ポーン
◆Side創造主
「しかしこちらも揃えなくてはならないのか……?」
「住人から戦力を、でございますか?」
場所は未だに研究室。
二人はマキナの目覚めを待ちながら策を考える。
「ああ、向こうがこちらにそのようにして攻めるならこちらも同じようなものをぶつけないと数が足りなくなるだろう?」
「数人の【守護者】に任せれば一対一では無いのですから足りるのでは?」
「いや、それは……」
確かに【守護者】を投入すれば片付くかもしれない。
相手はどんなに強かろうとあくまで住人の一人に過ぎない。
アウラから例え如何なる道具を与えられていようと本体は脆いものだ。
アイヴィスあたりを投入すれば事足りる可能性もある。
しかしあのアウラの事だ。
与えている道具も検討がつかなければ、向こうも住人に混ぜて何か恐ろしいものを投入してくるのではないか。
幸い住人であればいくら世界の理を変えようと思ったところで成功することは無い。
どんなに存在をねじ曲げたり断ち切ったり保護するような道具や装備があろうと権限だけは彼ら自身には変えられないのだ。
一息あいだを開けて用意するべき、とたどり着く。
「……少なくともあって損する物ではないか」
「ええ、用意こそ必要ですが我々も持つべきかと」
「しかしどうやって用意するんだ?あの神様のようにしても上手くいくようには……」
アウラがあのように人の姿で力を使っても何一つ詰まることなく女神、あるいは創造主のような扱いを世界に通せるのはアウラの姿自体が人を寄せるものとして働くからだ。
案外神様という認識の中身はビジュアルによる部分が多い。
アウラはそれこそ女神としてあるべき容姿や風格を作り自己として纏うことが出来ているのだ。
大して男はどうか、と言われるとアウラのように好き勝手に容姿をいじっている訳では無いのでただのパッとしない老人と言うには少し早いオジサンのような見た目だ。
髭の一つでも蓄え、どっしりとした老人のほうが神らしいかも知れないがそれにすらならない。
他にも色々と要素はあるが尽く男はそれを満たせていないのだ。
「……申し訳ありませんが創造主様が直接出ても能力者程度にしか……」
「私が出ていったところでなあ……あー……」
丁度視界に入ったのは新しい部屋で眠っているマキナだ。
彼女は女神と言っても申し分ないポテンシャルと容姿を弄っても自他ともに問題が少ない。
マキナを見ながらそんな算段を踏んでいるとトールがようやく意図を掴んだようだ。
「……?あぁ、なるほどマキナ様ですか」
「私よりはるかに適任じゃないか?」
「確かにそうでございましょうね」
「……よいしょっと……」
席を立ち、眠るマキナの元へと向かう。
随分落ち着いたようで、気を失った時の顔からはるかに気持ちよさそうな寝顔を見せている。
「……さすがに起こすのはまだいいか」
「急ぎではないのですか?」
「……ほかにやれることもあるだろう。それでも起きなかったら起こすさ」
軽く彼女の頭をなでると、一瞬身を捩ったがそのまますやすやと眠りに戻っていく。
眠りに価値が本来存在しない【守護者】でもこの様な顔をするのだな、と不意に思ってしまう。
しかしそれとは別に今やれること、と言った手前なにかやらねばならない。
それは別に向こうの世界から押し寄せたときの住人同士の戦いを止めるもの、あるいは被害を双方抑えるものを考えるのでもいい。
そんな最中だった。
トールが突然管理している光球と投影した画面を見始める。
何度も画面と光球を往復する視線からはなにやら問題が起きたように見えた。
「創造主様、事態が変わりました。マキナ様を起こしてください。すぐに復元を行います」
「何があった?」
「再び干渉がありました、今回はアウラ様によるものではありません」
「……仕方ない、マキナ?悪いがそろそろ起きてくれないか」
渋々マキナを軽く触れて起こそうと試みる。
始めこそ最初と同じように身を捩るだけでそのまま眠っていたがゆさぶり始めれば寝始めが気を失うかのようだったのがやはり嘘のように嫌そうに目を擦りながら体を起こした。
「んん……おとーさん?あ、アウラ様は?」
「ひと段落ついたから大丈夫だ。身体の調子はどうだ?これまでと何も変わらないか?」
どうみても寝ぼけまなこだがマキナは腕を回してみたり軽く世界のスキャンをしながら権限を確かめてみたりとそれとなく身体の様子を確かめる。
「……戻ってきたってことは一先ず大丈夫なのですね」
「それがそうともいかないらしくてな……それで起こさせてもらったバックアップと照らし合わせて巻き戻してくれ」
「?わ、わかりました……」
上半身だけ起こした姿勢のままマキナが目を瞑った。
「……だれかが戻したりいじったり繰り返してる……?」
そして一言、こうこぼした。
だれがどう弄っているのかまでは男にはわからなかったが少なくとも書き換えられていることを感じるのはたやすいほどに大規模な改変が男以外の手で始まったのだ。