利用価値
その後、かなりの間木の根の監視を続けつつ異変がほかにも起きないか目を光らせていたのだが一向に変化がない。
「……やはりこれは世界でだれかとんでもない魔法でも開発したと考えるべきだろうか……さすがにこうも気を張っていると疲れてくるな……」
男もさすがに精神が参ってきた、普段の観察はいうなれば子供の成長を見守るようなものだ。
子供が怪我や病気をするのは確かに不安だが何より成長を楽しむことができる、しかし今は例えるなら戦争真っ只中で暮らしているような感覚である。
次の瞬間どこかが爆ぜる可能性だってないわけではない。
「おとーさん、やっぱりマキナやトールがまた世界に降りてみてくるのが……」
「いやそれは神様が言っていたとおりやめた方がいい、可能性が消えるまでは警戒するに越したことはないからな、何よりマキナを失いたくはない。」
「んー……わかったわ」
実際に現物を見れば百聞は一見に如かずという通り多くの情報が得られる……が一方で世界の理に影響される、つまり相手の介入の影響を受けるのでやめておけとアウラにくぎを刺された。
警戒しすぎとも取れるが誰かを失うのは創造主になっても恐ろしい。
一方、世界の方も脅威ではないとみなし始めると利用使用と考え始める、これは逆に興味深い出来事でこの世界の人間がどのように対応していくのか見ていくのがここ最近の癒しとなっているのであった――
◇
「いやぁー、あの後世界滅んじゃうとかみんな叫んでたのが嘘だったみたいに平和ですねぇ……」
「カゴちゃん……さすがにいくらなんでも平和ボケじゃねえかとわしは思うぞ……」
「そうはいっても何もなかったじゃないですかー。私はそもそも鍛冶の神ってことになってるんであんなのには何もできないですしねぇ。」
……と呑気に工房の前で木の根の方を向きながら話しているのはカゴと工房の【鍛冶師】だ。
木の根が出現した当時は城が前日に現れたのもあり国では異世界からの侵略説だの世界の終わりだの騒がれたものだが今では風景の一部と化していた、さらに聞くところによれば木の根から鉱物がとれるだのなんだので一部で大盛り上がりらしい。
「そういえば師匠?鉱物がとれるらしいって話ですけど師匠は気にならないんですか?」
「……だからカゴちゃんは弟子じゃないんだから師匠はやめてくれ……俺だって師匠ってみんなが言うがちゃんとレイリーって名前がだな……それに鉱物は依頼するときに持ってくるように頼んでるからな、それでも追加で必要な分は【商人】から買ってる。気にするとしたらオリハルコンみたいなレアものが出るって話じゃねえと……実際に生えてるのは見たことがないからな」
そう笑い半分に答えているが【鍛冶師】、もといレイリーの言う通りである。
【鍛冶師】の中で自分から採掘に行くのはごく少数でそれこそさすらいの鍛冶職人なんて呼ばれるような人々でなければしない、基本的に【鉱夫】が掘って【商人】がそれを買い、【鍛冶師】たちの工房に売るのだ、さらに言えば稀に市場に出回らないのを自分から取りに行くこともあるが最近ではそういうのは【ギルド】に依頼を出すのが主流となっている、餅は餅屋、専門の人々がこなした方がリスクもないし効率もいい、というわけだ。
「そうだな……しいて言えばこの工房もあの木の根のおかげで儲かってるぞ?」
「え?そうなんですか?」
「木の根ができたおかげで多少難しくてもあれを頼りに城まで行けるようになった。おかげで【冒険者】がみんなあそこの城に挑むようになったらしくてな、見えるところにある近場のここはその行きや帰りに立ち寄って修理や製作を依頼するってわけだ。おかげでうちにも客が増えた。木の根様様ってわけだな。」
カゴにも最近やけに工房に客足が増えていることはわかっていた、元々それなりに客の【冒険者】はいたのだが最近ほかの国からも訪れてくる客が増えているのだ。
そもそもこの工房はカゴが【加護】をつける条件を満たすような品を作ることができる技術を持っている【鍛冶師】がレイリー含めて何人かいる。
さらにカゴがいるのでそれに【加護】を付けた品まで売ることが現状可能である……要するにこの工房の経営状況はかなり良く、欲しい鉱物があった時に依頼を出せないほど経済難でもなければ商人が多少高値で交渉してきても問題なく購入することができるのだ。
それもあってレイリーは別に鉱山が新しく増えたぐらいでは気にしないというわけであった。
「……そういやカゴちゃん、あの城に住人がいたって噂聞いたか?」
「ひえっ、な、なんですかそれ……さ、さすがに嘘かなにかに見間違えたんじゃないですかね……いやですよお化けなんて。」
「客のうち何人かがなんか探検してない人を見たっていうだよなぁ……頭に角生えてたとかいうし気になるんだがなぁ……」
「や、やめてください!私本気で泣きますよ!」
レイリーはカゴが泣き出しそうなのでここで話はやめておくことにした、こんな苦手なものがあったとはつくづく神様の一人とは思えない娘であるが……
「なぁなぁ、カゴちゃん一回帰って確かめてくればいいんじゃねえか?そういう人なんだろう?」
「…………あ”。その手がありました……」
「えぇ……」
余りにも強引な手段である、一度創造主のもとに帰ってそのことを聞けばいいのだ。
そうと決まれば話は早い、質問1つのために帰るのは変な話だが確実に答えがわかるではないか。
「えっと……じゃぁちょっと……いってきます?」
「お、おう……夕飯までには戻ってくるんだぞ。かぁちゃんが心配しておっかなくなるからな。」
「はい、そのつもりです。ごはんは大事ですよ。」
……まさかこれが思いもよらぬ救済になるとは本人は思いもしなかったのであった。