変わらなそうな日々
「ん?どうした、何かあったか?」
「い、いや大丈夫じゃ。すまんの。」
忘れようとするかの如くほかの話題を進めた。
……そ、そうじゃ、ライカは私について知らぬ、これがどんなことであれ彼女に他意はないのだから……それに……
「……で何故にライカに懐いておるのだ?」
「さ、さぁ……?」
授業中大人しくさせてくれとは頼んだのじゃが何故かライカにピッタリとくっついてこちらを隠れるようにして覗き込んでいる。
このままでも始まらないので人格や性格がどうなったか探りを入れなくてはの。
「……名はなんというのじゃ?」
ぷいっ、とライカの後ろに引っ込んでしまった、どうしたものかのう……と思えばちゃんと答えてくれた、が
「*******」
「ん?今なんて……」
「……ラスティナ・ドール」
アウラにはソレがなんと呟いたかわかってしまった。
「……姿も似せるべきではなかったのう……」
「ん?誰かに似せたのかい?それはちょっとまずいんじゃ……」
「あ、いや……もういない人間じゃ。」
まぁこの世界にいる人間と同じ見た目の人形なんて何が不味いかすぐに見当がつく、流石にそれは弁えておる。
「……ちょっと悪いこと聞いたね。ごめんよ。」
「気にするでない、昔の話じゃ……なにより知らぬことは悪いことではないからの。……湿っぽいのはここまでじゃ。よし、ラスティナ、ちょっと身体を動かしてみよ。」
やっとライカの背後から出てきた。
ラスティナは言われた通り腕を回して見たり足を伸ばしてみたり……
「身体に不備はあったかの?」
「……多分、ない。」
「……その見た目で満足か?」
「満足。」
その返答にホッと胸をなで下ろす。何か言われたらどうしてくれようか多少の不安はあったからだ……ただいつの間にか瞳の琥珀色がより透き通った気がするが、これはまた偶然の産物じゃろ。
「なら大丈夫じゃな。よしよし、問題がなくて一安心。ラスティナ、なにか思うことはあれば遠慮なく私に言ってくれんかの?」
「わかりました、だけど……御主人、ボクは何をすれば……」
「何を、か……ふむ。」
はて、どうしてくれようかの。
確かにいきなり人の様に生きろというのは酷な話じゃったか。
「アウラ、それならあなたの手伝いをさせればいいじゃないか。どうせ生徒に錬成の目標としても見せていたんだろう?会話に触れるという点でも問題はないんじゃないか?」
彼に何か与えられるならそれがいいかもしれない、ラスティナにも仰げばよくわからないがなにか目的をくれるならそれがいいと言う。
と話している所にペトラが入ってきた。
「あら、上手くいって居るようですね。」
「おお、ペトラか。丁度いい所に来たのう。彼がラスティナじゃ。」
後々彼女にうまく作れているか見てもらうつもりじゃった。折角だから今見てもらおうかの。
「……?御主人、あの人は?」
「君の姉のような存在とでも言うべきかの。すまぬがペトラ、彼がちゃんと作れてるか見てくれんかの。」
「別に構いませんが……君、ちょっと素体見せてもらえる?」
ペトラがそのままラスティナの素体を上の服を脱がせて細かく見ていく、構造的には生身の人間と共通のためペトラとは違う。
しかしながら魔術的にうまく動作しているのかはアウラの感覚的な術式による所が製作時に大きかったため【魔製人形】に精通しているペトラに判断してもらおうという訳だ。
「アウラ様、彼に仕組んだ魔法陣と結晶の状態を出して頂けますか?」
「ん?ちょっと待っておれ……これで良いかの?」
「……便利ですね。」
ラスティナの背中に魔法陣が浮き上がる、ペトラのように内部に空間を作らずとも魔法陣が仕組まれている彼ならではの芸当だ。
更にこの構造のため物理的なハッチや板をかれは必要としない、これは外見から人形と分かりにくくさせる上でかなり大きい。
……故にいくら今の素体を憂いていないペトラでも多少は羨ましいのは当然かもしれぬな。
「ペトラも欲しければ作ってやれるが……」
「……まぁ羨ましいのは事実ですが、それでもこの素体は大事なものですから。あ、でも手とか足なら欲しいかも知れませんね。関節の継ぎ目が無くなりますから、着飾りやすそうですし。」
「部分だけというのはやったことがないが挑戦してみるかの……」
そんな雑談を交えながらもペトラはラスティナに使われた魔法陣を解析していく、そんな時突然何かを見つけたらしく目の色を変えて転写させてほしいと言っていた。
……別にまだ見つかっていない技術を術式の方には組み込んではいないはずなのでそのまま許可したがの。
「とりあえず見てくれ、とのことだったので基本的な部分を数か所書き換えました。アウラ様が独自に創った部分の大半は手出しができないのでそこまで大きな変化ではありませんが以前より安定して魔力を維持できるようにはなったと思います。」
「うむ、たすかるのう。……ところでさっき何を転写しておった?そんな変なものは積んでおらんぞ?」
「魔力保有量の強化のあたりでしょうか?私はその部分についてかなり切り詰めてつくられていますから……はい。これでいいですよ。私としては同族が増えたことを歓迎します、なにかあったら私を頼って下さいね、ラスティナ?」
「は、はい……」
とりあえずペトラの反応を見る限り素体に妬みはないようだし普通に接してくれるだろうかの、まぁあの時楽しみにしていますねと言っておったし、当然か。
そういえばライカはいつの間にかいなくなっておった、次の授業があるはずじゃから時間がなくなったのやもしれぬのう。
◇
あの部屋から何も言わずにこっそり出てきてしまった。
「……はぁ……一体何をやってるんだか……」
正直なところ彼女を舐めていた。
いくら錬成を開発した本人とはいえ子供だ、どこかに穴があると思っていた。生徒が話を聞かないかもしれない、彼女の説明が下手かもしれない……等々色々と生徒に不利益が起きるかもしれないと思っていたんだ。
……しかし実際はどうだ?そんなことは全くなかったじゃないか、やっぱり万能な天才というのは無慈悲にもいるもんだ……救いは性格が丸いことかね。
「……さて、私も無いものねだりしてないでちゃんと仕事しますかね。」