知られる訳には
男は先にマキナとコンタクトをとり、その後に本を持ち出すのは何があるかわからないのから、と写しを作ることにした。
「しかしこれはどこに置いたものか……」
あまりにも元々置いてあった床に置くのは忍びない。
本を閉じてどこかいい場所はないかと辺りを見回す。
しかし装飾も多いせいでなかなか置けそうな場所はない。
「そう言えばこの部屋の外なら空きがあったな」
何気なく本を片付ける感覚だ。
そう決めると本を抱え、マキナの物へと近寄る。
情報を書き足して知恵を与え、連絡を取ろうとする。
ここへの着方を書けばマキナなら帰ってこれるだろう。
本の最後のページを開いて紙と情報を創造して書き加える。
「あとはマキナ次第か……」
暫くすると宙が綺麗に裂けて口を開け、その中から驚いた様子でマキナが目の間に現れた。
「おとーさん!消さなくて良かった……」
「ん?それはどういう……」
「世界が弄られたから巻き戻して消してしまおうとしたの。そしたら丁度そのタイミングで……」
下手すれば無に放り込まれてたわけか、考えるだけで悪寒が走る。
「トールが並行して連絡を取ろうとしていたはずだがそれは来ていたか?」
「あー……ちょっと待ってて、連れてきてもいいんでしょ?」
「ああ、構わんよ」
そういってクルリと振り向いて頭の上から足元にかけてナイフを振り下ろすように指をなぞらせる。
それに合わせて空間がさけて口を開くとその中にマキナは飛び込んでいった。
マキナが飛び込むとその裂け目は綺麗に閉じ、また何事も無かったかのように元に戻る。
「……今のうちにこれを置いてくるか」
手に抱えたアウラの本を部屋の外の一番手前の棚に並べた。
不思議なことにその棚は黒く色が変わったがまぁわかりやすい変化だし世界的にも改変としても見たところ問題は無い様だった。
部屋の扉を開くのと同じ時に先程裂けた場所が開く。
どうやら連れてこれたようだ。
確かにマキナの背後に二人ほど【守護者】が見える。
「いやぁ、流石マキナ様やえ。こんな手段があるなんてなぁ?」
「私も今知りましたから……あ、おとーさん、連れてきましたわ」
「急に危険な所に放り込むなんて創造主も酷いんやぇ」
黒いドレスに身を包んだ彼女は確かアイヴィスに張り付いていた【守護者】だ、思い入れが強すぎてご丁寧に名前もアイヴィスだったか。
その後の牛頭は……なんだったか畜産でも守護させてただろうか?
いや、それにては目がしっかりしているというか……
「いや、済まない、手間をかけた。君らは世界に行けたということは実体化して魔界からゲート借りれた、と言うことかね?」
「そうやぇ、ちょっと揉めたけど何とかなったやぇ」
「……揉めた?何か問題があったのか?」
「えーっと……なんやっけ?」
そう言ってアイヴィスの向いた先には牛頭が立っていた。
突然話を振られたが聞き返す素振りはなくスルスルと補足していく。
「あちら側が当初手を貸したとしてなにか問題になるのは困るとゲートを使うのを拒んだのですが……あ、その件はトール様がなんとか話をつけて下さいましたのでこれ以上のことにはなりません」
「なるほど、分かった。片付いたならそれでいい。ところで君は……どこの【守護者】だったかな」
「……祭事を護る者でございます」
「ほう……いや済まないね。どうもトールに投げていて覚えきれていないんだ」
「……いえ、お気になさらず」
そうは言うが顔色は良くない。
しかしそれにしても奇妙な人選である。
片方は船、片方は祭事、どうも繋がりが見えないし、かと言って初対面の感じでもなさそうだ。
しかしどこかで見たような……
「君たちはなにか理由があって今回派遣されたのかね」
「んー……そうやんねぇ……うちら実体化で過ごしてる期間が長いからやぇ」
「こちらの世界は初めてでしたが右に同じです」
「互いを知っているように見えるが……」
「何時かの機会に世界を共に回ったことがありまして……その時に会っているかと……」
「あああっ!あの時のか!」
男はその言葉で封が切れたように思い出した。
確かにこの二柱は災害時にアウラと共にいた。
そうだ、あの時確かにジュノーとアウラ以外に三柱はいた。
突然溢れた記憶に笑いがこみ上げる。
「お、おとーさん?」
「あぁいや、突然済まない。あぁいや、そうかそうか……はっはっは……思い出した!あれが君か!君が一番変わったな、そうかそうか!」
「……か、変わりましたか?」
「変わったとも!あの時一番尻に敷かれていたろう?顔つきが変わったよ」
これは変化だ。
確かに彼は経験を経て多少変化している。
すべてを与えた彼らに変化はあるのか、と甚だ疑問であった。
故に【守護者】自身で発展を掴むのか、という心配は不要であることがわかった。
そんな喜びのさ中いきなり彼らの前の空間が裂けた。
「ほう?お主もこんな所を用意したか……じゃが、少々迂闊に中身をいじってしまったのう?」
声だけで最悪の相手が来てしまったことがわかる。