神様にだって罰は必要だ
【魔王】ルルイエ。
彼女は男とは違う創造主に直接作られた世界の住人である。
彼女の存在理由は【魔族】に繁栄をもたらすこと、しかしいつからか彼女は反戦争主義になってしまった、彼女一人で戦い彼女のみの犠牲で全てを片付けようとした、いや片付けた。
全ては我が【魔族】を守るため、【魔族】に幸福をもたらすため。
そんな彼女の世界は途中までは何事も無かったのだ、あの【勇者】が来るまでは。
そもそもどちらが先にふっかけたのかはもう分からない、ただ確かなのは【勇者】が現れてから尽く叩き潰されていった事実。
挙句の果てには創造主まで殺した。
守護者として申し訳が立たなくなった彼女は死のうとしたがその憎き【勇者】に止められてしまった上に最終的にはその【勇者】から名前を貰い【魔族】の再興に努めている。
――そう、彼女はあくまで世界の【魔族】の守護者である。
種族に仇なすものは全て葬る。
事前に芽を摘み取ることも忘れない。
使えるものは全て我が【魔族】のために。
「……と、まぁこんな感じですかね、今日はここまでですわ、アウラ様?」
「うぬ、面白い話じゃったのう。やはり他人の世界は私の興味を掻き立てるのう……」
幸い今度の世界はまだ優しい、自由にしていい空間までもらった。
そんな時偶然にもかつて私の世界のジョブ、少し色をつけて当時の魔術の話を流した、今の彼女にはかなり憧れの魔術的に魅せられただろう、話を終えると興奮した様子で帰っていった。
それから数時間後やけに体が懐かしい雰囲気がすると思い久々にステータスを開いてみた所……
『ルルイエ ♀999999歳』
『【魔王】【守護者】MP 158601/999999 SP6000/6000 HP 80000/80000 HealingTime 70000』
『スキル: 扇動 【召喚】遮断 áÇ 蘇¶ 時ó±Â 指ö カリスマ』
『適正技術: 【魔法使い(四素)】【星操術師】』
「これはどう見ても……アウラ様ですね……それにしても桁数が足りませんわ、あと三桁程欲しいのですが……いくつか表示も変ですし……」
そんなことを思っているとあることに対して危機を覚えた、いくら良くしてもらってるとは言え今このようになったということは色々と仕様変更があったということだ。
……そしてそれが少なからず自分の見覚えのあるものということは遠からず影響を及ぼしてしまったと言うことでもある。
あの男がよく思わなければ自分にもなにか来るのは明らかだろう。
まだ【魔族】再興がなされていない今それをされるのは非常にまずい。
「なんと説明したらいいか……アウラ様……今回ばかりはさすがに困りますわ……」
◇
男はアウラを前に考え込む。
今アウラは生身として、男は創造主としてその場にいる、アウラを逃がさない為だ、極めつけにマキナが【オリジン】を止めて肩を抑えている。
「神様、流石に今回ばかりはそのまま見過ごす理由には行きませんね。」
「ぐっ……きっちり生身にしおって……」
アウラの処遇を考えなくてはならない。
恐らく世界に返して単に世界に干渉させないというのが一番なのだろうが既に彼女が接触介入した事項を考えると突然いなくなるのは不安を煽ってしまう。
それにしても興味本位で世界をここまでいじるのは如何なものか、しかもあくまで他人の世界。
他人の世界に人を放り込むなんかよりよっぽどタチが悪い。
「神様、幾ら何でも世界創造は不干渉と言ったのはあなたではありませんか。」
「しかしだな……君は何度か私を遣わしたではないか……」
「あれは私が予定してたからいいですが今回は完全に神様が勝手にやりましたよね?」
「う……」
悪意なしという点を組むと明らかに子供のいたずらに躾をするようなものを感じるのだが規模が規模だ、子供に叱るようにそれで終わりともしがたい、なにより存在的に男より年上なのだ、人間味を帯びたのはつい最近とは言えその点は見過ごせない。
……いやむしろ思いつきをそのまま何でもかんでも創造に繋げてしまう創造主独特な発想を改善出来ればいいのではないだろうか?
