ゆきゆきて
気絶した兵士共を話の終わりにあわせて起きるように仕向ける。
「すまんな、話は終わったからの」
「お前ら、この方は以後客人として扱え。間違ってもさっきみたく刃を向けてみろ?もれなくこの世とおさらばだ」
首を刎ねるようなジェスチャーをしてゆっくりと起き上がってくる兵共に忠告する。
目覚めた兵達は気絶する前後で余りにもアウラと【厄災】――もとい龍神様の互いの様子が敵対していないことに兵同士で顔を見合わせいっぱい食わされたかのような疑問を持ち首を傾げつつ元の任へと戻っていった。
「これでいいんだろう?」
「うぬ。では私もお主の呼びを直しておこうかの、先程の兵共はお主を龍神様と言っておるようじゃしそれに沿わせておこうかのう」
「ハッ【厄災】呼びなんかよか遥かに有難い呼び名だからな。是非そうしてくれ!」
すると笑いながら受け答えする龍神に向かって近い位置にいた近衛がアウラの隣に出てきて膝をついた。
「龍神様!恐れ多くもお伺いしますが……」
「急ぎか?そうでなければ後にしろ」
「いえ、我々としては重要なことでして……この方について我々に説明を……」
「ふむ、客人では説明不足と言うか……」
よく見ればこの隣で膝をついているのは魔物の流れを汲む者であった。
人語を理解するの域を超え人語を利用し、さらには礼儀を理解、会得している様を見るに魔物の中でも上位の者だろう。
少なくともここで近衛に置かれているのを考えるに他の者の中に紛れている魔物も同様のようだ。
と、その近衛を他所にそんなことを考えていると龍神から問が飛んできた。
「……だそうだ客人よ。なんと説明するべきかここで決めねばならん」
「普通にアウラと呼んで構わんのじゃが……で、私についてか?そうじゃの。アレより上の存在じゃて」
そう言って笑いながら龍神に向かって指を指した時点で再び近衛が怒りを顕にしたが今度は龍神の睨み一つで静まった。
「そういうことだ。納得したか?」
「ハッ……た、確かに」
この近衛、まさかそんな説明が来るとは思ってもいないし先の件もありさらに言えばどうなるか……と言ったところか、そのまま下がっていった。
ちなみにアウラが躊躇いもなく上の存在であると言ったのは先の会話で龍神も【厄災】であることを明かしていると把握したからだ。
彼らの反応と『龍神』呼びからするにそれこそ造物主と思っていたようだがそれはアウラの関する所ではないしそもそもそれは住人の思い違いという訳である。
「さて、私は久々にこちらに来たでな。色々と確認してこなくてはならんのじゃ。まぁまたお主に会いに来るがお主にも体裁があるじゃろう?指定があるならそれに従ってやるから教えて欲しいんじゃが……」
「ほう、ならば案内させようじゃないか。よし、お前。先程客人との会話を遮った無礼を働いた詫びを兼ねてお前が案内しろ」
「は、はいっ!分かりました」
そう言って指を指して先程の近衛を指名した。
「他にもあればそいつを使え。この中であれば不便はないだろうからな」
「ほう、それは有難い話じゃの。ぜひ頼らせて貰おうかの」
「で、ではアウラ様、こちらへ……」
「うぬ、頼むぞ」
謁見の間とも言えた空間を近衛に連れられてあとにする。
こっそりと部屋を出た直後に緊張の糸が切れたかのように椅子で龍神が崩れるのを見てしまったが気のせいにしてやろうかの。
「本来であれば事前に申請をした上で、ということになりますが……恐らくそうはできないのですね?」
「そうじゃなぁ。別に接待は要らんからの、私が突然現れたら困るじゃろ?じゃから現れたあとあやつの所に行く道を示してくれれば良い」
「分かりましたでは、そうですね……我々の詰所ではどうでしょうか?そこならば関係者でなければ来ませんし何より龍神様に伝えに行きやすいので……」
話のしながら二人はその方へと城内を向かう。
城の中には当然様々な使用人やら役人やらがいて彼らもまた魔物由来であったり何らかの住人であったり……種族関係無しの現場がそこにはあった。
程なくして道中アウラは気になることを問いかけた。
「ところで、お主は何に仕えておる?」
「何に、と言いますと……?」
「国に仕えておるのか、人に使えておるのか、それともあの龍神に仕えておるのか?という事じゃ」
この問を聞くと歩みを止めてこちらの方へと居直した。
少々考えたあと周囲に聞き耳を立てられていないか確認するとこっそりとアウラに告げた。
「……そうですね……まず私は龍神様にですかね。魔族ですから。あと出来ればこの手の話は内密に……」
「ふむ、やはりそうか……ちなみにお主はあ奴が国に与する前から居るのかの?」
「私はあとに作られましたね。前に作られた者達は礼儀を仕込まれていないのでこのような表には……」
「ほうほう、なるほどのう。いや歩みを止めさせてすまんかったな」
再び彼らは詰所までを紹介を交えながら進んでいく。
アウラの記憶ではまだ戦中のはずだがそれにしてはきな臭さが感じられないのが違和感を覚えるのであった。