アウル・オーラの名の元に
「「アウル・オーラの名の元に!」」
「――!」
しばらくすると歓声の方向が変わった。
明らかに司教中心だった盛り上がりの歓声は広場の向こう側へと向けられている。
突然映像が揺らぎ慌てた様子で広場から離れていく。
映像は路地の裏に入り、音だけに切り替わった。
「……ん?」
程なくしてその理由を把握するところとなった。
「アウル・オーラ様!アウル・オーラ様がおいでになったぞ!」
「アウル・オーラ様万歳!」
「「万歳!」」
この音声だけで男は驚いた。
つまり音からするにアウラは人々の目の前に神であると宣言した上で存在しているのだ。
宗教像としてイメージさせた訳でも神話上の人物として名を割り込ませた訳でもない。
次第に声が近くなってくる。
「はて、お主はなにか困っておるのか?」
「家の人の目が此度の戦争で……これでは仕事に戻る事が……」
「おうおう、それは災難じゃったな……腕も無くなったんじゃな?まぁ良い、ちょっとじっとしとれ……」
「……う、腕が!腕が戻ってきた!目も見える!」
そんな感じの会話が次から次へと聞こえてくる。
不作だの戦火で土が悪化しただの何だの、果ては死んだ人を生き返らせてくれ、呪いを解いてくれ……そうと来れば今度は盗まれたものを取り返してくれだの、軽い風邪だの最早関係無いものまで聞こえる。
そして、その全てを叶えているアウラの声も共に聞こえてきていた。
「……どうもこれは世界に全能だと認識植え付けていますね」
「アウラという神は全能である……か」
確かに世界一つの住人が総じてほぼ似た様な印象を持てばそれだけで存在を定義するのには足りうるだろうし、恐らくあの時彼女自身で本を消し去ったのはそのためだ。
世界一つを完全に手中に収めている今ならそういった認識を書き換えられる心配も薄い、なおのことアウラには使える手段だった訳だ。
暫く聞いてると違う質の声が入ってきた。
「何してるんやえ?」
「何って、えぇ?!不味いですよ!見つかったら……」
アイヴィスだ。
隠れる気もさらさら感じられない様子でこちらに近づいてくる。
「見つかるも何も世界に来た時点でバレてるんやえ。踊らされてるんやぇ」
「え?」
「うちらは外から入ってきたんやから当然やえ?ほら、それよりも……」
そう言ってアイヴィスの指さす方向へ視線が動く。
その先にはアウラが人々に制限することなく力を行使している様があるだけだ。
「……ん?どういう……」
「忘れたんやえ?状況をまとめて帰るんやえ。堂々としてても長居できるような場所じゃないやえ」
「あぁ、なるほど」
ふいに瞬間映像が無いにも関わらず揺らいだ。
アウラの妨害などではないらしく、トールがこれを見て口を挟んだ。
「恐らく創造主様がこの時に更新を行ったのでしょう。私も同じようになりましたから」
「そうか。いや、何も起きないと思っていた。者によっては邪魔をしたな」
「直ぐに戻りましたから影響は軽微でしょう」
言い終わるかどうかで映像は戻り、先程のように歓声が入ってきている。
加えて映像も再び戻った。
「ん?なにか増えましたね」
「やえ?んー……へぇ……そんなんがあるんやぇ」
反応は様々だがトールの言う通り更新が適応されたようだ。
あとはそのままマキナがこちらへ来て更に彼らを回収するところまで行けば私が経験した事が起きるわけだ。
何も無いかと思い最後の部分は先程とは違い特に意識を払わずにぼんやり眺めていた。
しかしそれでも一瞬不意に背筋凍りついた。
「ちょっと待て……ここか?」
「如何されましたか?急に顔が変わりましたが……」
そのシーンをゆっくりと巻き戻して探し出す。
そのシーンは何も無いシーンだ、二人が話を続けているだけ。
しかし他のシーンと違い確実に違和感がある。
「この瞬間がどうかされましたか?」
「トール、お前はこの画面から感じることはないか?」
「……確かに違和感はありますが……創造主様が恐らく抱いている程では……」
「ふむ?……私だけか……?」
画面の隅々まで見渡し元凶を探す。
しかしいくら探せどその元凶は見当たらない。
シーンが違うのかと思い数フレームだけ次へと送り、再び同じように探してみる。
これを五回か六回繰り返した当たりでその原因を突き止めた。
「……これか」
「これはまた……」
瞬間アウラが映り込んでいたのだ。
よく考えればそれ以外の原因も浮かばないものだが……何が恐ろしいと言われれば見れば見るほど確実にこちらを捉えているその目だ。
明らかに獲物か何かを見つけた捕食者の目そのものである。
この後にマキナが回収に現れた終わりまでの時間から逆算すると恐らくマキナがここを脱したタイミングだ。
その後のアウラの様子を見える限り追ってみたが、明らかにそれを受けて目付きを変えてなにやら住人に語りかけている様子のみしか映っておらず、更にはマキナの声も加わり内容はまるで聞き取れなかった。