「神様、一旦ものが無いということに苦しんでください。」
「うえっ……?!な、なんじゃそれは」
「簡単です。神様が何でもかんでも思いつきを創造に繋げるので。それを一時的に取り上げようかと。別に今持ってるものは取り上げませんよ。現に助けてくれる人はいるでしょう?」
そう言ってアウラを作り替えるべく手をかざす。
いくら神様言えど生身、逃げようもなくその影響を受けた。
「とりあえずルルイエあたりに助けるよう言ってはおきますが神様、いやアウラは今から暫くは一人の【ヒューマン】ですよ。それで手打ちとしましょう。」
「……流石にちとつらいのう……ところで一つ聞いてもいいかの……?」
「……何でしょう?」
今【ヒューマン】となったアウラがそこには座っている。
別に魔力の扱いやすさや身体機能になにかデメリットは設けていなかった。
要するに常に【オリジン】で世界に降りていた時と比べて創造や【オリジン】の恩恵である遮断や瞬間的治癒がないだけである。
「……私に性別を与えたのか?」
「あ……」
そう言ってアウラが自分のステータスを呼び出した。
『アウラ ♀ 18歳』
『【ヒューマン】Lv20/50 MP300/300 SP150/150 HP500/500』
『スキル: 錬成』
『状態 天罰3次技術【星操術師】制限中』
『適正技術: 【魔法使い(四素)】【錬成師】』
「そう言えばアウラ様は性別ないんでしたね、おとーさん、どうします?」
「……特に気にしてなかったからな、神様、希望は?」
たしかに本来性別が無かったのに急に性別を与えてもどうだろうかということで本人の希望に沿うことにした。
今のところ周囲に女神だと思われている以上変更しないのが懸命だと思うのだが……
「……この機に男になるのはまずいじゃろうか?」
「……周囲にどう説明するつもりですか、神様は簡単に考えてますが結構女神だと思って接してて男だったら問題になりそうな事それなりにありますよ?……一応多少の優しさを持って忠告はしました。改めて聞きますが性別はどうしますか?」
「……面白そう、じゃすまないかの?」
どうやら彼女はそれによって発生する事の大きさが把握しきれていないようだ。
いっそのことこのまま男にして性別変更による混乱にもまれてもらってもいいかもしれない。
「ええ。ほぼ確定ですね。もしかして苦行を望みますか?」
「……そうじゃな。性別だけ男にしてくれんかの。」
なぜかどこか楽しそうに見えるアウラであるが彼女改め彼にはすぐこの性別変更という混乱に揉まれることになるとは当然思ってもいなかった。
ただただ面白そうという興味だけが先行し、生活で発生する苦労も考えていない。
男は先に起こる事態が自分に降りかかってこないかを心配しつつアウラの性別だけを書き換えた。
……マキナそっくりの双子が性別違いに、性別が違うだけで見た目がほぼ変わらない、いや細部を見れば少し男らしさのある体格に変わったようにも見えるがよく見なければ気が付かないかもしれない。
当然服も変えていないし髪が急に短くなるわけでもない。
「……まぁ永遠ではありませんから。せいぜい頑張ってください……あ、連絡手段は用意しますが泣きつれても戻したりはしませんよ。」
「うぬ……まぁ精進せよ、というやつじゃろう?」
こうしてアウラを元いた家へと降ろす、これでしばらくの間彼女改め彼は一人の人間として生活を始めるのだ。
「おとーさん、アウラ様はあれで大丈夫だと思います?マキナはなにか問題を起こす予感がしますわ……」
「もう希望通りだから何があっても私はしらないぞ……さて、神様はこれでいいとして、次は……」
そして男はルルイエに協力を仰ぎつつ今回の件にルルイエがどれほど関わっているのか調査に乗り出したのであった――