居候のイレギュラー
――研究室にて
「あ、あのぉー……主様は……いらっしゃいますか?」
「ん?!おぉ……!今はカゴといったか……よく来てくれた……!そうかそうか、君がいたじゃないか!」
「ほえ?」
あまり真面目とは言い難い質問をしに行くので怒られかねないと思っていたカゴであったが真逆の対応に困惑する、思い返してみても感謝される様なことはしていない。
一体何があったのだというのだろうか。
「あ、あの……感謝される様なこと、私しましたっけ……?」
「あー、そうだな。君の近くで木の根を見たろう?下手に我々は動けなくてね。調べようがなかったという所に君がやって来たという訳だ。まぁ話はなんだ、座って何か飲みながらしようじゃないか。」
そう言って研究室のソファに案内されトールが飲み物を二人の前に置いていく。
「……で、だ。あの木の根について詳しく現状を聞こうじゃないか。生活上あれはどう影響しているんだ?」
「あー……それがですね……」
特に不都合がある訳でもないので生活している中で現状を説明していった。
とは言っても実際に木の根が生えてきただけで、周囲に変なことが他に起こった訳では無いこと、見る限りはそれ以降変化もないことなどだ。
「……大体こんなものでしょうか、多分見ているとおりで最初は混乱もありましたが今では生活に馴染んでるぐらいですよ。私にも影響はありませんでしたし……」
「そうか……ではやはり住人の仕業か……そう言えばマキナとトールからずっと向こうで暮らすと聞いていたのだが何の用かね?」
そう言われてカゴはハッとした。
何のためにここに訪ねたのか今の今まですっかり抜け落ちていたからだ。
「言われるまですっかり忘れていました……あ、あのですね……主様だと笑いそうなんですが……」
「ん?何かね」
「じ、実は……こんな噂が」
笑われるのは恥ずかしいが背に腹は変えられない、意を決して打ち明けることにした。
「噂?」
「わ、私お化けが何故か根源から苦手なんですが……城に角の生えたお化けがいるらしくて……主様がそういうの存在させたのかと思って今日それだけを聞きに……」
「お、お前……」
あぁやはり笑われてしまう、こんなことをわざわざ聞きに行く時点で覚悟はしていたが恥ずかしいものは恥ずかしい。
カゴが目を伏せる。
「……本当か?」
「は、恥ずかしながら……」
「いや、そうではない、その噂は本当か?!良くやった!後でなにかやろう。好きにしていいぞ……あぁ本当に良くやった!」
「は、はい?」
……なぜか笑われるどころか感謝された。
今日の主様はなにか変だ、私の恥ずかしがるような点で笑うどころか感謝してくる、全く理由がわからない……が直ぐに理由が分かった。
「……なるほどな……城の配置直後だから中には誰もいないと思ったが……カゴ、結論から言うがその不気味な存在はお化け何かではなく人だ。確かに城の中に何かがいる。ただこれは私の配置したものではない。」
城の内部を眺めながら主様が口を開いた。
「えっとつまり……?」
「とんでもなく強いか、私の管轄外から来たかは分からないが奇妙な存在だってことだ、カゴも近づかない方がいいぞ。……疑問はこれで晴れたかな?」
そう言いながら手元のコーヒーを飲みほした。
「え、えぇ……なんだか突然来たのにこんなにあっさり話を聞いてくれるなんて思ってなかったんですが…」
「まぁそれはこちらにも必要な話があったからね……あぁそれとこの件が終わったら世界樹の方を見に行くから暫く世界の観察は簡単なものになる。何か異変があったら遠慮なく来てくれ。」
「は、はい。じゃあ今回は主様ありがとうございました。」
◇
カゴが帰ったあと城の内部の映像を眺める男とアウラ、男が何かこの存在について知ってるのではないかと思って呼んだのである。
「しかし面白いこのになったのう……敵意がなければ是非とも世界に欲しい種族じゃのう………」
「いいんですか?私の世界ならともかく神様の世界だとそれこそ人間消えますよ?」
「今の技術力ならこれぐらい科学の内とか言い出して真似始めるじゃろ、滅びると思って導入しようとは思わぬ。」
二人が眺めている奇妙な存在、【魔王】と【勇者】……男の世界にはまだ存在していないはずの存在と肩書だ。
疑問点は多々ある。
まず二人がどうみても共生している、男のいた世界での創作や記憶ではまず宿敵同士ではなかったか。
次に明らかにこの世界の基準から見て強い、本来と同じようにたたかえているわけではなさそうたが少なくとも数日はあの城の奥で生活している、配置した的は世界に厄災が起こせるような強い奴らのはずだが……
「……なんというか共生していたり変な2人ですね。」
「ところで君はこれをどうするかのう?……異物故に消し去ってもなんら問題は無いのじゃぞ?……ここで言うのはあれだが私は何度か消した。」
あれは世界の異物、そう言われて男は考える。
確かにアウラの言う通り世界に本来あるべきではない存在である、世界の運営に関わるから消して当然かもしれない。
しかし【魔王】のような存在は後々必要になるだろうと男は考えていた、世界を敵にする存在は世界にある程度の連携をもたらしてくれるからだ。
それに自分の手の一切かかっていない存在に興味が湧いた、どのような存在か話もしてみたいと。
「そうですね……消してもいいのですが……計画が早まっただけとして少し観察しようかと。ついでに興味が湧きました、これに関しては……神様もどうでしょう?」
「ほう……消さぬか。己の夢の邪魔と排除すると思ったんだがのう。興味は私もあるぞ、付き合おうではないか。で、消さないとすればどうするのじゃ?」
「とりあえず彼らが世界壊しますとか言わないかの確認も含めて城に食料とか混ぜつつ生体観察ですかね。城に居ついてくれているのは幸いです。あれが籠として使えるなんて思ってもいませんでしたよ。……あぁもしものために言語や生存方法はこちらの世界に適応させておきましょう。その方が活殺も自在ですから。」
――こうして男の【魔王】スカウトに向けて奇妙な【魔王】と【勇者】の観察が始まった。