孫、娘になる。
「マキナ、ほしいものはあるかい?」
「ひ、一つだけ?」
どうやらなにか思っていることがあるようだ。
男としては別に一つじゃなくても叶えるつもりだったが一体なにを希望しているのだろうか。
顔をうつむけつつなにか恥ずかしそうにしている。
「別に一つに絞らなくてもいいんだが……何がほしいんだい?」
「え、えっとね……マキナは大きくなりたいの」
「そうかそうか、大きく……んん?今大きくって……?」
マキナが今大きくなりたいと言ったらしい、どこがとは言ってないが大きくなりたいらしい。
いやまて、その年齢じゃあまだ大きくなるのはどうかと思うんだ、おじいちゃん許しませんよ。
好きな人ができた?いやいやまさかそんな……いるわけがない……ないよね?
そんな男の動揺を横で見ていたアウラが腹を抱えて大笑いしている。
「い、いやいや……ふふっ、一体何を思って、ふひっ……これは、傑作だのう、笑うしかなくて……クスクス……」
「いくら神様でも酷すぎませんかね?」
「……ふぅ。ま、まぁ許してほしいのじゃ……君の勘違いの方向が面白くてついついのう。」
……勘違い?
マキナが大きくなりたいと聞き取ったが聞き間違いだったのだろうか、いやそんなことは……
「そこじゃよ、そこ。別にマキナはそっちを大きくしたいといっておるのではないんじゃよ。」
「…………?おとーさん……?何を大きくすると思ったの?」
「え、いや、その……」
まさか、胸を大きくしたいだなんて思うわけがないじゃないですか……ないよ?孫娘だもの?
しかしどう見てもアウラには初対面の時から筒抜けでよろしくない、不快ではないしこういう時にばらさないので助かりはするのだが誤魔化すということができないのは難しいものだ。
マキナが大きくなりたいと言っているのは成長的な意味だろう、要するに今の容姿じゃなにか不満があるということかもしれない。
「……ふぅ、マキナ、今の体じゃ不満ということかな?別に私に許可を取らないで組み替えていいんだよ?」
「……おとーさん、そうじゃない……」
おや、何か違ったようだ。
アウラがこっそり助け舟をだす。
「あの子、自分のこと孫じゃなくて娘のようにしてほしいのじゃよ……作ってくれた人が親じゃないのは寂しいと思うのう……要するに娘として作り変えてほしいということじゃ」
「……どうして私より人間歴の短い神様がわかるんですか……」
「そりゃ、乙女歴は私のが長いからじゃよ、何を言わせるか」
アウラが赤い顔をしているが、なにか納得がいかない。
しかし娘か……今でも十分可愛らしいんだがなぁ……娘になりたいからそれで成長したいと。
……そもそも成長は勝手にすると思い込んでいたのだがどういうことだろうか、作り出したものは成長しないのだろうか、成長を楽しめると思っていたのだが、そうだとしたら申し訳ないことをした。
「あー……なんというか育たなかったらそれはすまなかった……」
「……マキナは自分で育たなかっただけです……むー……別に胸は育つもん……」
最後に何か言っていた気がするが気のせいだ、希望通りにマキナを成長させてあげよう。
「マキナ、何か希望はあるかい?あるならそれを含めて叶えよう」
「……夢の見れる体が欲しい。あとはおとーさんの思う通りがいい。」
夢、そんなのを最後に見たのはいつだろうか、少なくともここ十数年は見ていないのではないだろうか。
夢の見れる体というのは我々から見れば睡眠の必要な体であり下位互換ともいえる。
孫娘、いや娘がそういう希望を出すとは思わなかった、何に影響されたのだろう。
「マキナ、睡眠が必要になるがいいのか、夢を見るってことはそういうことだ、それでもいいのか」
「……ん。いい。」
さて、作り変えるとは言ったがどんな娘に成長するのを想像すればいいというのか。
成長は楽しみにするものであって作るものではないと思っていたのだが、まさかこんなことになるとは……男は最初に作った時を思い出す、そんな時間は立っていないがそれでも懐かしいものだ。
「成長か……マキナ、孫から娘になりたいという我儘、確かに叶えよう。マキナは私の娘になった。」
「言葉だけ聞けばとんでもないことを言っておるのう……かわいい子が育つのは私も楽しみじゃ」
手をかざす、マキナを光が包む、創造するのはすらっとした四肢ときめ細やかな肌……まぁ胸は本人が育つとぼやいていたしそれも叶えてあげよう……マキナもかわいいほうがいいだろう……娘の体をつくる父親など聞いたことがないがこれでマキナが喜ぶなら、だ。
「ほらできたぞ……服は神様に考えてもらってくれ……父親はそういうのはわからん。私はしばらくそっちは見たくないので頼む。……気に入らなかったらマキナ自身で弄ってくれ。」
「おとーさん?どうして目を開けないの?」
……大失敗だ。
服なんて考えてなかった、今は乙女とやらのアウラにすべて任せるしかない、大丈夫、マキナは美しい乙女になったはずだ、だが今は目を開けるわけにはいかない。
「ほれほれ、マキナ、こっちじゃ、どーれ、綺麗な体じゃのう……一体どこからその記憶は出てくるのだか、とりあえずいろいろ付けてみるかのう……いいのういいのう、私もあとで作り直そうかのう……」
「むー……」
◇
「ほれ、父親よ。かわいい愛しの娘っ子がかえってきたぞ、褒めてやるのじゃ」
「…………おとーさん、ど、どうかな」
天使というのが正しいだろうか。
少し赤みの灯った頬はそのおしとやかな美少女のかわいさを際立たせる。
孫が娘になったというのはとんでもないことではあるが娘を嫁に向かせたくない父親の気持ちが今なら理解できる、我が娘を手放すわけにはいかないと思うわけだ。
細かく見ていけば、長い白銀の髪も艶やかになっていてアウラが何か手入れしたのがわかる。
「……とてもきれいだよ、私の自慢の娘だ。」
「……瞳の色も変えちゃった……こっちのが綺麗かなって」
……瞳がピンクから明らかに紅くなったのは本人がおそらく変えたのだろう。
アウラがにやにやしながら見ている。
「どうじゃ?どうじゃ?マキナはかわいくなったであろう?さすがにあまりにもかわいかったもんでな、ちょっと私の体も真似た。」
「……あぁ通りで……少し似ているなとは思ったのですが、瓜二つにはならないでくださいよ。マキナは娘ですから。」
「ちぇっ……わかっておる。」
鍛冶の娘が大惨事になっているのをすべて把握するのはこの後すぐのでことであった……
娘の気持ちを作った男より知っている男より人間歴の短い性別不明の神様ってエェ・・・