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一般人だけど世界滅ぼしたので世界作ります  作者: 超蔟
第4節 神様教師編
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いかに教えるか

 学園の食堂というものはルルイエの腕程のものはいなかったが逆に種類が多い、これはこれでまた面白いものじゃ。

 ただ……一つ気になることがある。


「……なぁ、ユラよ。」

「何でございましょう?」


丁度食べ終わったタイミングで話を振る。


「やけに人に見られている気がするのじゃが、もしや正体がバレてたりするかの?」


 そう、いま我々は明らかに通過する人々が必ずと言っていいほど横目で見ていくし加えてそのまま逃げるように立ち去るのである。


「フォッフォッ……ワシが学長だからかも知れませんなぁ……」


 ユラはどこ吹く風と言わんばかりに特に気にしてないようだ。


「それなら構わんが……大丈夫かのう……」


 バレていなければとりあえずは良いのじゃが、正体がバレると困る故に少々ビクビクせねばならんのは厄介じゃな……


「アウラ様、今度からは部外者じゃなくなりますが故、好きにここは使っても大丈夫になります。その時は先ほど渡したカードを見せればここの者だと判断するのであのカードだけは無くさぬように。」

「鑑定に載らない事の判断は面倒じゃのう。」


 そう言うとユラはなにか思ったようでどこか空を見ながらヒゲを触っている。


「生徒は制服がその代わりになりますが、教師にはそういうのを設けてありませんでな……中には料理人が顔を覚えてる教師もいますがアウラ様はまだ覚えられていないでしょうから……」


 まぁその容姿で通ってればすぐ覚えられるでしょうと冗談めかして笑っている。


「私が制服とやらを着るのはダメかの?と言うよりいいデザインをしておるから着てみたいぞ?」


 この言葉は飾って言ったつもりは無い。

 先ほどからチラチラとしている子供……いや生徒の着ている服、ユラから説明を受けていたが制服はそれこそ個をどの集団に属しているかわかりやすくしているし、なによりデザイン的にも綺麗にまとまっており装飾は少ない。


