心持新たに
アウラはどこともつかない場所に降り立ち姿を人の物へと戻した。
「さて、始めるかの」
今はあの男にアウラ側と気づかれない手駒を欲している。
馬鹿正直にのうのうと単身で離反などするわけが無い、離反したその場を狙われるのがオチだ。
ならばどうするか?一つはこっそりと抜け、離れた場所で旗揚げする、二つはその場で集団を率いて離脱する。
他にも首だけすげ替えるなどあるにはあるがアウラが取れるのは前者二つだ。
それならジュノー含めアウラが作った者を、と思うがどうせ今頃は男が調べているだろう。
そもそも滅ぼすわけじゃないのだからジュノーを投入しようものなら加減をする前に世界が滅ぶ、これでは主目的を履き違えることになってしまう。
「作るわけにもいかんし……かと言って私一人で行っては学びにはならんし……なにか丁度いい奴らが……おぉ、そう言えばおったではないか」
ニヤリと笑いながらアウラはあの【厄災】の元へと向かった。
奴に手を貸すと称して利用してやろう。
次いでに改変されてないかのチェックも兼ねられるし何よりあれは攻める側からしたら使いやすいものの一つに数えられる。
アレに与していればそれの牽制にもなるじゃろて。
……と、思っていたのだが……
視界がハッキリとしてくる、そしてそこに広がったのは木々などの自然物ではなく……
「……なぜお主がここにいるんじゃ?」
目的の【厄災】は人工の建造物、それもかなり豪華に作られた建物の中で壇上の椅子に鎮座していた。
それも左右には【魔物】も住人も従えている様に見える。
明らかにこれは城であり、【厄災】はそこの主となっているようにしか思えない。
「おいおい、いきなり現れておいてなんでそんな顔をしているんだ?俺をどうかしに来たんだろう」
「別にそんなつもりは持っておらんよ、むしろ恐怖を与えるべきお前がなぜこのようになっておる」
【厄災】は以前は多少の怯えというかその場で消されないかと思っているのがチラチラと見えていたのだがそれが感じられなくなっている。
一体何が彼をこのようにしたというのだろうか。
【厄災】は椅子にふんぞり返る様に腕を組むと自慢げに話し始めた。
「どうしてこうなったかだって?ハハッ!そんなの見たまんまだ。国に手を貸して相手側に恐怖を振りまき続ける。自分はこの国のヤツらを襲わないことで他の【守護者】の野郎から押さえつけられない。おまけにここでは恐怖はないが畏怖はある。最高の抜け道を遂げたまでさ」
「ほう……若造にしては上手いことやっとるのう」
「若造は癪に障るが否定できねぇな……とりあえず褒めてもらったと受け取ろう」
少々態度は鼻につくがこれだけ考えられるなら先ほど脆弱だと思ったが撤回しても良さそうじゃの。
まぁあくまで乗っ取られる話であって此奴が自ずから始めた時は別じゃが。
「龍神様の前で何をのうのうとしている!」
「龍神様は寛大であるがそれに甘んじるとはなんたる無礼、控えろ!」
……それにしても当然とはいえ彼以外から向けられる敵意がうるさくてしょうがない。
少し黙らせるかの。
「……ところで【厄災】の。多少頭の回るお主においしいかどうかはともかく話を持ってきた。出来ればこの周りの輩をどうにかして話をせんか?」
「申し訳ないが自分の身が消されるのは御免なんでね。話をするならこのままでしてもらおう」
「……そうかそうか。そのままがご希望かの」
アウラが手を広げるとその途端に【厄災】以外の存在は起きている状態から気絶した状態へと書き換えられてしまう。
彼らはアウラのような存在を相手にすることはありえない、故に抵抗などは一切出来なかった。
崩れる近衛に【厄災】も流石に危機を覚え立ち上がり構えるがアウラはにこやかに目を細めて一言。
「なに。私は消すだけなら動かずともできると言っておったろう?ここにこの身で来たことが何よりの証明じゃよ」