おいでませ、魔界へ
男は一人でルルイエに渡した空間のある部屋に現れて目の前にある重厚な扉を開ける。
「ルルイエはいるかな?」
「……来るとは思っていましたわ。」
「もうここは魔界みたいなものになってきたな……」
ルルイエに預けた空間はある程度開発が進んでいる。
さらに言えばいつの間にか城が出来上がっていた、話を聞けばルルイエも【錬成】が使えるという、昔住んでいたのをそのまま作ったらしい。
思っていたよりも技術レベルも高かった様で恐らく今の世界よりは数歩先を行く技術でありそうなものも垣間見得る。
「まぁ【魔族】のために作ってますから、当然といえば当然ですわね。」
「ところでメビウスはどうしている?全く見ないのだが……」
「あー……彼なら城にいますがずっと何か作ったり家事に手を出してみたり……非常に肉体労働代わってもらってるので助かってますわ……それもあって【召喚】に時間をかけれていますから……」
確かにこの城の一室、恐らく謁見の間を含め生体反応は例の二人分だけであった。
「そんなに時間のかかるものなのかい?」
「そうですね……呼び出す彼ら個々の位によると言いますか、それだけ膨大な魔力を使用すると言いますか。低位のならすぐに呼べますが管理の問題もあるので最上位から呼ぼうと思っていますから……二人の魔力合わせても流石に最上位の方々はかなり時間がかかりますわ……」
そう言ってルルイエがさらっと自己のステータスの二行目を表示させる、確かに彼女のMPが常にゴリゴリ削れている。
彼女曰く大体あと数万程消費するらしい。
「……ところでどうして来たかは何となく分かるかな?」
「アウラ様の事でございましょう?流石になにか言われると思って覚悟はしておりましたわ……」
言い方が自分がしましたという感じが感じられない、どういう事だろうか。
「ん?君がふっかけたのでは無いのか?」
「遠回しにそうなったとは思っておりますが……私はアウラ様にただ前の世界の話をしただけで……信じてくれとは言い難いですが本当ですわ、そしたらアウラ様喜んで帰って、そしたらこのように……」
なんというか……これが本当ならアウラだからというか、そのまま彼女の好奇心の暴走が全てであった。
彼女を消さずとも遠因なのは認めているので何かしら命令しておくのはありかもしれない。
「ルルイエ、今回の件は世界の理を独断で書き換えたためにアウラを人として暫く世界に降ろした。君は今回はお咎めはほぼなしにする代わりにアウラの面倒を見てほしい。」
そう言われてルルイエがキョトンとする、当然だ。
「……えっと……今まで通りでは……?」
「まぁそうなんだが一切創造を禁じたので仕事とか色々な……」
「あ、なるほど、自活させろと言うことですね。」
理解が早くて非常に助かる。
彼女の世界の常識がどのようなものかは今までを考えると問題は起きていないので不安要素ではないだろう。
むしろ問題は性別の件である、これまで少なくとも彼女はアウラを女性として見てきた、それが急に男になるのだ混乱は予想できる。
「ところで一つ言わなくてはいけないのだが……神様の性別についてだ。」
「?……アウラ様は女神でございましょう?」
「本人の希望で今男になった。」
「なっ?!」
ルルイエが口を開けて硬直する、ここまでは予想通りだ。
「……アウラ様は元々女性では……?いくら神様でも性転換は少々……」
「非常にいいにくいのだが……アレは元々性別の概念がない。ただ私と出会った時から可愛い物に興味を持ってね……そのままという訳だ?」
「え、えぇ……?ま、まぁ面倒を見る上で特に困るとは思えないので大丈夫ですが……既にアウラ様の面倒を見るのはなんというか過去にも似たような事をやってましたから……」
その後ボソボソと「私も作り替えてほしいなぁ……角とか」と言っているようだが気にしないでおいておこう。
まず【魔王】が過去にもそういう世話の経験があるというのは驚きであるが今回はそれに頼らざるを得ない、常に人と化してひ弱になったと思われる神様を見るのは苦労するからだ、そもそも男には後輩の学者を指導したことはあっても幼子の様な子を世話したことは無い。
……今いる娘もよく出来た作った娘なので世話をしている実感が薄いのだろうか。
……娘とは何を持って娘と呼べるのだろう?
世話か、絆か、それとも違う何かか?
