の観察と介入をしてたのだろうと察した。
羽を伸ばしているといっても過言ではないだろう、特に気にしないことにした。
「えぇ、私は残念ながらそのような服を着る人間とは接点はありませんが町中で見ても違和感をおぼえることはないかと。 では何の用でこちらに来たのでしょう?」
研究室に少女を招き入れる、一応応接用のソファは部屋に存在しているのでそこに座ってもらう。
「あぁそれはのう、君の世界がそろそろ出来上がって動き始めるだろうとおもってな?興味があって見に来たんだ」
部屋をおもしろそうに眺めながら少女は答えていく。
「思ったよりも進んでないのう、何か決まってない事でもあるのかの?」
あれはなんだ、これはなんだと部屋の物について尋ねた後に光球を懐かしい目で見つめながら尋ねる。
「悩むというには悩んでますね、どうしても元居た世界の真似になってしまうのですよ、悪い訳では無いのですが面白みに欠けてしまうと思ってましてね……」
まさかここまでとは……と苦笑いしながら男は答える。
「……もしかしなくても全部1人かの?」
なにかに気がついたように少女が言う、男は当然のように1人でこれまで決めてきた、と言うより目の前の神も同じであると思っていた。
「むしろ1人で決めてきたのではなかったのですか?……1人でやって来たと思っていたのですが……そもそも他に存在を見たことがありません。」
「あぁ……そうじゃな……君の世界には様々な神話が語られていたはずだがどうじゃ?」
「あるにはありましたがそれが何か?」
男は例え話に意味があるのだろうと思いつつも何に繋がるのか掴めていなかった。
むしろ神話の通りだとしたら相当自由奔放な神様が世界を管理してたということにもなりうる。
「流石にその話自体は間違っているが存在したことは事実でな、現に私が見てない間に管理しておる」
ほれ、今もこんなふうにと映像を出して言う。確かに同じように見たことあるような男が光球を見ながら作業しているのが分かる
「まさかとは思いましたがその通りとは…ちなみにどこまでが存在を?」
「いるのは主神とその付近ぐらいよの、人との間に生まれたとかそういうのはないはずじゃの。しかも彼らに任せてる部分も多くてな、彼らが必要と思ったものを彼らに追加させたというのも少なくはないがの」
今でこそこんな姿をしているが男が来るまでは彼らの方が世界には詳しかったと付け加える。
「で……じゃ。こんな話を出した理由はそれとなく察したかもしれんが、要するに手伝いを作れというこということよの。手伝いに自己を持たせてある程度方針さえ同じものを作るように仕向ければそうそう脱線することもないからの」
「なるほど……いい情報をいただきました。大いに役立たたせていただきます。あぁそれともう一つ伺っても?」
光球を二人の間に動かして当初の相談を始める。
◇
種族を滅ぼさない程度に争わせる策を求めて相談を始めたのだったが……
「種族を競わせたいと、それこそ手伝いを使えばよかろう?」
「と言いますと……」
「単純じゃ、君の世界で言うところの守護神みたいなものをやらせればよい。滅びそうになったり滅ぼしそうになった時のストッパーになってもらえばよかろう」
本来なら他の手伝いが調整したのが意図せず不具合を起こした時に進んでいる世界に悪影響を出さないようにする役目を与えたりするのだが同じようにできるのでは、とのこと。いつストッパーを働かせるかがかなり重要になりそうだ。
「作り方は特に変わらないですよね?」
「そうじゃが、しかしのう……私の世界はほぼ放置してれば進むからのう……ついでにこっちを見るほうが面白そうだしのう……」
ぶつぶつとつぶやき始めた彼女をよそにとりあえず作ってみることにした。何も言わずとも作ろうと思えば作れるのは非常に便利なものだ。
男は手伝いの姿形を考えながら作っていく。
おそらく末長くお世話になるのだ、ならばちゃんとした姿で、と思ったのだ。
「おぉ……なかなかに可愛らしいものをつくるではないか」
「私にはこういう方が孫のようにかわいがれると思いまして、実際には孫どころか娘もいませんでしたがね」
それにしてはよくできているんだが……と少女は深く考えるのはやめた。
男が作ったのは今の神様よりすこし若い十二かそこらの、気品を漂わせた少女である。 色白の肌と淡いピンクかかった瞳にふんわりとした長く白銀の髪。
「…やはり彼女に名前を付けるべきだろうか…?」
「君の世界では名前を付けるのが当然だったのではないのか?そもそも名前がなくては呼ぶのも大変ではないか?」
少女がじっと見つめている。
「…………」
「や、やぁ……?」
「おとーさん?」
「っ?!、お、おとーさん?……私が?」
男は目を見開いて神様に確認を請いながら
「はっはっは あの子がそういっているのだからそうなのだろう?君の中で無意識に最初に見たものを親と思うとかそんなものをいれておったのではないかのう、いやはや、その年で子供か……」
笑いながら言うが自分にはそれどころではない。
「……子供じゃないってわかって言ってますよね……これはなんとしても名前を付けてあげないといけないじゃないですか……」
◇
神様が少女と遊んでいる。
正確には名前を考える間神様が様子を見るため、というのもあって預かってもらった。 遊んでる様子を見ながら彼女の名前を考える、世界をつくるのとは別にこんなことが起きるとは……
「名前は決まったかのう?かわいいらしい名前を付けてあげるのだろう?」
「そうですね…娘にはかわいい名前を…マキナなんてどうでしょう、って付ける名前を聞くのもおかしな話か」
そうして少女の方に目をやるとしばらくして
「マキナ…私の名前?私がもらってもいいの?」
「もらうもなにもそれは君に付けようと思った名前だ、気に入らなかったかい?」
「ん……おとーさんにもらった名前、大事にする!」
と笑顔を見せてくれた。
気に入ってくれたようで一安心だ。
「ところで神様、ふと思ったのですが、神様には名前はないのですか?」
「わ、私か?私にもあったことにはあったんだがのう……」
ここにきて初めて神様が動揺する。
出会った時は顔すらわからなかったが今は年頃の少女の姿と顔であり、今その顔は動揺が見て取れる。
「……お伺いしても?」
「無いことはないんだが君のところの言語では言えない名前でな……そうじゃのう……我が名はアウル・オーラとでも言っておこう。ここではそういう名前かのう…今はアウラと呼べばいい。しばらくこの姿だとおもうからの」
一応本来の名前を聞いてみたが出会った当初の「******」音で全く聞き取ることも再現することもできなかった。
マキナは私の想像が作り上げた私の創世の手伝いだ。
性格とかを考えなかったがおそらく作ってく途中で記憶などから補完されたのだろう。
気にしていた知識や思考力なんかは問題ないとアウラが言っていた。
「おとーさんの世界の半分、マキナが手伝ってあげるの。楽させてあげるんだ」
そういうと彼女の手元に男の光球が現れる。
「おとーさんが何をしたいのかは作ってくれた時に教えてくれた。今進んでない方は私が基礎を作ってあげる」
マキナの手伝いがどこまでうまくいくのかわからないが今は娘の仕事ぶりを見守ろうと思ったのであった。