○年○日、今日は世界を滅ぼしました
某年 科学の繁華を極めた人類は宇宙を飛び交い、星に都市が溢れている。
ある科学者は抱えてきた宇宙規模の問題を「新しく世界を作る」ことで解決しようとした、とある男によるその世界をつくる研究は人類を挙げて推し進められ、数十年と時を経て理論が完成し、遂に実行に移すその時が来た。
男がプロジェクトの開始を宣言する。
この男こそがその計画の立案者である、立案時こそ若者であったが今ではもう参加者の中でも最年長の一人になってしまった。
カウントダウンが迫る、人生を賭けた研究がついになされる、いよいよだという期待を胸に装置に電源を入れる、機械が徐々に動き出す、遂に人類は世界を作り出し…たはずであった。
装置から光があふれだす。
視界が白く染まり、周囲が光に包まれ始める。なんということだ、こんなことはこれまで無かった。
男はあぁそうか死ぬのかと思った。
人類すべての希望を背負った実験は失敗し私は死んでしまうのかと。
そもそも私はどこかで間違いがあったのかと考えた、電源は確かにいれたはずだ。
試験自体は何度も行っていた、整備も怠ってはいなかった、人的ミスもありうるがそこまで行くといくらでも挙げられる。
……あぁなんということだ、ここまできてすべてを水の泡にしたうえにここで我が人生も終わりなのだろう。
しかし何か違和感がある、先程までマスコミが延々とシャッターを切り、世界中の学者が見守る中、オペレーティングルームにいたはずなのだ、しかし一切の人影がないではないか。
光によって見えないのかと最初は思っていたがどうやらそうではないらしい。
別の場所と考えるのが自然だろう。
「*****」
ふと音が聞こえ他方に振り向くと人のような形をしたモノが立っている。
二足歩行のようだが明らかに人類とはバランスがおかしい、立体感すらなく気味悪ささえ感じられる。
色も定まっておらず何色とも言い難い。
「*****」
何かを話しているのか音を発しているようなのは感じられるが言語なのかすら分からない。
「*** **」
ふとモノはなにかに気がついたような素振りを見せた。
「***」
「この言語でいいだろうか」
急に理解できる言語が聞こえてきた、いや音が吹き替えのように入れ替わった。
「私の作品を超えてきた初めての生物、いや、人間よ、心からの祝福を送ろう」
姿もみるみるうちに変わる。
人の姿である、大体20代ぐらいの若者の形をしているが顔立ちからは性別の区別もつかない。
声もどちらとも取れる声だ。
余りの出来事に恐怖を覚える。
「そう恐れることは無い、君は私の目的を最初に遂げたその世界の生物だ。誇りに思ってもいい」
「失礼ながら、君は誰でここはどこなのだ、そもそも何がどうなっている」
「なるほど、確かにそれを説明して君が落ち着くなら必要であろう、端的に言うと 君は世界を終わらせ
た。別に悪いことではないが事実終わらせたということになる」
言葉を失った、そこにいる人はなんと言った?世界を終わらせた?私が?私が全てを終わらせたと?
「君はこの瞬間に置いてその世界で最も作品、世界の外側に近づいた生物だ」
「待ってくれ、世界を私が終わらせたというのか、ふざけるのも大概に……」
「僕がこの作品に与えた目的は作品の内側からこちら側に生物をこさせる事だ、それが完了したために作品は役目を終えた、と言えばわかるんじゃないだろうか?」
明らかに私のことを見知ったように言う、やけになれなれしい、しかし言ってる内容は把握すら出来ない、いやしたくないのかもしれない、してしまったら自分の手で世界を終わらせたということだ。
この目の前のモノが言うことが正しければ要するに全人類は私の目的の達成とともに絶滅、人類に限らずまだであってもいないが世界に存在したすべてを滅ぼしたということだ。
急に恐怖にかられた、当然である、自分の研究はしらずに世界を滅ぼす研究であったということだ。
「そういう感情を抱くか、確かに盲点であった、では本題に入る前にその意識を和らげてみせよう」
モノは察したかのようにそう言うとどこからか一つの光のようだが見た目だけで見てると吸い込まれそうなものを取り出して半分笑いながら
「要するに君は世界を滅ぼしていなければ落ち着いてくれるのだろう」
光球が黒く、所々に赤や白、黄色などを抱いて輝く、例えるから宇宙のようになった
何があったのかわからないが何かしたようだ。
「これで君のその悩みは叶えられた、ここにこれまでの全てがある」
「一体何をしたのだ、それまで通りなら私は」
「君以外のすべてを元に戻した。君の存在は別のものに置き換えられ、君の最後の実験は成功に終わる。正確には疑似的に世界を増やした」
それは意味のわからないことを言い出した、自分の代わりの存在を用意した?世界を増やした?何を言っているのかはわからないが元に戻ったということだと思っておこう。
ここまでの所業を疑うすべがなく神の所業といわれても信じるしかなかった。
◇
「それでは本題だ、君には最初にここに来た生物として君にも世界を作ってもらう、理解をする必要はない、確定したことである。加えて言えば君は戻れることは無い」
