もはや気楽ではいられない
資料をもってユラが帰ってくる。
アウラの顔の変化に気がついたようで不思議そうに気にしているようだった。
「アウラ様、何かありましたかな?」
「ぬ?……何も気にすることはないぞ」
「……そうでございましょうかの」
普段と異なった少し落ち目のテンションは返って疑問をもたらす。
しかしユラがそれとなく聞いても適当にのらりくらりとはぐらかされてしまった。
「だから何でもないと言ったであろう?」
「……失礼を致しましたな」
「なに、そういう時もあるじゃろて、でなんの資料と照らそうとしておったんじゃ?」
「あ、あぁ……この資料にございます」
ユラがもってきた資料にはかなりの枚数のメモが挟み込まれているだけでなくかなり開閉したのであろう、すでに紙は使い込まれ日焼けしていた。
アウラの目の前でページをめくりとあるページを指し示す。
「ふむ……魔法陣を重ねることについてじゃな」
「えぇ。アウラ様が障壁を抜ける際に行ったことと同じことが書いてあります」
「ちょっとよく見せてもらえるかの?」
「そのために持ってきましたから、どうぞどうぞ。立っているのもなんですからこちらに」
「うぬ、失礼するぞ」
通されるまま研究室の作業机に席を作ってもらう、席と言っても簡単な箱に板を乗っけたような角椅子とも言い難いものだ。
ユラはユラでどこからかかなり危なげない簡素な椅子を取り出してそちらに腰かけた。
……はて、一体誰が始めたものかの。
示されたページをくまなく読み込んでいく。
今回使うまで誰かに教えたことはない、つまり男が教えてなければ……住人の誰かが考え付いたということだ。
その見開きには事細かに重ねる際の基礎的な理論が実験の様子と共に資料として示されており、そこにさらにユラが行った実験や確認が書き加えられていた。
非常に元の資料が丁寧に構成されており理論事態に抜けはないように見えるがしいて難点を上げれば難易度が【錬成】以上に高い。
例えば【錬成】には道具は必要がない、これはアウラがそうしたのであるが一方この魔法陣重ねの理論には非常に精度が高く魔力高伝導な金属をガイトとして必要とし、しかもその結果出力されるのは針の穴の様な一点への効果という。
魔法陣に頼ればある程度は出力も安定性も同じ物が作れるのでその点は省略するとしてもこの道具が非常に厄介だ。
「道具が厄介じゃの……オリハルコンでも山のように求めておるのか?」
「えぇ。それを何とかできないものかと思って色々調べてましてな。そしたらアウラ様があのようになことをされておったというわけですな」
ユラもかなり苦しまされたようで髭をいじりつつ苦笑いを見せる。
確かにこんな要求をされては幾ら魔法的技術があったところで厳しいというものだ。
「……まぁ、こんなきっかけがなくともお主なら興味をしめしたじゃろ?」
「ふぉっふぉっ……確かにその通りやもしれませんなぁ」
しばらくアウラは理論理解に集中し、そのまま無言の時が過ぎ去る。
アウラがパラパラとめくりつつ気にしているのは理論構築の手筈だけではない、だれが作ったのか、だ。
「…………」
奥へ奥へと進むほど挟まれるメモの枚数が減っていく。
そして内容も現状の世界の住人では把握していないような素材を要求し始めたり、そもそも見つかっていないはずの理論を前提として要求してきていたりと奇妙なことになってきた。
――そして、あるページを見たときにアウラですら寒気を覚えた。
ただただ赤い、赤しかない。
余すところなくすべてが赤いページが挟まれていた。
ユラもそれに気が付いたようで反応を示したがなにやら言葉の調子がおかしい。
「……気ガ付きましたか」
「なんじゃこれは!ふざけておるのか?!」
「それを境にワシには一切わからなくなります。わからないというより先に進めなくなるのでございます」
なんというか棒読みに等しい。
さすがに違和感を感じユラの方を見ると……顔がなくなりアウラの真体の様になっていた。
「な、なんじゃその下手な芝居は……そういうのは渡す前におしえてくれんかの」
「……******」
「っ?!そういうことか、ふざけおって!」
アウラも力に制限を駆けずにすぐにユラを元の状態へと巻き戻すべく身体をあのヒトのようなモノへと変貌を遂げる。
そのまま瞳の位置に灯った煌きの光量が増し、創造主の一柱としての力が行使される。
さすがに彼が書き換えられるのはまずい、何が何でも元に戻さねばならぬ、と。
どうせ原因はあの侵略者共の上の者どもだ、今更原因を探る手間は必要ない。
「さすがにお主は世界の損失じゃ。変えさせはせんぞ……」
ユラの根源をたどり、これまでの記憶と世界に残る記憶からユラへの介入を巻き戻す。
そしてユラへとさらに侵攻しようとする改変の力をその場で無効化し、彼が今後も改変されるのを予防する。
あと数刻でも遅ければ間に合わなかったであろう、ユラは徐々に元の姿へと戻りつつある。
「あとはこいつじゃ。なんとまた物騒なものを用意しおって……」
資料に手をあてそのまま中身を抹殺する、間違いなくトリガーはこの資料の中だ。
ユラには悪いが彼の為、この資料の中身はすべて消させてもらう。
代わりに申し訳程度のアウラ自身の魔法陣重ねを文章資料としユラが目覚める前にまとめ始めた。
そういえばユニークPV1万こえたんですよ。(´・ω・`)ワァイ