授業参観
ライカが私の授業に来た、今度は私が出向く番じゃ。
丁度ここからは前々から企画されていた手筈の通り上手いことスケジュールを組んで他の教師の授業を見ようじゃないかという企画が始まる。
私は二回見られることになるが時期的に都合がつかなかったのだ、約束が先行しておったし仕方ないのう。
約束事は大きく二つ、『授業に手出しをしないこと』『授業で教える内容をわざわざ用意しないこと』
しかし……できる限り生徒の集中を削がないように見る側は配慮するらしいんじゃが……ユラがいる時点で無理にもほどがあるんじゃないかの、これ。
実際蓋を開けてみれば後ろに手空きの教師が並んでいるのだ生徒も後ろを気にせざる得ない、学長が教室に入るだけでザワつくのも当然じゃな。
……にしてもユラはよくここで戦闘向けの魔法を専門にする教師を呼んだと思う。そう言えばユラは均衡で平和を作ろうとする奴じゃったがこれもそういうことかの。
「よぉし、お前達!一人ずつ先程教えたように撃ってみろ。順番は問わん、始め!」
本来こういうものは誰が始めるまで皆手をこまねくと思うのじゃが誰が誰がという間もなく生徒は魔法を使っていく。
すぐに理由はわかった、ライカは一人が撃てばその本人に的確にアドバイスをする。総評方式ではなく個々に指示する様じゃな。囃されるでもなく、失敗した所で貶されるでもなく撃てば的確にアドバイスが貰えるからかの、見てると前半の方が苦手な生徒のが多そうじゃ。
「もう少しイメージを確立するんだ、力強さをはっきりと、嫌いなものを打ち払うようにイメージしろ、出ないとそれは逃げんぞ?よし次!」
……イメージはその体感のレベルまで落とし込んで極めれば詠唱を不要とする。詠唱はイメージの手助けであるのでイメージさえ確立していれば詠唱は不要じゃ。ただ詠唱を失くしたところで魔力操作をせねばならぬ以上高速化はしても即時使用はできないがの。
ライカの授業は使えなくては意味が無いのもあり実践型じゃった、生徒一人ひとりと向き合いつつ偏りがないのは技術的に尊敬できると思うのう。
◇
後日、学園内廊下にて
次はペトラの授業を見に行く所であった。
「……アウラ様。ちょっと宜しいですかな。」
「なんじゃ?改まって。」
丁度ユラと道中でばったりであったのじゃが、何やら違和感がある。そわそわと浮き足立つような……
「実はペトラのことじゃが……最近これまで大事にしていた素体をついに作り替えたらしくてな……嫌われたんじゃないかと思っておりまして……アウラ様何かご存知ではありませんかな……?」
「……お主もそういうことを言うんじゃな……とりあえず他人に見られる前にしゃきっとせい。安心せい、お主の思う様なことは起きとらんぞ。」
製作者故に心配、と言うよりこれは孫を心配する爺さんではないかの……
部屋に着けば既にほかの教師は位置についていてユラの顔を見るなりああ、やっぱりと言っているような呆れ混じりの顔をしておった、隠せていなかったのじゃな……
さて、ペトラの授業の中身の話をすべきかどうかと言うところがある。
というのも私の扱う錬成よりも【魔法使い】的に要求する次元が高い、作らせたところで管理出来るものが作れるか不明というのもありこの授業はどうしても座学になってしまうからじゃ。
「我々人形の素体というものは知っている生徒もいるでしょうが材料を問いません、ですから貴方のペンや着ている服も理論上は【魔製人形】に出来るのです。」
話だけで生徒に興味を向かせるなど私は到底無理じゃな、そもそも現物を与えてこうしろと言うのがとても楽だからの……
ペトラが講義をするのは見ていると不思議なものがあり人形故か見落とす、ということが
ないのだ。何食わぬ顔でテキストに目を通している時でさえ視線も動かさずに生徒の様子を把握している。
……これはどう考えても物理的に今は真似出来ぬのう……なんでこんなに授業の印象が薄くなっておるかって?終わったあとにユラのやつが……
「……おじいちゃん嫌われてなかった。」
「っ?!」
「所長、やめてください、本当に嫌いますよ。」
あんなユラをみたせいでそれに全て持ってかれてしまったからじゃ……あれは卑怯じゃよ……
◇
実の所見ていたのは教師だけでは無かった。
「おとーさん、私ももう少し安全になればあんなふうに過ごしてみたいわ。」
「……安全になればね。」
ルルイエのもとを訪れた時に話をもらったので折角だからと見に来ていた二人はあまりにもアウラが馴染みすぎていることに驚かされた。
「それにしてももう少し手こずるか浮くと思っていたんですが……予想以上に適応性が高くて驚きですね。」
「……おとーさん、そろそろアウラ様に権限をこっそり戻してもいいと思うのだけど、実際剥奪した意味が無かった訳だし。」
「まぁ戻したら神様は間違いなく気がつくだろうし、こっそりと……かな。」
恐らく創造があってもこの調子のままでいられるなら問題ないはずだ。
何より彼女自身の世界の管理もあるので万年単位の世界出会っても数年も不在なのは宜しくない。
それにアウラだけを見ている時点で少し不都合がある、もう一方の世界に対応する時間が減っている、これまでは同じ時間配分が可能であったがここ最近の不安定化の影響で何も起きてない時にアウラの保護……いや、監視をしているからだ。
男としてもここまで危なくなるとは思ってもいなかったが事が起きてしまえば取り返しがつかないために状況次第では無理やり戻すことも考えていた。
「とりあえず制限付きで神様に戻しておこう。気がつくかどうかは彼女次第だがね。」
「アウラ様ならすぐにでも気が付くと思いますが……」
「まぁ気が付けば気が付いたね。そこから戻ってもそのまま暮らしても神様の自由だ。」
現状【守護者】は日に日に増える一方だ、彼らが増えても特に問題が生じるわけではないのだが個々が自我を持っているためその自我次第では手が付けられない者も少なからず生じてしまう。
今のところまとめ切れているがそれでも膨大な数だ、下手したらマキナとトールぐらいしか完璧に覚えてる者はいないかもしれない。
……近いうちに【守護者】を創る役かそれを管理する役をトールやマキナ以外にも用意しようか。
そんなことを思いつつ男たちは再びある目的のためにルルイエの元へ戻るのだった。