不幸
情報が流し込まれるのが止まった。
後頭部から彼女の手の感覚が離れていく。
「もういいよ。流した情報を好きに使うといい」
「助かる」
「過去にも何度か使ったけど、この方法は何度やっても慣れないよ」
そう言ってジュノーは一度深呼吸をする。
今度は私が更新をかける番だ。
手を広げずとも願えば世界の理に繋がる。
前の災害以来少々使い勝手は悪くなったが仕方ない。
そのまま【守護者】の記憶を書き加えていく。
暫くかかるが段々とそれは【守護者】に実装され、目の前の【守護者】も例外ではなかった。
「そうそう、いい感じ。ちゃんと入ってきてるよ。間違いもない」
気になる成否の確認は彼女の返答で事足りる。
これで各地の【守護者】は少なくとも知恵は得た。能力や意欲その他は彼ら自身の性格や環境に委ねられるだろう。
既存の者を戦力とするなら意識改革などもするべきだがこれで現状の管理体制が変わるのは良くないと思い控えた。
一呼吸おいて書き足しを終え、繋がりを断つ。
このまま一旦研究室へ戻るべきか、それともアウラ側の情報収集を試みるか。
「このまま私は一度戻るが……君は?」
「僕はこのままここで自由にしてるさ。役目は本来僕がすることじゃないものだったしね」
そう言って出会った当初のように再び情報を宙に投影して眺め始めた。
確かに彼女の本来の仕事ではないな。
「……まぁトールには伝えておく」
「頼むよ」
その場をあとにして研究室へと歩き始める。
歩いてるうちに視界が白くなりそのまま研究室の扉の前へとやってきた。
扉を開ければトールが立っており深々と頭を下げる。
「創造主様、おかえりなさいませ」
「かなり空けたな、異常は……あるんだったな」
「ええ、先に申し上げました通り。そして、創造主とは常に自由にあるものです」
「そうか……所でトール、例の神様の方の世界の状態の確認がしたい。出せるか?」
「かしこまりました」
そう言ってそのまま情報を映し出し、要点を取り出し必要情報だけを綺麗に揃えてこちらへと映像として渡す。
受け取るとさらにリアルタイムでの状況が分かるように光球には世界の様子が映し出された。
そのままトールは私の背後へと控える。
「こちらに」
「どれどれ……ふむ?」
どう作り替えられてしまったのかと身構えて蓋を開けてみればなんということだろう、作品に変更はまだもたらされていなかった。
「一見何事もないように見えるが……」
「ええ、どちらかというと【守護者】などの方が改変されまして……こちらの様に」
そう言って指で示された方を見てみるとそこには現在の【守護者】の位置が示されている。
そこそこの数が並んでいるせいで一瞬見る気を無くしかけてしまうがよく見ればそこまで細かく見る必要も無いほどにほぼ全員がこちらにいることになっていた。
「偶然……ならこうは報告しないな。追い出されたのか?」
「ええ、追い出されたまま戻れなくなったと報告が上がってきています。私も確認しましたが確かに向こう側へは入れなくなりました」
なるほど、世界間の移動を封じられたか。
しかし我々創造主と【守護者】以外に世界を移動している者がいるはずだ。
「ルルイエの方はどうした?彼らは入れているのか?」
「魔王ですか?現状普通に行き来しているようですが……」
「彼らのゲートは借りて試したのか?」
トールは藪から棒に鼻面を殴られたような顔をした。
どうやら確認してないようだ。
「……確認させてまいります」
そのままトールは何かをどこかへ飛ばす。
誰かしらがゲートを借りて試すことだろう。
「頼んだぞ。それとこの何人か向こうに残っているのはどういう事だ?」
気を取り直し質問を変える。
ほぼ全員がこちら側にいるのが示されているがまたその一方で極小数が向こうに留まっていることも示していた。
「二人は分かるのですが、あとはまだ理由は判明しておりません」
「分かっている範囲で構わん、教えてくれ」
手元の光球からさらにトールは情報を取り出した。
二人――カゴと厄災のものだ。
「この二柱でございます。どちらも……常に実体化している者ですね」
「他に残った奴らは実体化してなかったのか?」
「はい、それ故に残れた理由が分かっていないのでございます」
はて、どういうことか?
なにか共通点があったのか、それとも……アウラに選ばれたか。
「共通点の割り出しを進めてくれ、それと……最悪裏切りも視野に入れろ」
「既にその線も含め調査を進めています。仮に裏切りの場合はどう処遇しましょう?」
ここで甘い処置は不味い。
後発が出ないためにも厳格に行うべきだ。
「消しても構わん、任せる」
「……かしこまりました」
トールも暗い顔をしたが受け入れないわけが無いし、それに情に流されるとは全く思ってない。
それに【守護者】は替えがきく。
彼らより世界の方が遥かに大切だ。
「……そう言えばマキナはどうした?何か用があるとは……」
「実は……」
ついに来たかと苦い顔をして資料を指す。
そこにはあって欲しくない情報が書かれていた。