「お褒めいただきなにより……いや、それをされては誰が教師か分からなくなりますぞ……」

「そうか……ん?教師用の制服、なんてものはないのか?」


 そう言えば未だにユラ以外の教師に出会ったことがないので見たことがないのだ。


「……あることにはありますが……」

「あるのか?!ちょっと見せてくれんか?!」


 あるならぜひ着てみたい。何事も興味を持てば触れてみるのが一番である。


「ではワシの部屋に一着ありますので、また戻りましょうかの。」


 そう言って再びユラの研究室へ帰っていく……が



「……今の見た?学長と一緒にいる女の人。」

「見た見た。凄い馴れ馴れしかったわね……」

「それにあの人の事アウラ様って呼んでたわよ……」


 二人が昼食をとった光景は瞬く間に生徒の間を駆け抜けた。

 そもそも学長は学園外のどこかへ出かけるのはよく見られていたが生徒がいる時に食堂などに顔を出したことは滅多にないのだ。

 それがかなり年下の女性と笑いながら食堂で過ごしていたとなればすぐさま噂として様々な説が飛び交う。

『学長の娘説』『どこかの大魔導師説』……果てには『恋人説』なるものまで出回り始めた。

 ここまで生徒に広がるとそれは自然と他の教師にも伝播していくもので……


「最近学長に可愛い娘がいるって噂聞いたか?」

「え?あの人結婚してないはずでは……?我々教師としてもその手の噂が学園のトップについてというのはいささか問題ですね……」


 あの大魔導師先生のスキャンダル疑惑。

 それはアウラが着任する日まで学園を駆け巡った。この軽い騒動の唯一の救いはユラへの信頼と彼がとくに火消しをせず日が来れば分かると答えたことだろうか。



 数日後、アウラの授業は彼女の予想よりも早く用意された。

 これは錬成を教えられる教師がそもそもいなかった為で、この数日というのは時間割の再編成などが大半であった。その間にルルイエも訪れて来たのじゃが……


「そうですか……ついにアウラ様が手に職を

……」


 教師を始めると言ったら泣かれてしまった、非常に心外である。


「な、なんで泣くのじゃ、元々私は人に知恵を授けできたんじゃぞ。」

「あんなだらしなかったのに……教師なんて……嘘みたいですわ……この巣立ちを見るような感覚ですわね……」


 完全に手のかかる子供として扱われていた節があるのう……


「ところでルルイエよ。私に教師として立つ時どう教えたらいいか教えてはくれんかのう?」

「……はい?」


 ルルイエがピタリと泣き止んでこちらを見つめている。


「あ、アウラ様?元々教えていたと今言ったばかりでは……」

「授けるのと教育するのでは色々違うんじゃ!ただこれはこうだからこうせよ、というのは訳が違う!」


 するとルルイエがではこうしましょうと提案してきた。


「そうですね……教え方だけでしたら私のところに丁度適役のおじさまがいますわ、彼に聞いてみればいいかもしれませんね。」

「ん?お主いつの間に所帯を大きくしたのじゃ?」


 少なくとも私が好きにしてる間に彼女の城に人が増えた記憶はない、とすると【魔族】あたりなのはすぐにわかった。


「私の大事な配下、いえ家族をやっと呼べたのですわ。アウラ様の事はさきに伝わってるので気にせず聞いてみましょう?」



――ルルイエの居城


「おじさま、こちらにいらっしゃいますか?……と丁度タイミングが悪かったかも知れませんね。」


 城に着いた時に前回よりも増築されているのに気がついたが中も色々増えていた。

 ルルイエ曰くおじさま、というのはここにいるらしいどのことで中庭に来たのじゃが……


 ガキンッ、


「……甘いっ!身を捨てる型を忘れろ!」

「うっ!……は、はいっ!」


 カンッ、


「そのまま背後のものも守れんぞ!これを流してみろ!」

「くっ……うわあっ!」


……四つ腕で見えない速度で剣撃を放ち続けるグスタフに鍛えられている【勇者】の姿があり丁度受けきれずに吹き飛ばされた所だった。


「【勇者】よ、一度身体を休ませて来い……姫様、何用でしょうか。」


 呼吸ひとつ乱さずにこちらへ向き直る。


「おじさま、無理に手を空けなくても……」

「丁度休憩を入れるところですからお気になさらず。」

「そ、そうですか……あのーではこちら、例の方なんですが彼に教え方についてご教授願えないでしょうか?」


 そうしてルルイエの後ろにいたアウラを見て疑問に思ったようで首をかしげながら


「はて……姫様、失礼ながらこの方に私が教えるようなものはないように見えますが……」

「あ、剣術とかではないのですよ。この方が今度人に教えることになってその心構えとどのように教えるべきかというのを説いてくれればいいのです。おじさまそういうの一番長いでしょう?」


 そういわれるとグスタフはなるほどなるほどと目を細めながら笑って快諾してくれた。


「ふむ……姫様から聞いていましたがアウラ様でしたかな。こんな老いぼれでよければお教えしましょう。どうぞ私のことはグスタフと呼んでいただいて構いません。」

「うむ、では何から聞こうかの……」


 グスタフはその言葉を聞いてアウラがほぼまったくわからないのだと把握したらしい。ルルイエが部屋を一つ用意してくれたのでそちらに移動しながら話を進めることにした。


「アウラ様、そうですな……いくつか質問します。まずどのような相手に教えるので?」

「何人かはわからないが数十ときいておる。相手は魔導を志す若者でまだ顔もしらん。」

「学術ですか……では初対面である以上自分はどういう者であると示す必要があります。」 


 グスタフはルルイエの言う通りその手はかなり長くやっていたらしい。スラスラと的確なアドバイスを飛ばしてくる。


「理由もおしえてはくれぬかのう?」

「ええ、その生徒に話を聞く価値があると思わせなくてはなりません。そうですな……交友とは違いますが打ち解けておくと生徒も身構えずに話を流し込むことができるでしょう。……さてこちらにどうぞ。」


 部屋につくと無駄のない動作で私を椅子へエスコートしてくれたのじゃが……見た目からかかなりそういう印象は受けなかったのだがなかなかの物だ、人は見かけによらずという通りであるのう。


「教える期間が決まっている場合は最終的に己の手を離れるときにどのような状態で送り出すかを決めそれを期間に余裕を持たせたうえで割り振ります。ただこれはあくまで目安。生徒の成長をみながら適せん調整するべきでしょう。そしてもう一つ、そのまま完璧に全てを教えることよりも、教えたものが理解できるように、後に生きるように教えるのです。」

「なぜじゃ?完璧に教える方が生徒のためにならんのか?」


 完璧に教えたほうがグスタフは生徒のためにならんという。私からしてみればすべてを知っていれば我が手を離れたあとでも何も問題なくできると思うのじゃが……

 そういうと手元に紙を出してきてグスタフが板の一枚一枚の長さの違う桶を描いた。


「この板を生徒一人一人で長さを理解能力の高さだと思ってくだされ、教えた内容が水の量になります。教えた量が増えていけばだんだん水嵩は増していき……短いところから溢れます。」


……どこかの世界でこの例えを見たことがある気がするんじゃがこの男もそういうところの出身だろうか。

そんなことを考えていると大丈夫だと判断したのだろう、そのままグスタフが話をつづけた。


「……だれもが同じように理解できない以上この教える目標量をすべて教えたとしても生徒がそのまま理解するわけではありませんし、発揮できるわけではありません。終いにはその遅れた生徒を見捨てるわけにもいかずこの様に桶を補強するとしましょう。」


 そうすると短い部分の桶の板を書き足した。そしてこうすれば桶の上まで水は入りますね?と。しかしながら桶を補強するのに時間を使ったために教える総量は減るというわけだ。


「要するにその個々の違いを把握したうえで教えなくてはなりませんので遅れたとしても彼らが手を離れたあとにその差を埋めきってくれるようにすることが最終的に活きてきます。」

「ふむ……」

「あ、そうですな……アウラ様、これだけは覚えていてください。間違っても等しく接するのです。誰かに入れ込んではなりませんぞ。争いと妬みを生みますからな……」


 そう言ったグスタフはどこか懐かしい目をしていて過去に経験したかのような口ぶりであった。

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