新しい教師は神様です
「ついにこの日か……楽しみじゃのう……」
今日はアウラの教師としての初日であり、ユラのスキャンダル疑惑が晴れる日である。
「あっ!ほらあれ、この前噂だった例の人よ!」
「えっ?!誰?誰?」
生徒達が騒ぎ出す。
「……はやりバレとるんじゃないかのう……?」
今私は学園正門に至る前から注目を浴びてしまっておるのじゃが……
このままチラチラと見られ続けるのも恥ずかしいので校舎内の自分向けの部屋へ急ぐ。一度ここまで来てしまえば見られる心配はない。
「いよいよじゃな……」
ロッカーから自分用に用意してもらった制服代わりのマントを羽織る。生徒の制服を色を変えマントにできるようにデザインを変えたものだ。
気を新たに与えられた隣接の教室へと向かう。
扉を開けてはいって見れば事前の要望通り中央が開けた教室がそこにはあった。
特徴的なのは黒板のある方を除いてそれを囲うように半円状に生徒向けの席がずらりと並んでいることだろう。
教室での錬成の調子を確かめているとユラが入ってきた。
「どうですかなアウラ様。要望通りに作れたかと。」
「うむ、満足じゃ、何かあれば私がいじって良いのじゃろう?」
「ええ、ここは貴方専用の研究室であり教室でございますが故、自由にして結構ですぞ。元々アウラ様を最初に誘った時に作った部屋でしたからの。」
アウラが満足しているのを確認すると笑いながら帰っていった。
まだ授業までは時間がある、のんびりと隣でどんな生徒が来るのか期待しながら待つとしようかのう。
◇
教室が少しずつ賑やかになっていく、生徒が次第に教室へと入ってきている証だ。
さて、今の子供はどんな話をしてるかの……?
「まだ新しい錬成まで教えるなんて一体どんな教師を呼んだのかしら?」
「噂ではかなり若いらしい、何でも凄腕の天才だとか……」
「え?でも朝だれか学校に入ってくるの見た?」
何やら凄い色が付いておるぞ……そんなに持ち上げても困るのう……
「俺朝美人が学校に入るのは見たぞ!」
「あ、それあたしも見たわ、例の噂のと女の人。」
おうおう、美人とは照れるではないか……まぁいまは男じゃが。
「その人は来客で教師じゃないと思うけど……」
カーン、カーン、カーン……
とここで始業の鐘が学内を鳴り響く。
これまでの賑やかさが段々と静かになる、そろそろ出番じゃな。
個室から教室への扉を開けると一斉に生徒の視線がこちらへ向き同じように驚きとざわめきが起きる。
可愛いとか綺麗とか嘘だろとか……いいぞもっと褒めるのじゃ。
「アウラと言う。以後よろしく頼むぞ!……色々あって今日からここで錬成を扱うことになった。初回はそうじゃな……私について答えてやろう、質問はあるかの?」
生徒が皆手を上げるが手を挙げたまま当ててもいないのに質問攻めが始まった。
まず活気のありそうな少女から質問が飛んでくる。
「せ、先生何歳ですか?!」
「そんながっつかなくても答えられることは答えるぞ?……今は十八ということにしておいてほしいのう。ほれ次の質問は?」
「先生はどこ出身ですか?」
「それは付きまといが出るから言えぬ、今はこの辺りに住んでおるぞ。次は?」
と、いくつか答えていくとおずおずとある生徒から
「せ、先生……学長とはどういう関係なんですか?」
「ん?ユラか。随分前に魔法関係で研究した仲じゃな……その縁でいまここにおる。」
「え?先生一体何さ……」
その返しを聞いてやってしまったと後悔した。しかし動揺しては余計に怪しまれてしまう、そのまま何食わぬ顔で
「今は十八歳じゃ。」
と返す。生徒内で色々と噂が立つかもしれぬが仕方ない。
誤魔化すためにも授業を始めよう。
「……これぐらいにして授業をするぞ、後で聞いてくれれば答えるからそう怪しむでない。まずはお主たちの錬成についての知識を問う、さっき最初に質問したのは狐のお前じゃな?錬成とは何か答えられるだけ答えてみるんじゃ。」
