厄災顕現
マキナが戻ってくるまでにできる準備を進めよう。
さて……まずは今回の元凶となる飢饉をいかに起こすかだ。
魔物の大量発生による襲撃、悪天候、地震etc……別にこれに限ったものでもない。何ならどこかの土地を大爆発、不毛の地になんて荒業だってある。 要するに国の安定を問答無用で壊せばいいのだ。
初期案はルルイエに宣戦布告してもらい各国を襲えば良かろうと考えていたが性格的に不適であると判断し棄却した。とりあえず魔物を増やすところから世界に揺さぶりをかけようではないか、不安を煽るのは大切だ。ついでに従来よりも硬く、力強くした、簡単に討伐されても困る。
とここでトールが思いついたようにあることを挙げた。
「創造主様、世界は二つあるのですから先にアウラ様もマキナ様もいない方で試すのはいかがでしょう?確か個人あたりでの戦闘能力はそちらの方が高いですから多少加減を間違えても滅びにくいかと。」
「それはそうだが……あの装甲のある国か……」
確かにその国なら初動で滅亡することはないだろう。【魔法使い】でなくても戦えうる力を持っている。
――最初の厄災はその国だ。
◇
その日周辺国を含め我が国は恐怖のどん底へと叩き落とされた。
突然演習中の軍が襲われたのだ、他国ではない、異形の魔物に。当然魔物の駆除をしたことがない訳では無い、始めのうちは演習中の武装した軍隊、さらに魔導装甲だってある我らに負ける要素はないと思っていた。現に何事も問題なく魔物は排除されていっていた……しかし戦闘が始まって暫くした時ヤツが現れてから状況が一変したのだ。
漆黒の身体に巨大な翼、硬い鱗に驚異的な顎、あんな魔物は見たことがない。
魔物の中には単一の魔法を使う物がいるのは昔から知られた話だがこいつは我らの【魔法使い】よりも高威力、高度な魔法を連射してくるのだ。戦場は阿鼻叫喚の地獄と化した。
これがまだ敵国の一騎当千の英雄とかだったほうが幾分かマシだったかもしれない。軍隊は前から燃えるか文字通り喰い尽くされ、あの国自慢の魔導装甲は無残にもその鎧ごと噛み砕かれる。
辺り一面赤い華が咲き乱れ、逃げ帰った者共も大火傷、その一体に国の主力が潰されたのだ。
……しかし真の問題はここからだ。
こんなにも弱体化した国に最新の兵器の情報があると言って襲わない国は少ない。我が国唯一の技術となれば尚更だ。加えてあの【厄災】が我が国以外を襲えばどうなるかは想像に難しくない、むしろあの【厄災】と戦うために力を求める国まで出るだろう。
あの魔導装甲を手放してでも今は民を守らなくてはならない……何か策を練らなければ……
「陛下、今マクシスの使者がこちらに。」
「来たか……通せ。」
ついに来た、隣国からだ。今回幸いだったのは消し飛んだのが兵だけだった事だ。つまり今後減るだろうが今は国庫もその中身も我々国家中枢は無事だ。
「このような状況の我が国を取り合ってくれること国の代表として感謝する。」
「それは我がマクシスも一緒でございます。……してこちらからの提案は。」
「喜んでお受けしよう、ともに今は非常に危ういが何としても生き残らねばならない故な。」
「ありがとうございます。」
幸か不幸かこの隣国マクシスも異様な豪雨に見舞われその農地の多くが流された。結果としてお互いにないものを補充しあうことでこの窮地を生き延びようということになったのだ。
なぜこうしなくてはならないのかと言えばその付近の国で刃をこちらに向けている国が存在するからである。その国の名は軍事大国アウレリア、つい最近戦争した相手国だ。
前回は追い返すことができた、しかしこの状況では次はない……それはマクシスも同じ状況であった。
元々お互いに仲の悪い国ではなかったのが救いだろうか。
「……今回ばかりはよろしく頼みますぞ……」
「……それはこちらも同じでございます。当初の約束通り一個兵団を先にお貸しします。装備などの方、くれぐれもお忘れることの無きよう。」
「当然だ。」
――あんな国に我が国の技術が渡るぐらいならばこうせざるを得まい、あぁおとぎ話の英雄のように一人で戦況を狂わせる存在がいたらどれだけ頼もしかったことか、あの【厄災】が己の味方であればどれだけ心強かったことか。
◇
「カゴちゃん、あれ、またお前さんのところのか?」
「ふえ?い、一体何のことでしょう?今回はなんも聞いてないんですが……」
「そ、そうか……そりゃ悪かった。」
世界樹のあるリーリス王国の例の工房にも黒い厄災と呼ばれる龍が国の軍隊を壊滅したという話が数日遅れてに飛び込んできた。【鍛冶師】の男たちのうち何人かその出身の者もいるようでついに天災だだの神の怒りに触れただの言われ出した結果、出身の若者は皆国へ帰ろうかと考え込んでいる。
「ですがあんなことができるのは神様ぐらいしか……」
「やっぱりそうなるか……」
「……で、でも私の創造主様がそんなことをするとは到底思えないんですよね……それにまだ事実とは……」
「……それだと救われるんだがな……」
工房の職人たちだって噂話だけならここまで重くならない、工房ゆえに訪ねてくる【冒険者】たちが口々にそういうのだ、始めはどこかの国のプロパカンダの類かもしれないと出身者以外はこの国にまで戦火が来なければとそこまで深刻に聞いていなかった、しかし次第にアウレリアから着た者たちが黒い龍がいた、見たと言い出し、そのあとにマクシス国から撤収したという行商の護衛の者たちが暗い顔をしてこの工房を訪ね、最後にその襲われた国とされるオーステラへの調査依頼が【ギルド】から出てきたとなればいよいよ嘘とは言えなくなってしまったのだ。
「……この国は大丈夫ですかね?」
「さぁな。俺もそれがわかれば苦労しねぇしそもそもビクビクなんてしねぇ……なぁ……ってむしろそれを俺がカゴちゃんに聞きたいぐらいだよ。とりあえず今はまだこうして商売ができてるのが救いだな。」
――もしかしたら次の【厄災】はこの国かもしれない、ほんの少しそんな考えが頭によぎったが口に出してはいけない気がした、加えてこれは尋ねに言ってはいけない、なぜかカゴはそうとも思った。
次に【厄災】が居着いたのはアウレリア北部の何もない大山脈であった、かの【厄災】の通った後は豪雨が地面をすべて押し流してしまう、どんな国にとっても悪夢意外の何物ではなかった。