「……神様?どうかなさいましたか?」
「あ、いや何でもない。ところで……」
◇
「なるほど、なるほど……そういう仕様でしたか……」
「えぇ、言葉で説明出来たり私がわかっていたのはこれぐらいでしたけど……」
「いや、かなり世界によって創造主の関わり方の度合いが違うんだというのがよく分かった。」
アウラに何を言われるか分かったものではないが男も他の世界がどのようにつくられるのかは興味があった、そういう例が手に入るのならぜひ聞いておきたかったのだ。
話を聞けばルルイエの元いた世界はおそらく創造主も【魔族】から創造主になったようだ。
この世界との一番の違いは他の世界から【魔族】をかき集めたということだろう、結果彼らの中には人の意思や心象を糧として生活するものもいたために創造主が無理やり存在を用意するなどしたのだという。
何より驚いたのはその創造主がほぼ常に世界に降りて【魔族】を見ていた、ということだろうか。
おそらくルルイエが男に対して驚きもしなかったのはこのためかもしれない。
「……あ、そろそろですわね……」
「ん?何か約束でもあったのか?それならば突然着たわけだから私はここで帰ることにするが……」
そう言って立ち去ろうとするとそうではないと呼び止められた。
「いえ、そうではありませんわ。丁度溜まりましたのよ、せっかくですから見ていきませんか?……私のところでの最古参の方ですし、問題は起こさないと保証いたしますわ。」
「ほう……」
ルルイエとメビウスは私の知らない外部から漂流してきたという表現が正しいだろうか、しかしながら今回は意図的に外部の世界から呼び出す……異なる世界の理で生きてきた者を意図的に呼び出した場合の影響を観察したり、今後また漂流した場合の対応などを考えるいい機会になりそうだ。
話は変わるが城に世界樹の根が現れたのはルルイエの召喚術による攻撃をしようとした際に異界にしまってあった龍を呼び出そうと思ったら違うものが出てきた、ということらしく呼び出し方にもいろいろあるようだ。
「……いろいろと知りたいことがあるから見せてもらおうかね。」
「えぇ、どうぞどうぞ。ではこちらに……」
そうして謁見の間から場所を変え、ある平らな床にびっしりと魔法陣が書きこまれた部屋へとたどり着いた。
魔法陣の上に触れた状態ではいけないらしくそのまま浮遊して部屋の隅から見ていることになった。
少し待っていてほしいといわれたので何事かと思っているとメビウスも部屋に入ってきた、彼も色々と理由があるようで、実質ナンバー2ともいえる【魔族】の召喚に立ち合いたいとのことだった。
部屋に3人が入ると部屋の扉は閉められ、魔法陣が不気味な発行を始める、中央にいるルルイエが足元の小さな魔法陣をなぞるとその発光はより強いものとなった。
『古に朽ち果てし神々の園よりも眩しく 永久に続きし箱庭よりも変わらず 其れは道を示す光なり 今ここに理を超え顕現せよ 我は汝を解き放つ者なり 我は汝らの守護者にて汝らを誓約のもと導くものなり』
明らかにこの世界で使える詠唱ではないはずなのだがそのまま魔法陣が浮き上がり見た限りでは動作しているように見えた。
次第に魔法陣が一つの球体に収束しはじめ、詠唱するルルイエの目の前で形作ろうとしている。
この時点で見学していた二人はそれぞれ別々の点で驚かされた。
「……僕もこんな詠唱初めて聞いたよ。でも理屈はあの世界のまんまなんだけど……短い間とはいえ同じ世界にいたはずなんだけどなぁ」
「……この世界でもあんな詠唱の仕様は作った覚えがない……どういう仕組みなんだか……」
……まず仕様無視が出来ている点だ、完全にこの世界の仕様を無視して召喚している。
この世界での詠唱は四つの素に微妙な筋肉の動きや皮膚に接する素を魔力を使って動かすことであるはたきになるようにするものだ。
しかし今ルルイエが唱えた魔法はどうだ、そんな様子は一切ないどころか魔力の考え方も違うもののように感じる魔法だ、本来なら理によって起動するはずはないのだが現に目の前で起動している。
……これが対策できればある程度外部からの介入を阻止できるのではないだろうか?
そんなことを考えているうちにルルイエの前の光球が爆ぜその中からついに最初となる異界からの【魔族】が男たちの前に姿を現した……が
「…………」
「……ルルイエ、これはどういうことだ。」
その召喚された【魔族】は一瞬にしてかつての敵の首筋に刃を突き立ていた。