戻ることはないと聞いて唖然としたが今更である。浮かんだ疑問を尋ねてみる。
「……あなたは創造神か何か」
「実際には違うが君の世界から見ればその見解で正しい、そして次は君もそうなるのだ、ある目的を定め自由に作るのだ」
自由という言葉に反応した、自由に、自由に世界を作れると、これまで世界を解明する事だけを突き詰めてきたが今度は解明させる方になると。目の前のモノが嘘ではないとは思いにくいが確認のしようもない。それに世界に戻れないと言われたが世界に未練があるかと言われれば今の実験ぐらいだ、それが成せないのなら未練はない。
「今までの言葉に嘘はないんだな……?」
「ない、後で証明もして見せよう」
「目的さえあれば自由なのか」
「目的さえあれば目的との関係性は問わない、ただ目的を成し遂げにくくなるだけでそれは作る側の責任
だ」
今更どうとでもなるまいし、自由に作れるというのは面白そうである、目的さえ分からないが乗ってみることにした。
◇
モノは振り返り付いてこいと言うので、暫く進んでいくとこれまで白い空間だったはずが突然色が変わった。
「何かを最初に無から作ったりすることだけはここでなくてはならない、後は想像すればいい、その通りにものが増える、途中でいじることも出来るが作ったものに割り込ませるから何かしらの影響があることは忘れてはならない、最悪世界を自滅させる」
「自滅させると?」
「君たちの世界でいえばこれまでの膨大な時が無に帰すと思えばいい、それだけだ、何かしらの不幸もないだろう、まずは作品に与える目的を考えよ、そこからだ」
目的、男は考える。
別に自分が夢を成し遂げる訳では無い、要するに実験で欲しい結果を考えろということだ。
世界を作ることを目的としてたのもあり、なかなか思いつきにくいものである。
「目的とは言うが大層なものでなくてもいい、むしろ試す種類が欲しいのだ」
恐らく助け舟だったのだろう、大層なものでなくてもいいと言われ気楽に考えてみようとする。
「亜人…」
ふと子供の頃の夢を思い出した、読んだ漫画や小説や映像に感化されて夢を見ていた頃のものだ。人と同じように振る舞うロボットなんかは男の頃には存在した。
しかしそういえばそういうものは実現しなかった、いやさせなかったな、と
「……同じような知能と文化レベルを持った様々な人型を反映させ世界を越えようとするかを試したい」
前半なんかはそのままだが後半は自分の世界に付けられた目的を模してみた、所謂建前だ。
単純に超えさせなければ好き勝手に出来るのでそのための条件とも言える。
「……何をしようとするかは深くは聞かない、それが一応の約束だ、君も同じ存在に出会うだろう、その時は覚えておいて欲しい」
察したように苦笑いしながらものは呟く、しかし小さく作品は間違ってなかったとつぶやくのが見えたが見て見ぬふりをした。
「君の文化でいう呪文みたいなことはしない、思いを馳せればここでなら世界が作られる、やってみて欲しい」
「こうか……?……おお」
先程もみた光球が目の前に現れる
「特に教えることは無いはずだ、本当に全てを作るといえば分かるだろう、まずい事があればその都度呼ぶことにしよう。では次は……」
◇
しばらくたって物事の足し方、法則の生み出し方、おき方を教わっていく、だんだんと余裕の出てきた男はふとあることに気が付いた。
(なんというか段々人らしくなっているような)
男は思った、出会った最初より明らかに仕草が人であった。
「君の記憶から人を写した、この方が会話しやすいだろう?本来とは違う姿だが話しやすい方が断然いい。それに久々に会話をするんだ、少しの遊び心だとでも思ってほしい」
完全にお見通しのようである。
……不思議とこちらも話しやすくなっていったのは気のせいではなかったようだあまりにも馴れ馴れしくなったとも思ったが特に問題にもならないようだ。
「あとはその中で自由に過ごしながら観察するもよし、ここから眺めて見守るもよしだ、君の実験を新たな創造神の1柱として期待する」
そう言って視界が白く再び染まる―― 一瞬であった。
◇
先ほどのモノ、いやほぼ人となった"私の世界の創造神"もいない、違いは目の前の光球ぐらいか。
光球を見つめでも何も無い、そもそもどこから考えろというのか。
「全て、ねぇ……」
流石に立ちっぱなしで考えたくはないなと男はふと自分のいた研究室を思い浮かべた、あぁあの椅子で考えられたらなんと便利なことか。とその時である。
周囲の色がわずかに変わったと思えばだんだんと形を成していくではないか見る見るうちに周囲が思い浮かべた研究室に変わったではないか、恐る恐る確かめてみれば確かにいなれた研究室である。
しかし想像した範囲はあくまで部屋だったためだろうか、ドアの部分は開いても外は先ほどの白い空間であるし、おいてある本や論文だったものも読んでみても記憶が覚えてる限りしか乗っていない、よく見ればページ数すらとびとびだ。
要するに記憶に忠実ということだろうか、などと疑問はきりがないがとりあえず男は座って考える場所を得たのだ。
「まずは何を世界に与えようか……」
作られた研究室の椅子に座りながら男は考えるのであった――