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一般人だけど世界滅ぼしたので世界作ります  作者: 超蔟
第4節 神様教師編
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修正と巻き戻り

 ペトラの言葉はやはり考えさせられる節があった。

 人形だからこそ経験したことを生徒に伝えるべきだという考えは素晴らしく今学園が挑んでいることとも相性がいい。

……しかしだからと言ってごく普通の経験ができない、あるいはしにくいというのはおかしな話ではないか。


 そう考えていたアウラにはあの言葉は素直に「そうか、よかったの。」とは返せなかった。


「……お主は人と同じようには過ごしたくないのかの?」

「んーそうですね。過ごしたくないと言えば嘘ですね。」


 彼女は顔色一つ変えずに答えていく。


「ですが私一人が解決すれば言い訳ではありません。個人で解決すればいいならそれこそ他の手はいくらでもありますわ。でも私のような人形は後で増えるはずなんです。ですからその未来の私の子供たちのために今障壁は取り除かなければなりませんわ。」

「お主は……それでいいのか?」

「ええ。これまでも一人ではありませんし……何より今度同族増えるのでしょう?彼らのためと思えばいくらでも出来ますわ。何より壊れない限り時間は我らには無意味ですから。」


……人形故に魔力さえあれば生き続けられる。それをよく理解している彼女だから言えるのかもしれぬな。

そして私が人形について聞きに来たこと、それが動いたことを含めて作り直すところまで見据えているのだろう。彼女の期待には答えてやろうではないか。


「……期待しているのだぞ?」

「ええ……それよりデートというものは楽しいですね、また何時かご一緒しましょうか。今度は子連れでもいいかもしれませんね。さて、また教師に戻らなくては。」


……言い方は酷いが言いたいことは今ならわかるのう。

丁度学園にたどり着いた時既に授業は終わり園内は閑散としていた。


「さて、アウラ様。私はまだ研究室でしなければならない事がありますので、これにて。」

「私も片付けてくるかの、学長室からそのまま来てしもうたからのう……」


 ペトラと別れて自分の研究室に帰ってくる、そこには魔力が尽きて動作を止めた素体が鎮座していた。


「お主もペトラの様に後輩を助けてくれる様に願っておるぞ。」


 さぁ彼を人形として目覚めさせよう、今度は偶然の産物ではない。完全な形で、だ。

 素体の内部に魔法陣、結晶と同じ構成を仕組んでいく、同じものであれば形は関係なく動作する。今の世界の住人は誰一人気がついておらぬ技術かもしれぬがお構い無しじゃ。

さて次は……



 こうして気がつけばもう夜ではないか。

 今私の目の前には己の技術と知識をふんだんに流し込んだ素体がいる、あとはこれに命を灯すだけじゃな。別に今吹き込んでも構わないのじゃが……今度生徒が見たらやっぱり生きてたじゃないかと言いそうでな、生徒の目の前でやることにした。別にこの学園で人形だからと嫌う子はおらぬからの。


「……よく良く考えればこれは私が創造以外で作った初めての住人じゃな……」


 夜空の中からほんのりと明かりが差し込む部屋は幻想的にさえ見える……恐らくこの瞬間は神の一柱としても忘れられない出来事になるじゃろう。


……不意に部屋が一瞬暗くなった、何かが光を遮ったらしい。何事かと思い空を覗けば


「……ルルイエの所の奴かの。」


 夜空の一部が僅かに歪んでいる、あのような速度で消えながら飛べるのは【魔族】の輩ぐらいじゃし、例の城のある雲から出ていったしのう……流石にそろそろ私も寝床へ帰ろうか。

影と闇の区別がつかなくなりそうな中、アウラは期待を胸に帰っていった。



「……あの神は帰りましたか。」


 アウラの部屋に立ち入る影が一つ、ソレは素体を眺めてぽつり。


「やはり貴方は過去は拭えていないんですね。」


 そのまま素体に手をかざして。


「創造主にそのような仕様はいらないんですよ。」


 そのまま空間に消える……直後


「おとーさん、ここ!」

「マキナ、変わった箇所を炙りだすんだ。トールは追跡を。」

「かしこまりました。」


 マキナが部屋の中央に立つと彼女の髪が吹き上がり瞳に光が灯り……そして部屋が一瞬のうちに素体を残して無に帰した。


マキナはただの創造主の娘ではない。手伝い――バックアップでもある。


「……改変箇所の修復と巻き戻しを開始……」


 男は人だが娘は違う、故に世界の全てを記録しても失わないように作れるし、人体の改変ではないので設計にミスさえなければ失敗など意図的にしなければ起きない、いや起こせない。


「……おとーさん、終わったわ。」

「お疲れ様。しかし最近きな臭くなってきたな……ここからは私の仕事だ、マキナは戻っておいで。」


 マキナが修復を終えてこちら側に戻ってくると男は光球を作り出す。今回の改変個所において再発させないために守護担当を創造するのだ。そしてその光球には強い自我を与える、機械のような対応をさせてしまえば乗っ取りへの耐性がなくなるからである、それらは今もこうして各々が担当する概念や事象を管理している。

