七魔七様 ①
「……グスタフ、気はすみましたか?」
「……っ、これに負けたってのがな。」
かなり胸糞が悪い様で吐き捨てるように言うとそのまま剣を収めた。
大体十数分ほど彼はメビウスに剣を振り続けたはずなのだが肩で息をしているようには見えなかった。
「……物理無効系の仲間も敵も山ほど見てきたがここまで手応えがあるのに死なないなんて気持ち悪いのはお前ぐらいだ。」
「……僕だって好きでこんな体質してる訳じゃない、痛い時は痛いんだよ。」
どこからとも無く声がした方思えば、下に塵の山のようになった物から段々とメビウスが再構成されていく、残機無限のRPGの主人公は恐らくこんな感じかもしれない。
「……【勇者】、これで許したわけでないが姫様の目的のため。これで今は手打ちとする……」
「はは……そうしてくれると僕としては嬉しいかな……」
そう答えるメビウスを見て余計に思うところがあったのだろう、再び腰に剣に手を伸ばしたが呆れの表情を混ぜつつその手を離した。
「ところで創造主殿、一つ伺いたい事が」
「なんだね。君たちが荒事を起こさないこと以外は特に制約は無いつもりだが。」
「私の存在方法が人の感情を喰うことなのです、喜怒哀楽関係なく感情を頂ければいいのですが……」
なるほど、荒事ではないが常に影響を及ぼすということか、しかしルルイエのように体質を作り変えれば済む話ではなかろうか。
「彼女のように体質をこの世界に合わせて作り替えるのでは駄目か?」
「姫様はその能力的に作り替えをした時に発生する能力低下を難なく無視できます、しかし私はその足元にも及ばぬ故、最悪消えてしまうので出来ればそれは勘弁願いたいと……」
そう言ってルルイエの方を見ると、なるほどそういう事があったのかと自分のステータスを開いて確認している、確かに彼女は意に介していなかったようだ。
「創造主様、出来ればその手のことは認めて頂けると嬉しいのですが……私の方で最初の頃何人かそれで消し飛びましたので。と言いますか、私も下手したら消えていましたわ……」
「そうか……因みに感情を喰われるとどうなるんだ?それ次第で認めよう。」
そう言うとなにか思い出そうとルルイエが少しの間悩んだ素振りを見せピンと着たように説明し始めた。
「……そうですわね……寝ている時の夢を喰らって朝起きると思い出せない感じでしょうか?1人のそれを喰えばその手の【魔族】は数日は維持できます。」
「それなら特に問題は無いだろう……その手の輩はどれぐらいいるんだ?」
「………元【魔王】で数千、その配下で数千万……いや数億……でしょうか?」
絶句した。
彼一人、【魔王】のみならまだ何とかなるかもしれないが、その配下の数がおかしい、この世界の人口は恐らくまだ億には到達していない。
いくら問題ないからと言って一人に数人の【魔族】が張り付く光景はいい物とは言えない気がする。
「……流石に配下の召喚はまだ止めてもらってもいいか?管理しきれん。」
「ま、まぁそう言うと思ってましたわ……仕方ありませんね。グスタフ、宜しいですか?」
「姫様の仰せのままに。」
ここでふと男は思い、恐怖した。
今の数の話はあくまで感情を糧にする【魔族】であるということに気がついたからだ。
「……ルルイエ。……先に確認するが他に何を糧にする【魔族】がいるんだ?」
「そうですねぇ……数は大体同じだったと思いますが、大まかに分けると契約を取り付けて代償を貰う、宿主から魔力を貰う、死んだ魂を誘導するときに魔力を貰ったり……後は私のように普通に栄養を取るぐらいですかね。」
と言ったところでグスタフが僅かに反応し付け加えた。
「姫様、吸血の奴らを忘れております、いくら謁見に来なかったからとここで忘れては後で大変なことになりますぞ。」
「吸血鬼……名前の通りか?それは流石に……」
「あー……そうでしたわね……」
吸血鬼、彼らが命を奪うのを糧にしていると言うなら少し制限せねばなるまい。
魔物のように物理的に襲う場合は目視出来るのもあり住人は対処が可能になるが精神体の類を実戦慣れしていないようなところで過ごさせるのは力関係として一方的になりうるからだ。
それに他の【魔族】と同じ数がいればすぐに絶滅してしまうだろう、ルルイエには済まないがそれは控えてもらうしかないかもしれない。
「吸血鬼の方々は数も三百人とかなり少ないですし……生物の血を丸々吸うなんてことは滅多にしませんわ……弱肉強食の一環で認めていただけないでしょうか……」
「三百か……それ以上増える可能性は?」
「彼らは転生しかしないので増えることはないと思います。」
住人が少々減ることに関しては特に気にしてはいない、むしろ弱肉強食の理念がない世界は生ぬるく、発展の見込みが少なくなる。
現に今は既存の魔物によって大体数パーセントほど年に死んでいる、総数は増えているので問題は無い、ここは強い魔物が三百ほど増えたということにしよう。
「その数なら認めよう。ただ増えるようならこちらも対応せざるを得ない、いいね?」
「ありがとうございます。」
そう一礼すると再びルルイエは魔法陣中央に立った。
「創造主様、せっかくですから今ここでそれぞれの系統の代表の方も呼んでしまいますわ、その方が色々説明しやすいと思いますわ。」
「魔力が足りないんじゃないのか?彼一人に相当使ったんだろう?」
「いえ、起動に特に魔力を使うのです。一度起動してしまえば召喚にはさほど魔力を使わないのでグスタフの魔力も借りれば問題はありませんわ。」
そうして彼女が再び詠唱を始める、グスタフの時と同じように光球が現れる。
一気に召喚をしたのだろう今度は六つの形を成してく、その六人もおそらく元【魔王】だろう。
同時に六人の形成がなされていく様子は意外にも見ていて面白いもので、男は一種の期待に近いものも感じた。
最初に形成が終わったであろう二人目がけだるげに目をこすりながら現れた。
「数千年ぶりに負けて落ち込んでいる私を遣わせたのは一体どこの誰かしら……?」
「……レヴィア、私ですよ。気分はいかがですか?」
「ひ、姫?!……よ、よくご無事でえっ……ぶえぇえ……も、申し訳ありまぜんでじだあっ……」
「他の人もいるんだから泣かないの。レヴィア?」
――感動のご対面というやつらしい、ルルイエを見た途端に泣いて彼女に抱き着いていた。