「え?えっと……も、物を作り出すとしか……」
ふむ、やはりそう見える以上そう考えるか。
「半分じゃな。作り方について言えるのはおるかの?」
……授業に来てるんだからいるわけないじゃないかという無言の返答が聞こえてきそうである、当然かの。
「質問を変えようかの、錬成を見たことある者はおるか?」
何人か居たので聞いてみるとユラがやっていたのを見たらしい。
「そうかそうか。では見たこともない奴もおるからまず私が錬成を見せる。最終的にお主たちはこれに準ずる者ができるようになってもらう。『我世界に代わりて、万物を生み出す――』」
さて……何を作ろうかの。考えずに始めてしまったぞ……別にここの者達に錬成で万物を作らせたい理由ではないしの……人の型で良いか。
そうしてアウラが象るは人、誰かに似せるわけでもなく適当に顔なり身体なり服を見繕う。もちろん魂などは作らない。作れないと思わせるためだ。
作り上げる途中でざわめきが起きたりしたがとくに気にする事はないじゃろ。
「ほれこんなもんかの。」
「え?ひ、人……?」
魂さえ入れれば人になる、その手前の存在に生徒は皆驚いた。
「そうじゃよ。あ、生きてはおらんぞ?魂は作れぬからな。ほれ、勇気ある生徒よ、触ってみろ。」
「じゃ、じゃあ俺が……」
大柄の男子が前に出たので触らせてみる、見た感じはライオンのような類の【獣人】かの。混血が進みすぎて元が分からなくなってきたのう……最初の頃は頭がそもそも人型じゃなかったりしたからわかりやすかったもんじゃが。
「うお?!」
彼が手に触れた途端に驚愕の声を上げる。
「ど、どした?」
「せ、先生……これ本当に生きていないんですか……?」
顔を青くしながら質問をしてくる、なにか間違ったかの?
「ん?そうじゃが……」
「凄い肌触りが本物まんまと言うか……」
「生きてはおらんと言ったじゃろう。他に触ってみたいやつはおるかの?」
彼の感想に触発されたのだろう、結局全員が触れたが……何人か変なところを触れようとしておったが女子に半殺しにされてたのう……
「生きてないからってあまりにも好き勝手し過ぎじゃ……とりあえずこれは生きてはおらぬがほぼ人と一緒じゃ。このように魂以外であればすべてを再現する。まぁそうじゃな……最終的にはこれが作れるぐらいは夢見てほしいかのう、それでも今は無理じゃな。」
しかしそのあとにその扱いに困った、生半可に気合を入れて作ったものだから生徒の目の前で壊すのが見た目的にためらわれるのだ、まだもしかしたら生きてると疑っている人がいる以上殺人のように見えてしまうかもしれないからだ。
もし授業がこの構成組以外にもあったなら複数体作っていたかもしれないとなるとこれの仕舞い場所に困るのう……
「先生、それはどうするんですか?まさか壊すんですか?」
「……まぁこれは教室に座らせておくかの。さぁ錬成のすばらしさがわかったかのう?まず概念の説明じゃ、錬成というのはその対象を完全に把握していることが前提になっており己の経験とその対象への印象から形をひねり出していく……ようするに物事を深く理解する必要がある魔術の一つじゃな。それゆえに――」
◇
アウラの初回の授業は意外にも生徒を困惑と衝撃に巻き込んだのは最初のつかみだけであった。生徒からしてみればただの美人の凄腕教師が来たというにすぎないが
「……ここら辺で今日は終わりにしておこうかの。おつかれさまじゃ。次の授業ではお主たちに身近なものを錬成してもらうでな、物を持ってきてもいいから把握できるようにしておくのじゃぞ?ほれ帰った帰った。」
そうしてぞろぞろと生徒が帰っていく。
……まぁ初回ならこんなもんかの。つかみは上々じゃな。……と思えば一人私のことを不思議そうに見ているではないか。