神様はだらしない
「今日もいい天気ですねぇ……」
楽しそうに少女が町中を歩いていく、時折何かに気が付いたかのように振り向く者もいるが彼女は特に気にしてないようだ。
彼女がほんの少しだけ目立っているのはその角のせいだろう、しかしその点を除けばあまりにも普通の少女が元気そうに町中を歩いているだけなのだ、ほとんどの人は新しい装飾か何かと思ってそのまま記憶に留めることはしなかった。
そうして何事もなくある一軒家の前にたどり着く、中からは物音ひとつしない。
「……アウラ様ー?いらっしゃいますかー?」
中からは何も変化なく、物音ひとつ帰ってこない、いやな予感がしたのでドアノブに手をかける。
「相変わらず鍵も掛かってない……入りますよ……アウラ様、生きてますか?ってうわっ!?アウラ様何やってるんですか!?」
「お、おう……ルルイエか……あと少しでうまくいきそうなんじゃ……う、うぅ……」
「なんて格好でやってるんですか!せめて家の鍵を閉めてください!」
床にへばりつきながら魔法陣に囲まれているアウラがそこにいた。
その恰好もすさまじく衣服として着ているというよりただ羽織っていて着るべき肌着はそもそも見当たらない、これで誰も来訪者がなく何事も起きていないのが奇跡といってもおかしくないだろう。
「あああああああ……もう駄目じゃ……疲れた……暑い……着てられぬ……」
「ほぼ着てないようなものなのにさらに脱がないでください!ストップ、ストーップ!」
◇
どうしてここまで酷いことになってしまったのか、よく見れば魔法陣の大半は熱を帯びておりアウラ様に関してはその身体自体が熱い、とりあえずあの後大急ぎで家の鍵をかけ、肌着だけは着せた。
そして今彼女は目の前で私の持ったきたご飯を食べている。
「……鉄の成分は作れたからそのまま火を焚き付けながら練りあげれば何かしら出来ると思ったんじゃがのう……でも思った以上に暑くてな……耐えられなかったのじゃ……」
「耐えられないならそこで止めればいいじゃないですか……」
「脱げば耐えれるかなと思ったんじゃ……」
そう言ってしょんぼりするアウラにふと疑問を抱いた、彼女は少なからず神様のはずだ、それにしては生身の感覚について疎過ぎるのではないかと……そしてもう一つ恐ろしい可能性に気がついてしまった。
「……アウラ様、もしかしてお風呂にも入ってませんね?」
「なんじゃそれは?」
「…………薬品の匂いでかき消されてるのが救いでしたね……」
まだこの世界に風呂に入る文化がないのだろうか……だとしても身体を拭かないというのも他人言えど乙女としては非常に放置しておきたくない問題だ。
「……アウラ様、湯浴みとか風呂とかそういう話は家を借りた時にしなかったんですか?」
「……何じゃったかな、そういうのはどこかに行けと言われたような……」
「話は覚えてるんですね……それなら大衆浴場だと思います。」
大衆浴場は存在しているのなら湯に浸かるという発送はあるだろうし身体を綺麗にするこという発想は存在しているのだろう。
しかし風呂の存在も知らないアウラを大衆浴場に今の状態で連れていくのは非常に心配なのでルルイエは彼女を自分の城でメビウスに作らせた風呂場に連れていくことにした。
「アウラ様、私がお風呂に嫌でも連れていきます、ついでに部屋も綺麗にします……いくら神様でどうにかなると言っても見るに耐えません!食べたら即行動です!」
「な、なんじゃいきなり……とりあえず気になるから拒否はしないが……生身とは面倒極まりないのう……」
ああ、私の中で神様のイメージが確実に壊れていく……一体どつにて私を無力化して縛って仲間を駆り立てたり、生身になった途端に飯も食べなかったり風呂にも入らなかったり神様は皆どこかしら酷いのだろうか。
何にせよあまりにも生身に対して無頓着なアウラ様はどうにかしなければなりませんわ……
◇
「風呂というのは素晴らしいものじゃな!錬成で最初につくるものはこの浴槽とやらにしよう!」
生まれて初めて風呂を体験しご満悦のアウラをルルイエが落ち着かせながらとりあえずタオルで抑え込んで体をふく、大きな子供を世話するような感覚に襲われてしまうがアウラの現状を考えれば仕方のないことだ。
……しかし世界で最初に錬成されるのが浴槽というのは歴史的にどうなのだろうか。
「それにしても洗剤というのは不思議なものじゃのう!身体を泡で包むと綺麗になる、というのは原理は理解していても見ていて面白いものじゃ……包む……はて……つつめばいいのか!おお、なるほどのう。ルルイエ、大手柄じゃぞ!」
「はい……?……とりあえずちゃんと髪を拭きましょうね?」
「んっ……んんっ……すまぬのう……でな?これまで一気に熱を与えて形を作っておったのじゃが魔力で型を作ってその中で錬成すればいいのじゃ……これで錬成が完成できるぞ……」
とりあえずはしゃぎだしだアウラの髪の水分を綺麗に飛ばしてとりあえず自分が作ってもらった服を着せる……彼女には後で彼女自身の服を作らせなければならない。
さすがに肌着をつけてないのは視覚的によろしくない、まずメビウスには見せるわけにはいかない。
「はぁ……アウラ様、ちゃんと洗い方も教えましたからね?今度からちゃんと生身のうちは身体の手入れをするんですよ?」
「う、うぬ……面倒じゃが仕方ない……これもきれいになるためじゃ……」
アウラは服をこれまで暖を取るためでも肌を守るためでも隠すべきものを隠すためでもなく、ただただ可愛らしいものを楽しむためだけに着ている。
故に温度に合わせて着替える概念もなかったし着替えるという発想もなかったのだろう、洗濯も後で教えなくてはいけなさそうだ。
「いいですかアウラ様、おしゃれというのには身だしなみというのもあるんです。」
「そうなのか?」
「あと今度から肌着を着てください……見ていて恥ずかしいです、可愛らしい顔なのに色々残念すぎます……一回生身をやめて向こうに戻ったらアウラ様自身の服とか肌着とか作ってください……何が必要か、とか手入れの仕方は私が教えますから……というか創造主のあの方は何も言わなかったんですか?」
そうである、少なくともルルイエとメビウスに最初に出会った創造主は男だ。
彼女がそういう状態であることに気が付いているはずだし何か言っていないわけがない。
人目に触れないからといって何も言ってない可能性も無いとは言えないが。
「ん?あの人は何も言っていなかったのう。何かあったかの?」
「…………きっと知ってて言わなかったんだと思いますよ。……そうだと思いたいです。」
……あぁ、この世界の神様は皆残念です。