条件
何が出来ないのだろうか。
存在を混ぜるだけなんだろう?
「ふむ?出来ない理由を聞こうか」
「まず大抵の場合、我々の方が存在が強すぎて統合しても我々に吸われる形になってしまいます。そしてもう一つは……不確定ですが依代と同じようになれるか、でしょうか?」
「何で疑問形なんだ?」
「合わせる時綺麗に波長が揃ったんですよ、勝手にです」
そう言って補足を求めるようにアイヴィスの方へ向く。
その際、アイヴィスは元の格好になってもある程度自在に姿を戻せるようで、胸元の周りだけ装甲化して灯火を出していた。
「んー?確かにそうやえ、存在を重ねた時には全く同じ『アイヴィス』になれたやえ」
「今はどうなんだ?」
「今は……ここだけ一緒やえ」
そう言って胸元にある灯火の根本の機関をつかんで何やらいじると灯火の強さの加減が変わっていた。
さながらガスバーナーの様である。
「その炎がアイヴィスの核なのか?」
「これは私じゃない方の核やえ。今の私は接木の枝みたいなもんやえ……まぁ接木と言うんにはちょっち枝が育ちすぎかもしれないやえ」
そう言いながら自らを育ちすぎの枝に例えたことを恥ずかしそうに誤魔化す。
確かに【守護者】と住人が生み出した物を比べれば遥かに育ちすぎ、と言うのは分かるが……
「……まぁ何だ、その移譲なり統合なりはこちらとしては是非活用したい。君はこの後ジュノーの方へ連れていかせてもらう。この件は私からトールに伝えておく。それにそろそろここは一度取り壊すから元の役目に戻ってくれたまえ」
「わかったやえ」
「……では、先に失礼します」
ミノスは一礼するとそのまま元の世界へと消えていく。
アイヴィスはこちらの背側に寄ってくるとすましたようにして指示を待っていた。
「……まぁ君も付いてこれるだろう?」
そう言って一歩踏み出す。
この世界が隅から音を立てて崩れ始めた。
数歩も進めばもうそこからの音も光も届かない。
唯一聞こえるのは後ろからついてくるアイヴィスの足音ぐらいだ。
そのまま白い空間をぼちぼち歩いていくと視界が開けてくる。
目的の彼女はモニターを出したまま中身はそっちのけで伸び伸びと舞っていた。
何も言わずともこちらに気がつく。
「おや?また随分と面白い……いや、それにしてもボロボロだね?」
「……一戦交えてきたんだよ」
そう言われると「ふーん……」と目を細めて二人の何かを見透かすようにして上から下へと視線が動いている。
「成程、ね……で、僕に何の用かな。大方その後ろの彼女についてだろうけど」
「話が早くて助かる。その通りだ。彼女のこの仕様と注意点、他の【守護者】にすぐに転用出来るか聞かせて欲しい」
「ん?さっきそれについての会話を覗いたんだけど?別に誰も嘘はついていないよ。誰もね」
悪びれることすらなく、さも当然のように聞いてたことを漏らす。
些か、覗いていたという点には話が別にあるが……それよりも今はこちらの話について情報が欲しい。
「……で、結論から聞くが無理、ということかね」
「まぁそうだね、元からそのつもりで用意してないからそもそも前提環境がここでは悪くて厳しい、ついでに言えば既にそこでくっついてる彼女も……」
後ろでそれとなく話を聞き流しているアイヴィスの方へと覗き込むように顔を向けた。
「ん?なんやえ?」
「いや、君の話さ。試しにここで鎧つけてごらん」
「ん?やえ?」
アイヴィスはジュノーの提案の意図が掴めず不思議な顔をしながら先程のように船体を纏おうとしたのだが……
「ん?……どうした?」
「おかしいやえ……上手くいかないんやぇ」
どうも何度やっても灯火を中心にして大体胸元までしか鎧が纏えていないのだ。
それをジュノーは「あぁやっぱりね」と言う。
「いいかい?君はいまこの世界に既に存在するものから存在を借りている状態だ……要するに今そこで本体の存在を借りようにもすでにこの世界に存在している本体はどうにもならないから君はいま存在を纏うのは無理って訳」
残念そうな顔をするアイヴィス。
おそらく本体にした船と共に戦えないことを悔しがっているのだろう。
「……じゃあうちはここでは戦えないんやぇ?」
「まぁそういうことだね。本体が存在しない世界なら問題なく使えるよ、まぁ主は存在をなにかに預けるなり統合するなりで保護することだから、おまけ程度と考えればいいよ」
思わず「おまけ……」と、こぼしてしまう。
先程のアウラへの効果といい、このアイヴィスの改変への対応力といい格段に上がっていた。
それがおまけとは苦し紛れにも考えられない。
「ん?何か間違えたことでも僕は言ったかな」
「あぁいや、到底おまけとは思えない感じがあったんでな……」
「いやいやそんなわけ……」
まさか、と言いながらモニターに視線を落とす、戦闘の様子を見にいったのだろう。
暫くすると突然腹を抱えて笑い始めた。
「あっはっはっ!な、なるほどね?ははっ……!」
もやは息も絶え絶えで笑われたことへの不快を超えて心配になる。
彼女が落ち着くまで少々時を要したのは言うまでもない。