 トールには今それらの管理を命じている、彼が現状一番手慣れているためであるのだが無理を通してもらっているのは承知の上だ。

 光球が自在に動き出す、どうやら役目を与え終えたらしい。

 

「……君の名前は何という。」

「……スフィア、【魔導の守護者】」

「そうかそうか……役目はわかるかね?」

「……外部からの改変の阻止。」

「大丈夫そうだな……君は今からその役目を果たし始めてもらう。この君のような特化した存在が今一番活躍してほしい、頼むぞ。」


 そう言うとそのまま光球は霧散した、世界の一つとして世界に【守護者】として憑き始めたようだ。

彼らは一通り再確認すると改変の修正が終わったと確信してまた消えていった。



一週間後


 アウラの二回目の授業が始まる。前回と違い今回はライカが後ろに立って授業参観で来ている。


「おし、生徒諸君!先週のことに補足じゃ。面白いものを見せてやろうぞ!ほれ、先週お主たちを驚かせたこの子は覚えておるじゃろ?あの後やっぱり生きてるんじゃないかと質問があってのう。ここで【魔製人形】として完成させることで信じてもらおうと思っての。聞けばお主たち、ペトラから色々教わってるそうではないか。それならそれがこれが生きていないという証拠になると思っての。」

「なっ……あいつ、正気か?!学長でさえ何年かかったと……」


 ライカの驚き様を無視してそのままアウラが椅子に座らせた素体を部屋の中央に置き肩に手を添える。


「『我が魔力を以て 自我を為せ ――』ほれ……どうじゃ?」

「……ん、んん……お、お久しぶりでございます?」


 この光景をみた生徒とライカは目を疑った、あのユラですら調整と失敗を繰り返した人形制作をその場でなしとげたからだ。


「いくら天才だからって先生でもさすがに嘘だろ……」

「ペトラ先生だってまだ一体もつくってないってのに……実はやっぱり生きていたんじゃ……」


 口々に思うことを述べるが目に見えるアウラが人形制作をその場で行ったことが真実である。


「まぁあとで人形かどうかは確かめさせてやるからの。さてお主たち、これで授業がおわりではないぞ?むしろこれからが授業じゃからな。まずは前回の復習から……」



 授業は滞りなくこなされた。生徒が問題を起こすこともなく、また教師が問題を起こすこともなく、しいて言えばまだ名前もわからぬ人形がそわそわとライカの横で待っていたぐらいか。

……ライカは今回特別に授業参観のために来ている、そんな彼女に子守をしてもらった。彼女も驚きの事態であるが授業は授業だ、授業のために渋々引き受けてくれておる、これは少し失敗じゃな。


「……さて、お主たち。今日は簡単に身近なものの錬成に挑戦してもらった。中には細かく再現できた者もおったし、その逆もおった。今回の宿題はその理由を各自考えてくることじゃ。調べても構わんし、誰かに聞いても構わんぞ?……あ、私に聞くのは勘弁してほしいんじゃがな。……時間もほどよし、今日はここまで。終わりじゃ!」


 生徒が前回のようにぞろぞろと次の教室へ移っていく。ライカも適当に生徒にあいさつをして送り出していく。彼女は次の授業を持っているためそこまで時間的に余裕はないが今回は事前に用意をしたうえで来ているので問題はないと言っておった。

 そしてしばらくして最終的に部屋には三人が取り残される。

 

「ライカ、どうじゃったか?ちゃんと授業はしておったじゃろう?」

「……むしろ生徒が舐めてかかると思っていた不安があったんだけどねぇ……まったくなくてむしろ度肝を抜かれたよ。もうそれについて文句はいわないさ。でもな……」


 どうやら何か引っかかる点があるらしいのう、何かと思えばすぐに明かされることとなったのじゃがな。


「……アウラ先生、教師としてたしかに基本的には問題はありません、授業の進度だって生徒を見る限り早すぎず遅すぎず……むしろ新人とは思えない裁量でした。ですがね、生徒の顔を見て授業していませんよね?生徒の心は読んで生徒と会話をしていない感じがしましたから。」

「……ふむ。」


 急にアウラの目が冷たくなる、心当たりがないわけではない。


――好き勝手に作る世界には歪みが確実に存在する、歪み無く稼働する世界など代償なしには存在できない。故に夢の世界、自由な天地創造なのだ。

代償はその世界の住人にかかわるものすべて。命かもしれないし時間かもしれない、あるいは幸福や感情かもしれない。

 それをすべて踏みにじることで維持せねばならない時は多々あったのだ、彼らに情を抱けばたちまち自分の目標を諦め世界を安定したまま停滞させることになる……彼女は過去において己の目標の成就を取ったのだ。


「た、たしかにそうかもしれんの……次回は気をつけさせてもらおうかの……は、はは……」


 突然打ち込まれた杭は彼女に乾いた笑いをさせる自由しか与えなかった。

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