様々な創造主と様々な【魔族】のカタチ
「ルルイエ、いるか?」
「あら、創造主様、お待ちしておりましたわ。」
ここだけは己の正体を隠す必要が無い、気楽に来れるというものだ。
今回彼女の元に来たのには幾らか理由がある。
「魔将軍たちも呼んでくれたか?」
「ええ、もう既にこちらで待っております。」
彼女の世界では流れ着いた【魔王】を山のように抱え力以外で従えてきた過去がある。逆に言えばそれだけ別の世界からやって来た所謂異世界人の宝庫な訳だ。今回は彼らの話を最近ほころび以外に起きている改変の原因究明への足がかりにしようとなった。
大きな扉を開ければ円卓と等間隔に座る元【魔王】が待っていた。
「急に呼び出してすまない。今回は我々にあることについて経験と知識を貸してほしい。」
「あなた達のいた元の世界の創造主について聞かせて欲しいとのことです、理由は……まぁうちの部下達はみんな把握してますよね?」
既に気がついていることに驚かされたが他の元【魔王】たちも無言で頷く。
「誰からなんて野暮なことは言わない、言えることがあるならすべて教えて欲しい。」
すると一斉に【魔王】の視線がルシウスへ向いた、どうやら順番が内々で決まっているのかもしれない。
「では私から……私の世界では悪魔で不干渉の存在でした。【魔王】とはなっていますが実際のところ与えられたものではなく、色々あった後にそういった者共を束ねていたが故に【魔王】に。……結局最後に世界ごと壊してしまいまして、その時に創造主に出会ったきりですね。よく良く考えれば私の所では創造主は何も自発的に物を作る様な存在ではありませんでした。」
出だしから強烈な話が飛んできた。
強烈ではあるのだが今回の話では参考になりそうにもない。ルシウスも自覚しているようで苦笑いしながら話を締めた。
「……不干渉、という時点で参考にはできないですがこれが私の世界での創造主です。」
「いや、過去の事実は変えようがない、たまたま今回はそぐわない情報だったというだけだ、助かる。」
「……では次はこの私が。」
グスタフ、恐らく元【魔王】の中で最も力ある存在、彼は創造主に作られた存在なのだろうと男は踏んでいたが事実は異なった。
「私の世界では【魔族】というのは力に全てを注いだ者を指します。私もその一人としてその【魔族】の中で最も力ある者として君臨しておりました……しかし何時か必ず討ち果たされる者でもありますが故、最後は次代に討たれまして今に至ります。創造主との関わりは【魔王】の名を賜った時と【魔族】に転じた時でしたな。【魔族】に転じると必ず出会えると狂信者の中にはわざわざ【魔族】になってまで会おうとする者までおりました。……今となれば若すぎたのでしょうな。」
話に創造主の出番が少ない、これではこのまま参考になるものも少ないのだろうか……
彼の話から言えるのはその創造主はルルイエのところと同じく特に存在を隠してはいない事だろう、宗教にもなるのだからかなりの期間人の前にいることになる。
この後アスタリアとレヴィアはそもそも創造主に出会わなかったと言い、アイギスは元は別の生物だったが死んだ際に創造主に拾われてこうなったという……つまり三度世界を渡っている様だ。
しかしここで番狂わせのような話が出てくる。例の死神型の【魔王】だ。
「……こちの世界はそもソモ周りと違ってナ、ほかのセカイを喰てきタ。襲うタビに全てを喰イ、吸収スル。兵はミナ創造主に作られタ。」
「……?!襲う前提の世界創造か……襲い方も教えてくれないか。」
「……申し訳ナイ、毎度気がつケバ世界に降ろされてイタ。手口はわからナイが……恐ラク何カを送り込ンデそこにミナ転移していタと思ウ。必ズ同じ奴ラが先行シテいた。」
これだ。手段は一つでは当然ないだろうが創造主対創造主となる場合の二つ目の事例が手に入ったのは大きい。
ただ二例とも先に何かを送り込み世界を荒らしていくのは共通の様なので重点的に対策して問題ないだろう。
