異世界へようこそ
「……さて、話をしよう。まず、話をスムーズに進めるために君たちの現状は伝えよう。」
「ああ……」
「……一つ目。君たちにとってここは所謂異世界。そしてここはどこかということについてだが、ここは空中に浮かんでいる……まぁダンジョンみたいなものだ、君たちはその下層にいる」
男から告げられる事実は信じがたいものであったが、これまでの体験がほぼ初見のものばかりだったのも説明がつく。
「……つまるところ僕達は何をさせられるんだ?助けられた以上話は聞かなきゃいけない。」
「まず【勇者】の方には世界を滅ぼさないことと……【魔王】の貴方にはもう一つの条件さえ守ってくれれば君たちをこの世界の住人として歓迎しましょう。どうだね、悪い話ではないだろう?」
「もう一つの条件によりますわ……貴方は全てを見ているようで変な感じがします……」
不安がられているが男は一切気にしていないようだ。
確かに男は彼らが協力している理由も確認し、彼らのこの世界に来たあとの行動はトールから確認をとっていた。
男にとっては目的のためにあとは彼らにはいと言わせればいいだけなのだ。
「……再び【魔王】としていてくれればいいと言うだけだね。」
「……っ?!」
彼らにとってそれはとんでもない提案だ、何より【魔王】は【魔族】復活が終われば死ぬ気でいたのだ。
「……いつまででしょう?」
「基本的に終わりはない。……あぁ、【魔王】の貴方が目的が終わり次第死のうとしているのは知った上で言っている。」
「……仮に飲まないと言ったら、支援を切るだけではないんでしょう?」
段々と部屋に暗い空気が立ち込めるなか男は淡々と答えていく。
「貴方たちは言うなれば世界にとって異物なので、速やかに消えてもらうことになりますね。」
「要するに僕達には拒否権はない、ということかな。」
「ええ、その代わりに受け入れてくれるのなら悪くするつもりはありません。【魔王】様がそのまま【魔族】を呼び戻して国を持っていても構いませんよ。」
男がにこやかに語っているが目を見る限り断れば消すと言うのは事実に見える。
加えて逃げるというのも無駄だろう、これまでの出来事も合わせれば要するに僕たちにはそもそも選択権など無かったのだ。
「……私は受け入れますわ、我が【魔族】たちが暮らせるようになる、私に関しては死ぬ事も許されなかったということでしょう?」
「えぇ、そういうことにしてもらえれば。……さて君はどうするかね?」
「僕は……」
ここで断ればついに死ねる、死ねないとされていたが開放される、そう考えていたが……
「……彼も賛成させますわ。拒否権はありませんの。」
「えっ?」
「私に死なせなかったのにこれを利用して死ぬなんて許せませんわ、貴方にも生きて償ってもらいます。」
【勇者】は何も言えなかった、一体どの口が死にたいなどと言えるのか、少なくとも彼女に生きさせておいて自分だけ先に楽になることはできないと悟った。
「……あぁ、僕も従うよ。彼女の言う通りだ。」
「……そうですか、では今後よろしくお願いしますね、とまぁ硬い空気はさておき……」
そう言ってホログラムの男が手を叩くとこれまで部屋の灯りがホログラムのとテーブルのロウソクの輝きのみだったのが部屋自体が光源になったかのように明るく印象が変わる。
「さぁようこそ我が世界へ、君たちは晴れて住人として迎えられた!」
「えっ、あ、あの……」
男が大げさな手振りで歓迎の意を示す。
その一遍変わった様子にまた二人は困惑する。
「すまなかった。どうしても二人は世界に欲しくてね。少々強行手段を取らせてもらった。……とりあえず彼女のその恰好をどうにかしてあげよう。私には女物の服はわからなくてね、私の代わりに彼女に用意してもらった、神様お願いします。」
「ややこしくなるからここでは神様はやめてほしいのう?……あぁ二人は気にすることないぞ?ここでは違うからのう。」
創造主が神様――アウラを呼ぶと彼女も同じようにホログラムで現れる、が彼女は部屋を自在に歩き回り【魔王】を嘗め回すように観察した後
「……うぬ、【魔王】の方。ちょいと【勇者】から離れるのじゃ。……さもなくばその柔肌をさらすことになるぞ?」
「え?あ、わかりました……?」
そう言って部屋の隅の方へ誘導するとアウラが彼女を白い光でつつみ男二人から見えないようにした。
「どれ、ちょっと私にみせてみるのじゃ……おお、お前もいい身体をしとるのう……」
「え?ひっ……ちょっと、何、え、貴方、さ、触れるの?!んっ……や、やめっ」
「そうじゃのう……こんな服でいいじゃろ……ほれかわいいかわいい【魔王】様じゃ」
本当に彼女が服を作るだけだったのかどうかは当事者にしかわからないが、二人を包んでた光が溶けると
アウラが彼女に服を作ったのは確かであることがわかる、【魔王】もしおらしくなっているがひとまず服を手に入れたので安心というところだろうか、それにおそらく清潔にもしてもらったのだろう、髪や肌もきれいになっていた。
「あ、ありがとうございます……さすがにあのままでいるのは恥ずかしくて……」
「そうじゃのう……いやむしろ何事もなかったことが不思議なくらいじゃな」
そういいながらアウラが意味ありげに【勇者】の方を目を細めてみている。
「……なんですか、僕がさらに罪を犯すとでも。」
「仮にも君は【勇者】だろう?……冗談じゃよ。ほれ、君も綺麗にしてやろう。」
そう言って同じように【勇者】を包んで汚れをあっさりと取り除く、数日前まで血まみれ、傷だらけだった服は新品のようになっていた。
彼らに一通り世界の現状説明をした後、住居や生活の基盤を用意するのでしばらくこの部屋で過ごしてもらうことにした、その方が人目につかず、何か支援をするにあたっても不便しないので特にこれといった拒否はなかった。
◇
「異世界二名様ご案内、じゃな、半ば強引じゃが結果良しとするかのう。」
「ええ、人間性が残ってるのが救いでしたね、それにしても彼らの肩書と名前をどうにかしなければなりませんね……」
研究室でマキナを加えて3人で【勇者】たちの様子を見ながらある疑問について考えていた。
「マキナは名前は大事なものだから変えないほうがいいと思うの。どんな名前でももらったものは大事だもの。」
「それはそうなんだが、まさか名前と肩書が一致してるとは……新しい生命として名前も考えてもらうかね……それに木の根を飛ばしたのも彼らが原因でしたからそれの処理も考えなくては……」
異世界からの来訪者は一癖も二癖もあるのであった。