神話大戦指南
「創造主様は元いた世界の神話はご存知ですか?」
「あ、あぁ。詳しくはないが……」
「まぁ噂でもそういうのがあったと分かれば大丈夫です。細かく誰が誰なんて関係ありませんので」
その様子から少し長くなりそうだと感じたので宙に椅子を作り出してそこに座って聞くことにした。
流石に自分だけ、というのも気が引けるので彼女の分も用意したが「これに慣れてますから」と彼女が座ることは無かった。
「この話は防御の話と関係あるのでお許しください」
「学びになるなら大丈夫だ。続けてくれ」
神話などで語られる神々の戦いについてジュノーは語りだした。
やはり人格というのは記憶が育てる様で段々とその調子も戻りつつある。
「神話での神の戦いは本当にあった場合と創造主が記憶として植え付けた場合があります。そもそも住人には見せないようにやるのが主流なので見せてしまった場合は相当な惨事か何か狙いがあった場合です。何故住人に見せないようにするかはそれが防御に直結してしまう場合があるからで……」
ジュノーの話から重要部だけを取り上げるとどうやら守り方、攻め方にはそこそこの種類があるらしい。
例えば、視覚情報を辿る方法。見えるものに対しての攻撃防御手段で一番単純なものだ。
但し当然ながら見えないものには意味がない。
他にも何やら存在干渉、権限探知、物理干渉などがあるらしいが人であった男には物理干渉を把握するので精一杯の範囲であった。
やはり創造主になっても人であったことは消えないのだ。
「……難しい顔になっていますが……理解できてますか?」
「……残念ながら途中から全く。どうも言葉にはできるがそれがどういうことなのかが結局把握出来ないね。要は存在にたどり着けばいい訳では無いことだけは分かったが……」
手を横にお手上げだと示す。
投げる訳にはいかないが流石に今の話だけで把握はしきれなかった。
「存在を消すのに存在に干渉しても消えないの下りとかが特にわからない。もう少し言葉を分けて貰えないか?」
「そう言われましても……そちらの言語体系に近い意味の言葉が見当たらないので……」
「うむぅ……困ったな」
理解が難しいだけではない。
そもそも男の使う言葉にできない所が少なからずあるのだ。
説明と把握に関しては多大な時間が掛かる。
「そもそも君たちはそれを使っているわけだろう?その際にはどうやっているんだ」
「それはなんと言いますか感覚で……イメージです。あぁこれは言葉にできます、『理解するな、感じろ』というやつです。私……いや僕が作った仕様ではないから初めのうちはとりあえずどうすればどうなるかを体感して制御しましたので……」
「ふむ……」
どうにも応用させたい故に原理を知りたいのだが……
勝つためには焼き移しでは到底無理だろう。
一つ二つ捻りが無くては「何事も想定の範囲内じゃて」ぐらいになってしまう。
それではいけないのだ。
頭を抱えて悩む創造主を見ているジュノーの顔はなんとも言い難い、残念そうな顔をしていた。
「……焦っていますね」
「そりゃ焦るだろう、いきなり突き放されて滅ぼす、だ。まともな自衛手段すら把握しきれてないのに勝たなくてはならないんだぞ」
「なるほど……まぁそうですね」
暫しくるりと宙を舞い何やらどうしようかとした後、ある提案を出してきた。
「では……練習になるかは分かりませんが僕が相手になりましょうか」
「武器の使い方も分からないままどうしろと?」
「使い方を作ればいいんです。貴方は創造主でしょう?武器の使い方を学ぶ必要はありません。これがそうだと示せばいいのです」
示せばいい、と言われても……とは口に出さずとりあえずその言葉の通りに物を創造する。
剣であったり、鈍器であったり……元々老人であった彼にはとてもじゃないが向いてなさそうなものばかり作ってしまいそのまま捨てる。
「捨てるんですか?」
「いや何、こんなものを使う経験は前から無くてね……確かに創れば何でもアリだったな」
「そうです、環境すら創れば良いのです。では試しに如何ですか?」
ジュノーはどこからか剣を一振呼び出しこちらに向ける。
「さぁ最初ですから、僕はそちらが来るまでは待ちますよ。好きにやってみてください」
「そうさせてもらう。ちょっと待ってくれ……」
考え込む。
元より運動は苦手だ、創造主になっても苦手意識は抜けていない。
何より身体が変わって軽くなったとはいえ人の身であった時は老人で運動する感覚は抜け落ちた。
ならば何がいいだろう?
弓か?……いや、ダメだ。
動かなくていいとはいえ元より狙い方なんてわからないし、誘導にするぐらいならそもそも弦を引く意味がないだろう。
いや……そうか、誘導か、引き金を引くだけで勝手に誘導してくれればなおのこと素晴らしい。
誘導方法なんて武器任せでいい、私にわかるようなものでもない。
よし……まぁこれでやってみるとしよう攻撃手段は結局理解できなかったがわかる範疇まで環境の次元を落とせばいい。
「……ん。用意できたかい?また随分と……面白い物を選んだね」
「あぁ、お手柔らかに頼むよ」
どうにも忙しくて二日に一本になってしまう。何とかして日1本にできぬものか