……と一通り話を聞いたところで対価になにか必要なものはあるかと聞けばこんな話を提案された。
「創造主殿、そろそろ我らも他世界で活動するにあたっていくらか刷り込んでほしいことがあるのですが……」
「ん?どんなことだ。」
「【魔族】の中には感情を食らう者、戦闘をしたいという者、契約を取り付けたい者などがいますがそもそもここの世界の住人が我らの存在を知らないのでどうしようもないのです。知られていなくてはそういった糧となるものを得られないだけではありませぬ、かといって荒事を起こして知らしめるという手も現状使えないことになるが故、対策として我れらの存在を刷り込みで知らしめてほしいのです。」
「なるほど……それならこちらでやっておこう。君たちに不便の無いようなものをすり込めばいいかね。」
とりあえず方向性を協議したのちに男の研究室へ戻っていく。さて、このような刷り込み程度なら世界の歪みには何も問題がない、彼らに【神話】として記憶にねじ込んでしまえばいいだろう、興味を持つ人間がいればそれでいいし資料も適当に流しやすい。
今後も遺跡や遺物を増やすにあたっても都合よく追加することができるのではないか。
「……さてどのような【神話】にしようか。【古代文明】よりも古く、かといってそれよりも幾分か新しい【神話】が欲しいな。マキナ、何かいい案はないかね?」
こういう時も例の城を創ったマキナあたりに聞いてみるのがいい、彼女のセンスに頼るのは悪くない。
「……大戦争とかですか?【魔族】と【古代文明】の人々が戦って文明は廃れ【魔族】は世界の果てへと神によって追いやられた……みたいなのはどうでしょう?」
「ありきたりだが……悪くはないな、それをベースにしよう。」
悪くはないがしっくりこない。そもそもそれに相当する彼らは今普通に異なる世界であまりにも平和に暮らしているからだろうな……いやもしかしたら私の世界にも【魔族】に相当する者がいるのではないだろうか。ルシウスがその手だったのだから可能性は大いにある。
……探してみるか。
「そういえばマキナ、ルルイエのところを除いてこの世界に彼らのような【魔族】に値する者どもはいるのか?」
「んー……?ちょっとまってくださいね……あー……いることにはいますが……【魔王】と比較してしまうと……とりあえずこれを見てください。」
マキナが見せる映像を見るが……ほう、そういうことか。
獣をそのまま二足歩行にしたような姿も見えるがこちらも大差ないように見える、町中にいる【獣人】に比べて戦闘にステータスを振ったような感じが見受けられる。
一方、人型のほうは確かに強さはない、一般的な【ヒューマン】【獣人】などと比べても目立った優位性はない、それによくよく探ってみれば街に平然と紛れ込んでいる、それに肌色といい髪色といい彼らの方がバリエーション豊かに見える……ん?
「……リースは【魔族】だったか……【ヒューマン】だと思ったんだが。服で色々隠れているのも都合がいいのかもしれないな。」
「ですね、マキナも【鑑定】してなかったのもあってまったく気がつきませんでしたわ。ここまで馴染んでいるとなにが【魔族】の魔なのかわからないですわね。」
たしかにマキナの言う通りだ。魔物は魔法生物、魔族は悪魔族だと思い込んで命名していたがことごとくこれまで出会った【魔族】にその訳が当てはまらないのだ。のちのち巨大悪となる役目を与えるつもりではあるのでまったく見当違いとなることはないがそれでは文明発展に寄与している彼らが使えなくなるのはまずいので計画を改めよう。
……私にいい考えがある。
「……過去の絶対悪として【神代魔族】がいたことにしてしまおう。今の【魔族】は人側に協力した生き残り、あるいは戦後手を取り合ったことにしよう。月日が関係を改善したとしてしまえば差別もないだろう。」
――少し考えればこれは歪みが増える案件になるのだが男はこの時それを見落としてしまった。