【魔法使い】としての転機、再び
ある一室の前で少女と警備員がもめているようだ。
「なぁなぁ……通してくれんかのう?ほんの少しだけ部屋の主に用があるんじゃよ。」
「だめです。そもそもあなた予約も取ってないじゃないですか。身元もわからないのに余計通すわけにはいきません。」
普段ならそのままお引き取り願っているのだが、今回の相手は学長、ユラにとっては違った。
あの日人生を変えた相手だ、あの時はまともなお礼もしていないのだからまずはそこからだろう、それに彼女がここに現れたということは何かあるに違いない、慌ててユラは現場に駆け寄っていく。
「彼女は私の知り合いだ通して構わんよ。」
「で、ですが……」
「おっ、助かるのう……そういうわけじゃ、通してはくれんかの?」
まさに救い、というより部屋の主が現れてくれた、アウラにとってこれ以上ないタイミングだ。
「彼女の身元は私が保証しよう。安心してくれ。あぁそうだ、ついでに暫く部屋に誰も通さないでくれ、予定は無かったはずだ。」
「は、はぁ……」
そう言ってしぶしぶ警備員も離れていった、見かけたときは幻覚でも見たのではないかと思ったが会話できるのだからおそらく本物だろう。
まさかこんな形でもう一度あの日の運命の神様にであるとは思ってもいなかった。
「私でさえもう少し発展に時間がかかると思ったんじゃが……さずけて良かったのう。姿を戻しておいて正解だったのう。」
「確かに色々変わっておりましたが、あの魔力の扱いはあの時のままでした。……そして、その言葉を頂けて光栄でございます。」
深々と頭を下げるユラをアウラが笑いながらやめさせる。
「そんなに低くせんでいい、あの日からどれだけ変わったのか見に来ただけじゃ。城は現れておらんということはまだ魔力を当てて無いだけであろう?」
「そこまでお見通しでございますか、えぇ、おそらく同じ結果は作れると思います。ですがこの老いぼれはあの時の美しさを追い求めております故。」
アウラが去ったあと直ぐに同じように魔力練って放ってみていた、城は現れそうであったが彼は満足しなかった。
あの時に見た美しさは魔法を極めることで作り出せる美しさだと信じてそれがなせる時まで取っておくことにしたのだ。
「文化を理解した身だからわかるがその意気は大事なことじゃ。それに与えた技術を我がものとせず世界に流布したことも素晴らしい。なぁ大魔導師殿?」
「やめてください、大魔導師殿などと。貴方様に比べれば……」
「魔術ではそうだがお主がしてきたことを考えれば間違っておらぬだろう?胸を張ればよい。して今これはなっておる……?」
「あぁそれはですね……」
魔術に関してはユラとアウラは熱心に情報確認を行う、アウラは魔法の伝播に関してはかなり関わっている、その自負が彼女にはあるからだ。
◇
「なるほどなるほど、素晴らしい進度じゃ。それにお主がやろうとしている事は我々にとっても理想的だのう。本来は口出ししてはならないのだがな……これに関しては特例じゃ、おそらく関わるのもお前含めて2人だけになるのう。」
「……二人ですか?」
「……数千年前の名も知られぬ普通の巫女じゃよ。」
アウラが知る限り彼女の言い伝えはほぼ無く、伝承レベルに薄れている、事実を知る人は存在しないので語っても問題ないだろう。
ユラは思い出すように考え込んでいるが当然思いつかなかったようだ。
「まぁ数千年も前じゃ、思い当たる方が恐ろしい話じゃからのう。気にせんでいい。」
「……そうしておきましょうかの。あぁところでこういう魔術を思いついたのですが……」
アウラとユラが決定的に別の存在であることを示すやり取り、かける言葉が見当たらず互いにしばしの沈黙を経たが何事もなかったかのように魔術について互いに議論していく、魔術にそれぞれ思い入れが人一倍ある、その点だけが彼らの共通点であり一番重要なことなのだ。
「ほう?私に聞くとはさぞおもしろい魔術なんじゃろうな?見せてほしいのう」
「えぇそのつもりです。では、『世界の理よ――』」
◇
「……そうじゃのうここら辺で帰るとしようかのう……あぁユラよ、今度出会った時は普通に接するのだぞ?しばらくこっちにいることになったからのう。」
「ん?……それはどういう意味ですかな?」
アウラは悪い人でもなければ問題を起こす人間ではない、そう思ったユラは特段警戒する意味はないだろうがそれでも普段は世界にいないような人がなぜこちらの世界にいることになったのだろうかと不思議に感じた。
「そのまんまじゃ。……それじゃぁ私はこれで失礼するかのう。……例の魔法。完成、楽しみにしておるぞ……あぁそうじゃ。先ほど二人と言ったがの、それは私からの接触じゃ、いつか私の元に来れるようなのを輩出してくれれば話は別じゃ。」
「……そういう人が生まれるといいですのう、そういう優れた【魔法使い】がワシの後を継いでくれればなにも悔いることはないですからのう。」
「そういう人が出れば私も何も憂いることはないからのう。期待しておる。」
そう言ってアウラはユラの研究室を後にする、ユラはその顔を見ていないが彼女は何か企んでいるようで、かなり楽し気に帰って行った。
「一体やつがどんな顔をするか楽しみじゃ……」